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Episode.67 婚約者⑦

「…………何のつもりだ。ここは部外者は立入禁止のはずだが」


「………お前、その台詞好きだよな〜」


「質問に答えろ!答えなければ……………」


「答えなければ?」


「うぐっ……………」


「何だよ。早く言えよ」


「だ、だったら、その殺気を抑えろ。お前、僕をどうしたいんだ」


「んなの決まってんじゃん」


「ひっ!!」


「「「「「トール様!!!!!」」」」」


「何?お前ら、そいつ守る気?じゃあ、俺とやるの?」


「「「「「ぐっ!?」」」」」


「お前達、早まるな!!ここは僕に任せてくれ!!」


「何、正義のヒーロー面しちゃってんの?言っとくけど、先に手を出してきたのお前だからな?……………それもよりにもよって、俺の妹に」


「…………悪かった。僕達はどこか勘違いしていたようだ。驕り高ぶっていたとでも言おうか…………とにかく、自分達が一番偉くて望めば、どんなことでも叶うと思い込んでいたんだ」


「僕達?こんな時まで他を巻き込むのかよ。お前、腐ってもこいつらの親玉なんだろ?だったら、自分一人の意思でやったと言って、テメェ一人で責任取りやがれ。どこまでダセェんだよ」


「ぐっ…………」


「ここまでの言動、全部がダセェんだから、せめて生き方ぐらいはカッコつけろよ。そんな最低限のプライドもないのか?男だろ」


「お前…………!!」


「あとお前、形上は謝ってるけど、全然反省してないだろ。言っとくけど、そういうの伝わるから」


「そ、そんなことは……………」


「まぁ、んなのどうだっていいわ。だって、どのみち許すはずないし」


「っ!?そ、そんな!!謝ったのに!!」


「逆ギレすんなよ。人類皆、されたこと全部許してたら、戦争も科学の進歩もなかったんだぞ」


「で、でも!!この僕が!!高貴なはずのこの僕が!!こんな愚民にこんなに頭を下げているのに」


「どこが下げてんだよ。90度直角じゃねぇーか。てか、どんなに謝られても許さねーよ、バーカ。お前はそれだけ俺の大切なものに手を出したんだ。それに玲華の婚約を破棄してもらわにゃいかんから、お前らにはいい加減退場してもらいたいんだよ…………これだけ言ってもまだ理解できねーなら、桶に冷たい水を浸して、そこに頭でも突っ込んでこい」


「貴様っ!!これ以上の侮辱は許さん!!覚悟しろ!!」


そう叫びながら、突っ込んでくる貴(奇)族様(笑)。どこから取り出したのか、その手には直剣のようなものが握られていた。


「くそっ!!くそっ!!くそっ!!…………何で当たらない!?」


「いいぞぉ〜その無鉄砲さ……………でもな」


「っ!?」


俺は繰り返し振るわれる剣を紙一重で避け、それが勢い余って床を叩いたタイミングで剣先を軽く踏みつけた。


「闇雲に振り回してちゃ、当たらんわな」


「っ!?くっ!?…………動かない!?」


俺が踏みつける力を強くすると途端に焦り出す奇族様(笑)。剣が抜けないことにようやく気付いたのだろう。その額には無数の汗が浮かんでいた。


「どかしてやろうか?」


「ふ、ふざけるな!!敵に情けなどかけられたくはない!!」


「いや、情けならもう既にかけてるから。てか、今も隙だらけだし」


「くっ…………」


「分かるだろ?俺がその気なら、お前とっくにこの世にいないから」


「っ!?」


「冗談だよ。そんな顔するなって。一介の高校生である俺に人を殺す勇気なんてある訳ないだろ。てか、何だっけ?この国の法律では殺人が罪に問われてしまうんだろ?だったら、どの道そんなことできる訳ないじゃん」


