Episode.6 招待
「おはよう、塔矢」
「おはよう、お兄ちゃん」
「ああ。おはよう美鈴、光」
次の日、俺がリビングへ降りるとそこには全員が揃っていた。昨日は光の部屋で全員寝たらしく、この様子を見れば起きる時も仲良く三人でだったみたいだ。朝なのに非常に絵になる三人だ……………なんか三人を見ていたら、感想が俳句っぽくなってしまった。
「おはようございます、塔矢くん」
「ああ……………おはよう、静」
静への挨拶を若干、緊張しつつ行った俺は椅子に座りつつ、光の出してくれたコーヒーを啜った。しかし、次の瞬間…………
「ぶっ!?」
向こうの方から物凄い形相で睨み付けてくる美鈴の視線に驚いた俺は思わず、飲んでいたコーヒーを軽く吹いてしまった。
「塔矢〜?静のことをどうして名前で呼んでるのかしら?それと静の塔矢に対する呼び方も変わっているみたいだし」
「お、お前だって呼んでるんだから、いいだろ」
「私のとは全然意味合いが違うの……………おそらく、多分、いいえ絶対に」
「そ、そうか?」
「一体、昨日の夜に何があったのかしら?」
「い、いや夜はお前ら一緒に寝てただろうが」
「ん〜じゃあ、深夜か。へ〜そう。深夜にこっそりと抜け出して逢い引きしてたんだ………………塔矢もやるようになったわね」
「ち、違うぞ!喉が渇いたからキッチンへ向かったら、リビングに静がいたから」
「それでたまらず、静に手を出したと。へ〜」
「ちょっ!?俺はそんなこと」
「冗談よ」
「へ?」
「塔矢が軽はずみでそういうことをするはずないって分かってるから……………ただ、深夜にコソコソ話したいなら、私も呼んでくれても良かったのになと思って……………私だって、もっと静とも仲良くなりたいし」
「美鈴さん……………」
美鈴の言葉を聞いた静は感極まった様子となり、徐に美鈴へと近付いた。そして、いきなり美鈴のことを抱き締めたのだった。
「ち、ちょっと!?」
「美鈴さん!健気でとっても可愛いです!!私も美鈴さんともっと仲良くなりたいです!!」
「静!や、やめてよ!!仲良くなりたいっていってもこういうことがしたい訳じゃないから!!……………ちょっと!塔矢も光もニヤニヤしてないで助けてよ!!」
そこから数分間、なすがままの美鈴を横目で見つつ、俺達は穏やかな時間を過ごしたのだった。
「今回のお礼として、今日は私の家へと招待させて頂きたいのですが」
あの後、そう告げた静はなんと俺達を自宅へと招待してくれた。ちなみにクラスメイト達の想像通り、静は正真正銘のお嬢様であり、自宅は屋敷と呼べるほど大きかった。そもそも家の前に真っ黒の長い車が停まっていた時点で色々と察してはいたのだが。
「「「……………」」」
とにかく、俺達三人はというとそのあまりのスケールに呆然と屋敷を見上げることしかできず、しばらく無言の時間が訪れた。すると、突然屋敷の扉が開き、中からしっかりとしたスーツを着こなした物腰の柔らかそうな男性が現れた。
「静の父、皇勤と申します。今日はよく来てくれた。娘がだいぶお世話になったみたいだね。さぁ、上がってくれ」
綺麗な一礼をしたその人物、静のお父さんは軽く微笑むと俺達を中へと招き入れてくれた。
「さぁ、かけてくれたまえ」
そして、食堂のような場所まで案内してもらい、俺達はお言葉通り、礼を言ってから椅子へと腰掛けた。
「本日はありがとうございます。そして、突然押しかけるような形となってしまい、申し訳ございません」
ぱっと見はとても優しそうな人だが、それでも最低限の礼儀が必要だと感じた俺はそう言った。
「いや、いいんだよ。今日のこれは娘が言い出したことなんだ。むしろ、謝るのはこちらの方だ。何か他に予定とかがあったんじゃないのかね?」
「いえっ!こんな凄いお屋敷にお邪魔させて頂く以上の予定なんてこの世には存在していません!!」
「はははっ!随分と面白いことを言うね……………君、名前は?」
「わ、私は蒼生高校の二年、三海美鈴と申します!!」
とても緊張した様子で自己紹介をする美鈴。こんな美鈴は珍しいな。
「そうか…………君が。娘から話は聞いているよ。娘と仲良くしてくれて、ありがとう」
「い、いえっ」
「それで…………君は?」
「はい。私は蒼生高校の一年、春日伊光といいます」
「春日伊…………なるほど。話に聞く春日伊塔矢くんの妹さんだったかな?」
「はい。塔矢は私の兄にあたります」
「そうか」
ん?光の様子もどこか違うな。いつものようにはっちゃけている訳でもかといって緊張してガチガチになっているという訳でもない。これは…………そう。まるで落ち着いているような、そんな気さえする。一体、どうしたんだ?
「最後に君が」
「蒼生高校二年、春日伊塔矢と申します」
「やはりか……………なるほどねぇ」
「?」
静のお父さんは二人の時とは違い、俺の顔をじっくりと見てきた。その表情はなんというか………………しかし、どういったらいいのか、俺には表現することができなかった。
「三人とも娘に良くしてくれて本当にありがとう。ここでは自分の家だと思って、寛いでいってくれ」
それから俺達はとても和やかな時間を過ごすことができた。と同時に何故かは分からないが静の家にいる間中、胸が締め付けられるような感覚に襲われていたのだった。