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Episode.55 桜の花びら舞う中で

今日は卒業式だ。桜の花びらが舞う中を皆、思い思いの表情で通り過ぎていく。まだ式までは随分と時間があった。しかし、今日が最後の日だからとわざわざ早く来て友人達と語らい、校舎を物悲しそうに見つめている生徒が大勢いた。今までも別れを惜しむ時間はあっただろう。後悔しないよう学校生活を精一杯過ごし、嬉しさも苦しみも骨の髄までしゃぶりきっているはずだ。もう心の準備は十分だろう。だが、それでもいざ当日を迎えると色々と胸に押し寄せてくるものがあるのだろう。


「俺達も来年はこんな感傷に浸ることがあるのかな?」


「きっとあんたはそうよ。浸りすぎてワンワン泣くかも」


「え〜案外ドライかもよ?きっと周りで泣いている人達を見て、"なんだこいつら?"とか思っちゃったり」


「お前は俺をなんだと思ってるんだ?」


「そうよ、光。あんたは知らないかもしれないけど、塔矢はすんごく優しいんだから……………それにちょびっとだけ頼りになるし……………ほんのちょびっとよ?ちょびっと…………ボソッ」


「…………そんなの知ってるし。美鈴ちゃんが知り合うよりも前から私はお兄ちゃんのこと知ってるんだから…………ボソッ」


「お前ら、何をボソボソと言ってるんだ?」


こうしている間にも次々と登校してくる卒業生達。俺達はそれを見ながら頃合いを見計らって移動を開始するのだった。








式はつつがなく進行し、綾乃さんの完璧な答辞で以って閉会となった。俺達はそれを在校生として見届け、卒業生達の勇姿をしっかりと海馬へと刻みつけた。


「うわーん!!」


「悲しいよー!!」


「別の大学行っても絶対に連絡するから!」


「うん!私も!!」


体育館から校庭へとぞろぞろ出てくる卒業生達の言葉を聞きながら、俺達はとある人物を待っていた。にしてもみんな涙を流しながら、別れを惜しんでいるな。


「嘘つけ。ああいうのは絶対、疎遠になるぞ」


「ちょっと!そんなこと言わないでよ!」


「あれ?中学の卒業式で全く同じことを言ったのはどこの誰だっけ?そんでそれ以来、その同級生と一切連絡を取らなかったのは……………」


「そ、そんな昔のことは忘れたわ!!」


「随分と都合の良い脳だこと。まぁ、そんな高性能な脳ならば刻みつけた卒業生達の勇姿もきっと残り続けることだろう」


「うん!彼らのことは絶対に忘れないわ!!」


「嘘こけ。中学ん時も同じことを言って、二時間後にはケロッと忘れてポテチ食ってた癖に」


「な、何でそんなこと覚えてんのよ!?」


「俺はお前の黒歴史だけは覚えてんだ。そういうクイズがあったら全問正解できる自信がある」


「性格悪っ!?もっと他のことも覚えていてよ……………例えば、私とその」


「もちろん、他のことも覚えてるぞ。お前との思い出は全て大切だからな」


「塔矢……………」


「二人とも、そんなピンクな空間作ってる場合じゃないって」


「色を付け足してやろうぜ。桜も舞ってるし、ちょうどいいじゃないか」


「あーはいはい……………っと、ほら!来たよ!!」


そう言って向こうの方を指差す光。つられて目をやるとそこには人垣を割りながら堂々とこちらに向かって歩いてくる綾乃さんの姿があった。


「「「ご卒業おめでとうございます」」」


「ありがとう」


卒業証書の入った筒を肩に乗せながら、軽快に挨拶を返す綾乃さん。その表情からは他の卒業生達と違い、悲しくて寂しくて仕方がないといった風ではなかった。


「うっ…………別に悲しくて寂しくて仕方がないなんてことないぞ」


という訳でもなさそうだった。どうやら、綾乃さんにも人並みにそういった感情はあるらしい。ただの堅物武人馬鹿ではないようだ。


「ん?今、失礼なことを考えただろ」


ぎくっ!?なんて勘の鋭さ!!もしも綾乃さんと付き合えば浮気などまずできないだろう……………まぁ、俺は彼女一筋ですから?別にそんなのする訳ないんだけど?てか、その前にこのままじゃ彼女なんてろくにできないんだけど?


「うっ…………悲しくなってきた」


「塔矢くん……………私の為にそこまで泣いて」


やば。なんか勘違いされた……………まぁ、いいか。


「綾乃先輩、卒業しても私達は友達ですから」


「ご迷惑でないのなら、連絡させてもらいます」


「随分と嬉しいことを言ってくれるじゃないか……………まぁ、私も同じことを感じていたんだがね」


「「綾乃先輩…………」」


なんか女子ズの雰囲気がすこぶる良いな。これは空気に徹していた方が良さそう。


「ところで塔矢くん…………君はどんな言葉を掛けてくれるのかな?」


……………とか思ってたら、急にこっちにきた!?や、やばっ!?油断してた!!


「さぁ、嘘泣きも済んだことだし……………楽しみだな」


「いや、嘘泣きって」


「私のことを想っての涙でないのなら、それは嘘泣きだろう」


あ、バレてた。


「「ほら」」


美鈴と光が両側から肘で押してくる。俺はそれに促されるまま、前へと一歩進み出た。


「…………いつでも会いに行きます」


「っ!?」


「「ほ〜これはこれは」」


俺の言葉に赤面して狼狽える綾乃さんと何故か、握り拳の上に顎を乗せながら頷く二人。一体なんだ、この図は……………


「き、君も言うようになったじゃないか」


「そうですかね?でも、本心ですから。だって、ずっと一緒にいた人と離れ離れになるのは……………寂しいですよ」


「「「……………」」」


俺の言葉に静まり返る一同。やはり、みんな気持ちは同じということだろう。現に三人の目頭には光るものがあった。


「さて…………じゃあ、この話の続きは向こうに行ってからにしますか。静と玲華も綾乃さんのことを待ち侘びていますし」


そう。今ここにはいない二人にはパーティーの準備を任せていた。その名も"お疲れ様パーティー"…………綾乃さんの卒業を祝した催し物である。ささやかなものではあるが綾乃さんへの贈り物も用意しているし、光の手料理やお菓子・ジュースなども並ぶ、俺達にとってはとても幸せな会だ。


「そうだな。そろそろ行こうか…………パーティーの主役がいないんじゃ興醒めもいいところだろうからな」


「それを自分で言いますか?」


綾乃さんのボケに美鈴の鋭いツッコミが入る。パーティー会場までの道中は終始わいわいとしているのだった。








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