「お、お前!!一体どこから話を聞いて…………」


「あれ?でも、こうも言ってたな…………… "弱者が法律に守られているんじゃない。強者が法律に守られているんだ"って…………この場合の弱者はどっちだ?」


「っ!?お、お前っ!!ま、まさか、この僕をっ!?」


「おいおい。人の話はちゃんと聞けって、先生に注意されなかった…………か!!」


「うぐっ!?」


俺は言い終わると同時にだいぶ手加減をした頭突きをかました。すると、目の前の奇族様(笑)は痛そうな顔をしつつ、後ろに仰け反りそうになった。しかし、俺がワイシャツの首部分を掴んで自分の方へと引き寄せた為、倒れることはなかったのだった。


「俺、言ったじゃん。そんな勇気はないって」


「う、嘘だっ!!お前は平気で人を葬る目をしている!!それこそ平然とまるで日常生活の延長線上のように」


「知った口をきくなよ。お前が俺の何を知ってんの?」


「そ、それは……………い、痛いっ!?くそっ!」


「無理するな。人に危害を加えることはあってもその逆はないだろ?大人しくしとけって、お坊ちゃん」


俺がそう言うと素直に言うことを聞く気になったのか、大人しくなった。そして、数十秒の間、黙ったままでいたかと思うと急に顔を上げて、こちらを真剣な顔で見つめてきた。


「…………人生でここまで打ちのめされたのは初めてだ。素直に負けを認める。それと本当に申し訳なかった!!数々の無礼を許して欲しい」


そう言うのとほぼ同時で頭を深々と下げてくる貴族。そして、それに倣うように護衛達も同じく頭を下げてきた。


「俺よりも妹に謝罪しろ」


「もちろん。後日、しっかりとさせて頂く……………それにしても貴公は我々よりもはるかに強いな。それこそ、もっと兵隊をかき集め、投入したところで結果は変わらないほどに」


「っつても俺はただ足でお前のおもちゃを踏みつけて、お前に頭突きをかましただけだけどな」


「ははっ…………全く敵わないな………………最後に一つお願いがあるんだが」


「何だよ」


「僕と本気で戦って欲しい」


貴族は剣をしっかりと握り締め、そう言ってきた。その際、カチャッという音が聞こえてきた。まるでそれは貴族の覚悟を表しているかのようだった。


「これに懲りて、妹からも玲華からも手を引くというのならな」


「ああ。約束しよう」


「……………分かった」


俺は貴族の攻撃に備えるように構えを取った。"剣道三倍段"という言葉がある。武器を持った者に素手の者が挑むには三倍以上の実力が必要であるという考え方だ。事実、武器を持っている者が目の前にいるというだけで恐怖心・圧迫感はともに桁違いに跳ね上がる。両者が素人であれば、素手の方に勝ち目はまずない。そもそも自分の腕以上のリーチがあるということ自体、有利なのだ。


「はぁっ!!」


ただし、武器の扱い方が未熟、もしくは素手の相手の方がはるかに実力が上ということならば、武器を持つものは途端に不利になる。隙をつかれて武器を奪われてしまう、または武器を引っ張られるなど逆に利用されてしまえば、たちまちピンチなのだ。しかし、こと現実に限っていえば、そんな実力者などがポンポンいるはずもない…………だから、安心しろ貴族。剣の腕からいって、お前は間違いなく実力者だ。そこは誇っていい。それこそ、ここにいる護衛達よりもその実力は上なはずだ。どんな相手がこようが大抵はお前が勝つだろう。


「………………」


「お前の剣筋、悪くなかったぞ」


鋭く縦に走る斬撃を横に少しズレることで回避した俺はそのままの構えから、貴族…………トールへ向かって体重の乗った綺麗な正拳突きを繰り出した。それはトールの身体のど真ん中から少し横にズレたところへと吸い込まれるように向かっていき、一切のブレなく確実に命中した。


「うぐあっ!?」


苦しそうな声を上げながら、床へと倒れ込んでいくトール。その顔はなんだか憑き物が落ちたかのようだった。








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