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Episode.63 婚約者③

「トール様」


「何だ?」


「例の男について、ご報告が」


「…………聞かせてくれ」


「はっ!例の男ですが、やはりトール様が気にかける程の者ではないかと。我々の尾行に気付いた様子もなし、身のこなしや隙の多さなどハッキリ言ってお話にもなりません」


「……………」


「それよりも玲華様とのディナーはいかがでしたか?」


「ああ。僕的には上手くいったよ。ただ、もう少し笑顔になってくれると嬉しいんだけど」


「何かお気に召さないことでもあるんですかね?」


「…………あの男だ」


「はい?」


「きっとあの男のせいだ。現に玲華の話を聞くと高確率であの男が出てくる。そして、何より一旦彼女が席を外したことがあったんだが、戻ってきた時に凄く嬉しそうにしていた。きっとトイレか何かであの男と電話でもしていたのだろう」


「はぁ……………」


「あの男に邪魔され続ける以上、こちらの計画は上手くいかない。だから、次の手を打つ必要があるな」


「一体何を……………」


「……………僕に考えがある」







「もしもし、お兄ちゃん?」


「ん?なんだ、光」


「私、今日は玲華と寄るところがあって遅くなるから。夕飯はどこかで食べてきてくれる?」


「ああ。それは構わないんだが、大丈夫か?遅くなるってことは夜になるんだろ?そんな時間帯に女子2人が出歩くなんて」


「そんなこと言ってたら、放課後はどこも行けないよ」


「いや、だけど…………」


「と・に・か・く・!私なら大丈夫だから!!」


「まぁ、そこまで言うなら……………とにかく、気を付けるんだぞ」


「は〜い」


「知らない人に着いていったらダメだぞ?あと、人通りが少ない場所はなるべく避けて、それから常に隙を見せないよう…………」


「はいはい!了解!!」


私はそう言って無理矢理、電話を切った。全く…………心配してくれるのは嬉しいが、ちょっと過保護すぎじゃないかな?


「先輩、何て?」


「なんか女子2人でその時間帯は危ないとか言って、ずっと心配してんの…………私達はそんな子供じゃないっての」


「…………光ちゃんが羨ましい」


「へ?」


「だって、先輩にそんな心配してもらえるなんて私だったら、凄く嬉しいから」


「あのね、お兄ちゃんが心配してるのは私達2人のことなの……………分かる?」


「もちろん、それは分かってるよ。でも、たぶん先輩にとっては私なんかよりも光ちゃんの方が心配なんだと思う」


「いや、何でそんなことが分かるの?」


「う〜ん。なんとなく…………直感かな?」


「うわ、聞いて損したよ」


「でも、私の直感って当たるんだよ?」


「それ、直感でものかたる人がみんな言うことだから」


「本当のことなんだけどな〜」


「まぁ、その真偽はさておき……………」


私は一拍置いて、玲華をチラリと見てこう呟いた。


「私は玲華の方が羨ましいよ」







「ふぅ〜…………楽しかったね〜」


「うん」


外へ出るとすっかり暗くなっていた。今日はショッピングしたり、新しくできたスイーツ店に行ったりと楽しいことづくめな放課後だった。どうやら、そう思っているのは私だけではないようで隣の玲華もとても良い笑顔をしている。


「ありがとう、光」


「何言ってんの。私が付き合ってもらったんだよ?」


「ううん。光が私を誘ってくれたのって、ここ最近私が悩んでいたからでしょ?」


「………………」


玲華に言われた言葉がズバリ、その通りだった為、私は思わず言葉に詰まってしまった。玲華はそんな私に気付いているのか、いないのか続けてこう言った。


「光はいつも私のことを大切に想って行動してくれるよね。少しでも私の具合が悪かったら、すぐ保健室とかに連れて行ってくれるし」


やめて…………


「私のことを親友だと言ってくれるし、頑張って楽しませてくれようとする」


玲華、お願いだから、やめて……………


「だから、光は私にとっての光なの……………なんか、ダジャレっぽくなっちゃった。えへへ…………」


今日はそんなんじゃない。いつもとは違うの。私は…………私はただ…………


「だから、いつもありがとう」


それが決め手となった。まるで半紙に墨汁を一滴垂らした時のように私の心に罪悪感という名の黒いモヤが広がっていく。これは…………いけない。私には分かる。それはやがて身体全体へと回り、途端に私の全てを蝕みだすのだ。そして、彼女が屈託のない笑みを見せれば見せるほど、そのスピードは早くなる。


「……………」


どうして…………?どうして、こんな思いをしているのだろう。ズキズキと痛む胸を押さえて私はこう思う。玲華は私にとって親友だ。それは間違いない。それに玲華はとてもひたむきで良い子だ。他者を労り、困っている人へ手を差し伸べようとする。私だって何度彼女に救われたか分からない。いつも感謝している。つまり、彼女が私に対して思っていることはそっくりそのまま私が彼女に対して思っていることでもあるのだ。


「玲華」


「ん?」


ただ今は素直にそう言うことはできない。代わりに私はこんなことを言った。


「もしも玲華を連れ出したのが本当に自分の為だとしたら……………もっと言うと()()()()()()()()()()()()()()()()意図があったとしたら………………どうする?」


「光……………」


ああ、私は最低だ。一体何を言っているのだろう……………これは完全な嫉妬だ。私は玲華の目をまともに見れず、俯いたまま言った。


「その言葉にどんな意味が含まれていようと光は私の親友だよ。言っておくけど、見くびらないで…………あんたに何をされようが私はあんたのこと嫌いになったりしないから」


「っ!?」


その言葉は真っ直ぐと私の胸に突き刺さり、まるで返しのついた銛のように引っかかって抜けることはなかった。


「…………そろそろ帰ろうか」


「……………」


それはこの状況からいち早く抜け出したいが為に言ったのか、はたまた私を気遣ってそう言ったのか……………


「…………そうだね」


どちらにせよ、今の私にはこう返す他道がなかったのだった。







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