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Episode.51 夜を疾る

「色々あったけど、こうして無事にクリスマスパーティーが開けてなによりです!……………では!メリークリスマス!!」


「「「「「「メリークリスマス!!!!!!」」」」」」


グラス同士がぶつかり合う小気味のいい音を奏でながら、宴が開かれる。卓上にある料理からは思春期少年の腹を刺激する芳しい香りが漂い、それに釣られたトナカイの着ぐるみを着た約一名が物凄い勢いで貪り食っていた。はっきり言って、かなり怖い。


「乾杯の音頭、お疲れ様」


「おぅ」


隣までやってきて声を掛けてきたのは光だった。現在、彼女は真っ赤なドレスに身を包み、白いパールのイヤリングと金のネックレスをつけ、さらには結構な高さのある赤いヒールを履いていた。とても綺麗に着飾っており、俺が兄という立場でなければクラスの男共同様、デュフデュフ言っていたかもしれない。


「お兄ちゃん、鼻息荒いよ」


すまん。既に言っていたわ。


「別に乾杯の音頭くらいはわけないさ。頼まれれば、いつでもやるぞ」


「私が言った"お疲れ様"はそれだけのことじゃないよ」


「ん?……………ああ」


うちの妹はかなり聡い。どうせ、今回俺が裏で動いていたこともあらかた分かっているのだろう。全く……………勘のいい妹を持てて俺は幸せだよ。


「俺は特になにもしていない。頑張ったのはあいつらだ」


「でも、そのキッカケは紛れもなく誰かさんだった」


「………………」


「その誰かさんはいつも一生懸命。大切な人の為ならば、自分を犠牲にしてでもなんとかしようとする」


「そんなことはない」


「そんなことあるよ……………だから、周りの人間が心配するの。大丈夫かな?無理してないかな?…………って」


「………………」


「お兄ちゃんはね、いつも自分のことを度外視しすぎ。もっと自分を大切にして欲しい。もしもお兄ちゃんの身に何かあったら大変だよ?……………主に私が」


「お前かい……………てか、誰かさんじゃないのか?せっかく、代名詞使ったのに」


「茶化さないの!今、良い話してるんだから」


「いや、俺は正当な主張をだな……………あと、良い話って自分で言うことじゃないぞ」


「うん?何かな?」


「すみません。なんでもないです」


「よろしい」


そこでわざとらしく咳払いを一つした光は改まって、こう言った。


「とにかく、助けが必要だったら誰かに頼ること!お兄ちゃんの周りには助けてくれる人が沢山いるんだから!あ、その筆頭が私ね」


笑顔でそう言う光を見ているとなんだか心の奥底から、じんわりとした温かさが登ってくるような感じがした。こいつはいつだってそうだ。気が付けば俺の隣にいて、支えてくれようとする。でも、決して肩代わりしてくれる訳じゃない。重たい荷物があれば、二人で一緒に持とうとする。つまり、それは苦しみも悲しみももちろん楽しいことだって、分け合って生きていこうという考え方なのだ。そして、この考え方は俺にとって、とても心地の良いものだった。


「そうか…………じゃあ、早速だけど助けを借りてもいいか?」


「うん。なにかな?」


「あそこのテーブルを飛び回っているバカをなんとかしてくれ。正直、俺だけじゃ荷が重い」


「あー……………なるほどね」


「ここ、人ん家だぞ。遠慮とかはないのか…………まだあの寛大な静の家だから良かったものの、他の人だったら締め出しているかもしれんぞ」


「まぁ、鈴木先輩はそういう人だからね……………それに今日は無礼講だって言ってたよ」


「それは家主が言う台詞であって、間違ってもあのバカが言っていい台詞じゃない」


「でも、いくら鈴木先輩でも流石に限度は弁えているでしょ」


「…………笑顔なのにこめかみをピクピクさせてる静を見てもそう言えるのか?」


「うん、止めようか」


その後、俺と光でバカを落ち着かせ、美鈴が静を宥めるというチームプレーでなんとかことなきを得た。そして、パーティーは終始みんなの笑顔で溢れ、とても幸せな一日となったのだった。









