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Episode.52 年が明けて

「今年ももうすぐ終わるね〜」


「あ〜そうだな〜」


大晦日。こたつに入る光を背後から抱き締めながら、間延びした声でそう言う俺。しかし、この文章を見た者は俺のことをシスコン野郎とひどく罵るかもしれないが、ちょっと待ってくれ。これはそもそも光からお願いされたことだし、毎年こうするのが我が家の伝統行事なのだ。現に光も非常にリラックスしており、ギャグ漫画に出てくるキャラクターのような表情をしている……………てか、どうやったんだ?その表情。


「…………あ、今年も色々とありがとうございました。来年度も是非ともよろしくお願い致します」


「こちらこそ、今年も色々とありがとうございました。来年度もどうぞよろしくお願い致します」


毎度の決まり切った挨拶をする俺達。その後は年が明けるその瞬間までお互い無言でのんびりと過ごした。


「「…………あけましておめでとうございます。今年もよろしくお願い致します」」


そうして待つこと数分、年が明けた。ここでもやはり俺達は決まり切った挨拶をし、お互いにそれを当たり前のこととして受け入れていた。さっき挨拶したばかりじゃんとかそういうのは言いっこなしだ。俺達が納得していればそれでいいのだ。ちなみに挨拶をする際はお互いに身体を離し、正面から向き合ってする。そして、挨拶を終えるとまた元の状態へと戻るのだ。これを最初、浩也に言った時は"それはどんな種類の刑罰だ?…………主に光さんにとって"と心外なことを言われたもんだ。


「全く……………何が刑罰だよ。これは光に頼まれて仕方なくだな…………」


「え?そうなの?お兄ちゃん、本当はこんなことしたくなかったんだ……………ごめんね」


「いやっ、そのっ!?……………挨拶する度に身体を離して、またくっついてってやってたら、なんか意味わかんないだろ?だったら、最初から離れていれば……………って、そんな顔するなよ。ほれ…………よしよし」


「うわっ!?ちょっと!?」


俺の言葉を受けて、だんだんと捨てられた子犬のようになっていく光を見ていられず、気が付けば俺は彼女の頭をかなり乱暴に撫でていた。


「もうっ!髪がぐしゃぐしゃになるじゃん!」


「っと!……………悪い。その顔を見ていられなくって、ついな」


「だからって、こんなことするのは違うじゃんか。髪は女の命だぞ!」


「悪かったって!後でアイスでも買ってやるから」


「えっ!?本当に!?よっし!言質取った〜」


「えっ、いや、おい」


「ふんふんふ〜ん♪」


「……………まぁ、いいか」


上機嫌に鼻歌を歌う光を見て、ほっこりとした俺はその後も穏やかな時間を過ごした。そして、こんな感じでゆるりと三が日も過ごし、気が付けば冬休みは終わっていたのだった。








「「「う〜寒い寒い寒い」」」


静と綾乃さんを除いた女子ズが身を寄せ合って縮こまる。その様はまるで冬籠りをするリスのようであり、なんともまぁ…………可愛くはあった。悔しいけど。


「おい、お前ら。寄り合いに参加してる婆さんじゃないんだから、もっと年相応のだな…………」


「そんなこと言ったって寒いもんは仕方ないでしょ!」


「そうです!私達はいけなくないです!!強いて言うなら、国が悪いんです!!」


「う〜こりゃ、たまらん」


「…………ちなみに静と綾乃さんは平気そうだぞ?」


「あ、私は寒さに強いので例外かと」


「私は鍛えているからな。これしきなんともない」


「「「……………」」」


「わ、悪かったよ。この人達が異常なんであって、お前らはおかしくない!だから、そんな顔で見るな」


「「い、異常!?」」


寒空の下、二人の声が響き渡る。そもそも何故こんな寒い中、わざわざ集まっているのかというと……………


「まさか、昼休みに屋上で鍋をつつくことになるとはな」


「いいじゃない。それに玲華も興味あるみたいだし」


「すみません、美鈴先輩」


「いいのよ。私もちょうどやりたかったし」


「でも、この学校って不思議ですよね。夏は特になにもないのに冬になると鍋道具一式を貸し出していたり、それに付随して鍋に使う具材まで売り出しているなんて」


「まぁ、そのおかげで購買や食堂はとんでもないことになってるけどな……………静が今までいた学校ではこんなのなかったのか?」


「ええ。というか、他のどの学校よりも珍しい気がします。こういったのはやはり聞いたことがないので」


「へ〜…………世界は広いんだな」


「まぁ、まだ国内の話しかしていませんが」


「それよりもびっくりなのが冬になると昼休みが30分も多いことだよ!そっちのが聞いたことないよ!」


「光の言うことも分かるが一時間しかないと最悪、鍋を食べ終わらないかもしれないだろ」


「あ、やっぱそこ基準なんだ」


「学校側はそこんとこをよーく考えてくれてるんだよ」


「もっとマシなことを考えなさいよ」


「いいだろ?そのおかげで俺達もこうして温かい鍋を頂けるんだから」


「うん。なんともまぁ、贅沢な昼休みだな」


この後、それぞれの感想を持ちながらも俺達はゆっくりと鍋を楽しんだ。やはり、みんなで食べる鍋はいい。


「お兄ちゃん、楽しいね」


「ああ」


「たまには二人きりじゃないのもいいね……………また、こうして集まりたいな」


「集まれるだろ……………だってさ」


そこまで言ってから、俺は少し離れた場所に座るみんなの様子を眺める。すると、光もそれに倣って同じ場所を見てから眩しそうに目を細めた。


「あんなに楽しそうなんだからな」


「…………うん」


そこには笑顔で話に花を咲かせるみんなの姿があった。俺と光はそれを満足そうに眺めると顔を見合わせて微笑み合うのだった。











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