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Episode.66 婚約者⑥

「こんな時間までどこで何をしていた?昨日は結局、戻ってこなかったじゃないか」


「ぐっ…………申し訳あり………ません。少々、手間取りまして」


「何だ?身体が痛むのか?いよいよもって何をしていたんだ」


「……………トール様の懸念が的中しました……………例の男、やはり只者ではなかったようです」


「?」


「結論から申し上げますと…………彼らは全滅しました」


「…………は?」


「せっかく、大金を叩いたのに申し訳ありません。まさか、武装した者もいる50人程の集団をたった1人でどうにかしてしまうとは……………完全にこちらの想定外です」


「……………」


「想定外なことといえば、我々が監視・尾行していたことはどうやら最初の時点で気付かれていたようです。なんでも生活が脅かされる訳ではないから、放っておいたとのこと」


「その怪我は…………」


「はははっ……………昨日、あの男を口封じしようとして返り討ちに遭い、このザマです。それで我々は気絶してしまって、起きたら全てが終わっていました」


「………………」


「さらに想定外なことといえば、集団に男の妹を襲わせた際、玲華様もその場に居合わせてしまったようです。その日、男の妹と玲華様は一緒に出掛けていたようで……………公園に寝そべっていたリーダーの男を叩き起こして事情を聞いたので間違いはないかと。嘘をつくメリットは彼らにはないですし」


「なんだと!?彼女に何かあったら、どうしてくれるんだ!!今は大事な時期なんだぞ!!これで足でもついたら…………」


「ま、まさか、こちらのことがバレて……………って、いやぁ〜流石にそんなことは」


「……………」


「だとしたら、相当まずいですよ。奴は我々10人を相手にしてもまだ力を隠しているようでした。呼吸一つ乱れず、我々も気絶するまで何をされたのか分からないほどで……………」


「それでもプロのSPなのか?お前達は機関で専門的な訓練を積んでる。中でもこの僕が選んだ者達だ。それがたかだか日本の高校生相手に負けるはずがないだろう」


「…………あれはそんな次元ではありませんでした。奴を前にすれば、我々の力など児戯にも等しい。今考えれば、我々は奴に遊ばれていたのでしょう……………一体、今までの我々とは何だったんだ」


「訓練そのものを疑うな。あれは決して無駄などではない。ちゃんとお前達の身に糧として宿ってる。ただ、その男がちょっとばかり…………いや、かなり特別なのだろう」


「一体、どこであのような力を……………」


「…………お前達が主に使用する武術は何だ?」


「はい?…………えっ〜と、私は空手です」


「私はムエタイです」


「私は中国拳法を少々」


「シラットを使います」


「テコンドーです」


「私を含めたこの5名はそれぞれ、サンボ・カポエイラ・ボクシング・ブラジリアン柔術・サバットです」


「…………なるほど。つまり、少なくとも奴は10種類の武術に対応できるだけの力がある……………いや、正確にはそれら10種類の武術を体得し、なおかつそれらに対応できるだけの力があるってことだ」


「っ!?そ、そんな馬鹿な!?」


「普通に考えれば、ありえない。たった一つの武術ですら、完全に極めようと思えば数十年単位という莫大な時間が掛かる。基礎だけでも最低五年、筋が良くて三年か……………それを奴は計いくつだ?」


「「「「「……………」」」」」


「しかもまだまだ力を隠している、と……………僕は以前、言ったよね?"弱者が法律に守られているんじゃない。強者が法律に守られているんだ"と。殺人が罪に問われてしまうこの国の法律はある程度の抑止力となり、強者も力を抑えることができる。これがあるのとないのとでは全然話が違う。それもこれも強くなりすぎてしまった者にとっては殺さないようにする方が…………もっと言うと手加減をする方がよっぽど難しいからだ。スポーツとして武道を修めた者と人を殺める際の手段として武術を体得した者、この両者がルールありの試合で戦った場合、勝つのはおそらく前者だ。後者の場合、最も効率良く人を殺める戦術を取ろうとするが、それは禁止行為としてルールの網に囚われてしまうだろう。やりにくいったら、ありゃしない。ちなみにルールなしの戦いだった場合、悪いが武道家は二分と保たないだろう」


「「「「「……………」」」」」


「悪いね。この中には元武道家もいるだろう。でも、別に彼らの尊厳を踏み躙りたい訳じゃない。その志しや姿勢は立派だし、決して実力が足りていないということでもない。ただ、比べる相手が悪い。例えば、ジャングルで食うか食われるかの野生生活を毎日過ごしている者、スラム街のような危険地帯に生まれ、そこで日々を生き抜いた者、自然環境の厳しい土地で自給自足の生活を強いられる者…………彼らにとっては生きる為に殺らねばならない。それだけの緊張感の中で暮らしているんだ」


「奴も同じような環境下で育ったと?」


「……………」


「いやいや!それはおかしいですよ!!奴の家庭環境を調べましたが、どこからどう見ても普通の一般家庭でした。あと、先のリーダーの男に話を聞いたところ、奴はとんでもなく強かったが妹は兄ほどではなかったと。まぁ、それでも武術家としてはかなり強かったみたいですが」


「…………匂うな」


「何が?」


「「「「「っ!?」」」」」


その瞬間、この場にいた全員に緊張感が走った。なんせ、その声がするまでここに彼ら以外の部外者がいるなど思いもしなかったからだ。というか、その気配を察知すらできてはいなかった。


「よっ!」


片手を上げて、意気揚々と歩いてくる男を前にしてトール・ファイゼンは顔を顰めた。今まさに話題に挙げていた男、それが目の前にいて、その足運び・殺気から只者ではないということを確信したからである。


「……………」


「あれ?俺のこと、忘れた?……………ああ、こんな一般人の顔なんて覚えてないか。てか、自己紹介すらしてないから、名前も知らないよな……………まぁ、でも」


「っ!?」


途端、膨れ上がる殺気。これによって身体が動かなくなったトールはただただ次の言葉を待つことしか出来なかった。


「俺のことなんて覚える必要ないよな。だって、お前達は今日ここで俺に潰されて本国へと強制送還されるんだから」


この時、トールは本当に生きて帰れるのか、目の前に立つ男の表情を見て甚だ疑問だった。






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