私は走っていた。塔矢さんから話を聞いて居ても立っても居られなくなったのだ。私には親友……………と呼べるほど大切な人がいる。しかし、ここ最近はすれ違いや遠慮が先行して、まともに話をすることすらできていない。一体いつになったら、私達は元のような関係に戻れるんだろうか…………もしかして、一生このままとか……………なんてことも考えた矢先、私は衝撃的な話を聞いた。なんと向こうも私のことを本当に大切に想ってくれていて、ずっと悩み反省の日々を送っていたらしいのだ。私はそれを聞いた時、とても嬉しかった。家や自身の都合上、あまり友人が多くはない私にとって、彼女はほぼ初めてできた親友だったからだ。そんな人が私の前からいなくなってしまうかもしれない………………そう考えるだけで私は悲しかったし怖かった。そうして彼女のことを考えるうちに私にとって彼女とは一体どういう存在なのかを理解した。と同時にこれは私の独りよがりなのかもしれない…………向こうは私が想う程はこちらを想ってくれていないかもしれない……………と考えるようになった。でも、それは大きな間違いだったのだ。


「はぁ…………はぁ……………」


この走り方はとても疲れる。それはそうだ。慣れていないのだから。あの日、見たものをそっくりそのまま真似しているだけ。塔矢さんに言わせれば、とてもお粗末なものでしょう。でも、この走り方が一番いいのだと思う。私はあの日見たあの走りを絶対に忘れない。初めてだ。他人の走りをあんなに美しいと思ったのは。それほどのものを塔矢さんは持っていたということになる。それが元々なのか、それともどこかのタイミングで身につけたのかは分からない。でも、塔矢さんには何かしら秘密があるというのは薄々察していた為、さして驚きはなかった。そして、多分それは幼馴染みである彼女も同じことだろう。彼女であれば私の知らない塔矢さんの顔をいくつも……………やめよう。今から正式な仲直りをしにいくのだ。その相手に嫉妬してどうする。


「ふぅ〜……………よし」


私は気合いを入れ直して、携帯を手に取る。もう彼女の家の前まで来ていた。ここで引き返すという選択肢はない。しかし、いきなり訪ねるというのは流石に迷惑だろう。だからこその事前連絡。それと家の前にいれば、私のことを不憫に思って飛び出してきてくれるかもしれないし、家の前で電話をかければ帰って欲しいと言われる可能性を少しでも減らすことができるかもしれない…………という淡い期待とずるい考えが半々に入り混じっていた。相手の情に訴えかけるという決して褒められた手ではないが、手段など選んでいられる余裕はなかったのだ。というか、そんなことより今はただ……………


「美鈴さんに会いたい」


その想いだけで電話のアイコンをタップする。そして、私は数回のコールの後に待ち望んだ声を聞くことになる。それからのことは……………まぁ色々とあり、私達は笑顔でクリスマスパーティー当日を迎えることができた。みんなに散々頭を下げ、やっぱり参加したい旨を伝え、その際に少しでも罪滅ぼしになればと私の家を会場として提供させてもらった。会場ではみんなとても楽しそうにしていて、"ああ………参加させてもらって良かった"と心の底から思った…………若干、一名だけはしゃぎすぎでは?と思ったけど立場上、それを強く言うことはできず、なんとか顔の痙攣だけに留めておいたというのはあったけど……………それでも私としては今回のクリスマスパーティーは大成功だったんじゃないかなと思った。


「……………」


ただ、一つ気になることがあった。それはあのパーティーの最中、何度も視線を感じることがあったことだ。それが一体、誰から向けられたものでそこにどんな意味があるのかは分からないけれども今後、何かしらの影響がありそうな気がしてならなかった……………それこそ、私達の関係性が再び大きく変わってしまうようなことに。







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