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Episode.59 人という字は

「俺達の関係性…………?」


「ああ」


「…………それのどこがおかしいっていうんだよ」


「はっきり言って、お前達の関係性は普通じゃない」


「おい。まさか、お前までクラスの連中みたいに"恋人"や"夫婦"だとか言って囃し立てるんじゃないだろうな?悪いがそういうのは小学生の時から聞き飽きてんだが」


「いや、そういうのじゃない……………まぁ、どちらかというとそっちの方がまだマシだったかもな」


「?」


俺の訝しげな視線もなんのその、浩也は鋭い表情を崩すことなく、俺へこう告げた。


「お前らの関係性、それは一言で言うと……………共依存だ」


「共依存……………?」


「共依存とは特定の相手と依存し合う関係になることで恋愛・友人・親子などその関係性は多岐に渡る」


「いや、意味ぐらいは知っているんだが……………俺が言いたいのはそういうことじゃなくて」


「まさか、そんなことを言われるとは思いもしなかったとかか?」


「あ、ああ……………正直、寝耳に水だ」


「だろうな。だが、安心しろ。お前らの関係性がそう見えているのはおそらく俺だけだ」


「……………」


「思い返してみろよ。今まで三海に対して、異常な執着心が芽生えたことはなかったか?」


「……………いや」


「修学旅行」


「?」


「俺と三海が一緒にいるところを見て、お前はどう感じた?」


「いや、あれは…………」


「もしかして、三海に対して特別な感情を抱いていて俺に嫉妬した…………とでも思っているのか?」


「…………違うのか?」


「いいや、違う。あれはお前の独占欲からくるものだ。それも源流は共依存だ……………どうして、そんな関係性になっているのかは分からんがお前は三海が自分の手から離れていくのが耐えられないんだ。まるで天塩にかけた娘を嫁にやる父親のような………………いいや、状況はもっと最悪だ。はっきり言って、お前達は歪だよ」


「っ!?なんでそうなる!?それにお前が言ったことが事実だと決まった訳じゃ……………」


「俺が今まで不確定なことをお前に言ったことがあるか?」


「……………」


「厳しいことを言うようだが、これは紛れもない事実であり現実だ……………なぁ、塔矢。一体どうするつもりだ?このまま、その関係を続けていくって訳にもいかないだろ?」


「俺は……………」


「このままの状態でどちらかに恋人でもできてみろ。事態は最悪を極めるぞ」


「………………」


「塔矢…………」


「…………俺は美鈴のことを大切に想ってる。だから、例え今の関係がどうであれ、あいつが困っているのなら力になりたいし頼って欲しい……………これはそんなにいけないことなのかな」


「いいや。それ自体は素晴らしいことだと思う。ただ…………」


「ああ、分かってる。今の関係がお前の言うものだとすれば、いずれ解決しなくちゃいけないのは確かだ……………でも、今回だけは目の前のことだけに集中させてくれないか?」


「つまり、今は三海の転校をどうにかし、それが解決した後に改めて関係性を見直すと?」


「ああ」


「そうか……………よし、分かった」


「悪いな」


「いや、俺の方こそ余計なお節介を言って悪かった……………ただ、せっかく楽しい学生生活を過ごしてんだ。あいつらにはその時間を失って欲しくないと思ってな」


「…………そうだな」


「もちろん、お前と三海にも…………な」


「おいおい。そこにお前は含まれてないのかよ」


「俺のことはどうでもいいんだよ…………それよりも頑張れよ」


「ああ。どうにかしてみせる」


昔、どこかの誰かが言ったらしい。"人という字は人と人とが支え合ってできている"と。だから、今日まで人間社会というものは存続していけたのだろう。誰かが困っていたのならば、手を差し出す。それが友人や恋人、家族など親しい間柄ともなれば当然のことだ。今回、俺は浩也に背中を押してもらった。だからこそ、俺はそれに応えなければならない。


「……………」


屋上を後にした俺は携帯を手に取り、メッセージの発信先の部分を見つめた。この火が消えないうちになんとかしたい。しかし、それは若者特有の身勝手で無鉄砲な行為に他ならないだろう。


「ま、若気の至りか……………悪く思わないで下さいよ」


俺は周囲に誰もいないことを確認するとそっと指を動かした。文字が打たれていくのと俺の鼓動がシンクロし、思わず指が滑りそうになる。俺は心を落ち着け、ゆっくりと言葉を間違えないように打っていった。そうして、打ち終わると宙を見上げ額に手をやった。大丈夫だ、もう熱はない。俺は至って冷静にその場を離れると次は美鈴へと連絡した。そして、その週の日曜日、俺はとある人物と向かい合って座っていた。


「久しぶりだね、塔矢くん」


「お久しぶりでございます」


「こうやって向かい合って話すのなんて何年振りだっけ?」


そう。目の前で優しげな笑みを浮かべるこの男性こそ、美鈴の父である堅治さんだった。







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