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ヤクソク〜交わしたのは誰と〜  作者: 気衒い
第一部

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Episode.48 おもい

「それじゃ、皇と三海は欠席ってことで本当にいいんだな?」


「…………はい」


「…………うん」


現在、ファミレスのとある席では非常に重苦しい空気が立ち込めていた。あの色々とあった修学旅行が終わって数日が経った。学年の違う三人は俺達の土産(話)を期待し、その帰りをソワソワしながら待っていてくれた。本来、夕方前には地元へと辿り着き、その流れでみんなでファミレスでも行こうかと話をしていたのだが、俺と美鈴が色々あって時間がズレてしまった為、それもなくなってしまったのだ。どうやら三人はそこで色々と訊きたいことがあったらしく、集まれないのを残念がってはいたのだが、こうして集まることができたのでそこは結果オーライだった……………まぁ、目下の問題はそんなことではないのだが。


「……………一応、理由を訊いてもいいか?」


「その………………その日はちょうど用事がありまして」


「わ、私は急に親戚の法事が……………」


浩也の問いに視線を逸らしながら答える二人。側から見れば、嘘の言い訳をしているのは明らかだった。


「皇、では何故話が最初に出た時点で"行けない"と言わなかった?こんなギリギリになって言うのは楽しみにしている他のメンバーに失礼だろ」


「わ、私もこの間まで忘れていて……………あの、思い出したのがつい最近なんです」


「では何故思い出した時、すぐに言わなかった?仮に忙しくて会えなかったとしても連絡手段はあったはずだ」


「……………」


「そして、何より……………それが嘘だってバレないと本気で思っているのか?」


「……………」


「三海」


「ひゃっ!?な、何!?」


「お前の場合は…………」


「わ、私のは仕方ない理由でしょ?文句はないわよね?」


「それが本当のことならな」


「……………」


「なんだ、その"アルバイトを急に休む奴がよく使う口実"みたいなの……………三海はそんなことを言わないと思ってたんだが」


「な、何よ…………私はただ」


「人の死を利用するような嘘をつくな…………普段の三海なら、分かることだろ?」


「っ!?」


浩也の言葉に静まり返る席。二人はもちろんのこと、綾乃さんや玲華、光までもがただ黙って成り行きを見守っていた。にしても普段はおちゃらけているだけにこうして急に真面目になった時のこいつの破壊力は凄まじい。とはいっても俺もこいつのこういう姿は数回しか見たことないのだが。


「てか、二人ともそれが本当の理由ならば、もっと堂々と、そして申し訳なさそうに言うわ…………そんな焦って目を泳がせながら、あらぬ方を見るんじゃなくてな」


「「……………」」


「まぁ、俺の方からは以上だ……………で、塔矢。お前の方からは何かあるか?」


「俺は……………パーティーに出るよ。綾乃さんや玲華、それに光だって楽しみにしてる訳だし」


「おい、俺は?俺だって楽しみにしてるんだけど!!」


「ん?お前って企画者ってだけだと思ってたけど…………参加すんの?」


「おい、トゥーヤ!企画させるだけでさせといて、参加すらさせないとは何事だ!!」


「いや、勝手にしたのお前だから。それにあの時の玲華に対しての態度を考えると俺はどうにも参加させたくないんだが」


「酷い!?」


「どう思う?玲華」


「全然酷くないです。妥当です。あと鈴木先輩、キモいです」


「ぐはっ!?」


このやり取りに思わず笑いが起きる席。しかし、どうにも二人だけは俯き一点を見つめて微動だにしなかった。おそらく浩也が問いただしたのはみんなの為だけではない。浩也は二人に問うたのだ……………本当にそれでいいのか?と。


「そろそろ帰るか」


「そうだな」


「塔矢くん、この後うちに来るかい?父と祖父がいい加減連れて来いってうるさいんだ」


「えっ!?お兄ちゃん、いつの間に綾乃先輩と家族ぐるみの付き合いになったの!?」


「…………塔矢先輩?後でお話があります」


「綾乃さん!余計なこと言わないで下さいよ!!光は話を大きくややこしくするな!!それと玲華さん、怖いよ!!」


チラリと窓の外を見やるとそろそろ夜がやってきそうな気配がした。どうやら知らぬ間にだいぶ時間が経っていたようだ。


「「……………」」


相変わらず、二人は暗い表情のままだ。どうしてこうなってしまったのだろうか……………俺にはそれが分からなかった。こうして俺達はそれぞれの想いを抱いたまま解散となった。流石に空気を察したのか、最後まで綾乃さん達の口から修学旅行の話が出てくることはなかったのだった。








夜。静まり返った部屋の中で私は机の上に置かれた写真立てをそっと手に取った。


「……………」


それは幼い頃に撮られた一枚で私とある男の子がカメラ目線で写っていた。


「ふふっ」


当時のことを思い出して笑みが溢れる。これはカメラマンに急に名前を呼ばれて、思わず振り返った時に撮られたものだ。だから、二人ともなんとも間の抜けたような顔をしていた。そこには子供特有のまだまだあどけなさの残る顔つきで見る者全員を笑顔にするような魔力が秘められていた。


「………………」


私は目を瞑り、その男の子に思いを馳せながら優しく写真を撫でた。すると、まるでその部分が熱を持ったように熱くなった気がした。


「春日伊…………塔矢くん……………」


愛しいその人の名を呼び、今度はあのハロウィンパーティーの時のことを思い出す……………ああっ、あれは実にいい夜だった……………


「また会いたいな……………今度はちゃんと仮面を脱ぎ捨てて」


それから私は頭の中でその人のことだけを考えながら眠りについた……………すると、夢を見た。ラベンダーの良い香りがする庭園を白馬に乗ったあの人が駆けてくるというものだ。私は嬉しくなって近付き、愛を囁いた。それに対してあの人は……………なんと言ったのだろう?口元はかろうじて見えるものの、肝心の表情がぼやけて声も聞こえない為、私には彼が何を言いたかったのか皆目見当もつかなかった。


「………………」


けどまぁ、所詮夢は夢だ。こんなことはよくあること。見たいもの全てを見れるだなんてそう都合良くいくはずもない。でも、それでも私は……………夢と分かっていつつも心の中がモヤモヤとして仕方ないのだった。







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