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Episode.45 修学旅行2日目②

「すみません、塔矢さん」


「いや、介抱するのは当たり前だろ。なんせ静は病人なんだから」


「いえ、それもありますが……………私のせいでせっかくの修学旅行を台無しにしてしまったので」


あの後、何事かと近付いてきた教師陣に対して、"静の具合が悪そうだから介抱している"と告げた俺。そして、その後も静のことは任せて欲しいと必死に訴え、なんとか教師陣の許しを得た俺達はこうして日陰のあるベンチで一休みしていたのだった。


「何言ってるんだ。静が無事なら、それでいい」


「塔矢さん…………」

 

「きっと美鈴もそう思っていると思うぞ」


「……………」


美鈴の名前を出した瞬間、押し黙る静。やはり、心情的にはまだ許せないということなのだろうか。


「二人ともさ、ちょっと意固地になりすぎじゃないか……………まぁ、ひたすら傍観者でしかいられなかった俺にこんなこと言う資格はないかもしれないけど」


「あれは美鈴さんが悪いんです。私はただ皆さんに心配をかけたくなくて黙っていたっていうのに…………どうして私の気持ちを分かってくれないんでしょうか」


「でも、最後に美鈴に言われたこと……………あれも事実なんだろ?」


「……………」


「俺には両方の気持ちが分かるけどな。静は静でみんなのことを想う反面、みんなに嫌われたくないっていう保身…………つまり自分の為でもある。でも、それは美鈴も一緒だ」


「美鈴さんも…………?」


「ああ。美鈴は美鈴で静を本当に大切に想うからこそ、そういう大事なことは言って欲しかったって思ってる。と同時にそういうことを話してもらえなかった自分自身にショックも受けている。ああ、静にとって自分とはその程度の存在なのかって……………つまり、あいつが怒ったのは自分の為でもある訳だ」


「………………」


「まぁ、でも今回の一件…………俺はどっちかというと美鈴寄りの意見かな」


「っ!?どうしてですか?」


「だって、俺も話しておいて欲しかったから」


「っ!?」


「あのさ、はっきり言っておくけど、そんなことぐらいで嫌いになったりしないぜ?もちろん、心配はするさ。死ぬほどな…………でも、そういう心配し合えるのだって、お互いを大切に想っている証拠だろ?」


「でも…………迷惑かけたくなくて」


「じゃあ、逆の立場で考えてみろよ。今回の一件、もしも静と美鈴の立場が逆だったら静は迷惑だと感じるか?」


「……………いえ」


「だったら、答えはもう出てるよな?結局、今回はたまたまボタンを掛け違えちゃっただけでお互いがお互いを大切に想っていることは確かなんだからさ。その…………美鈴のこと、あんまり悪く思わないでくれないか?」


「……………」


俺の真摯な訴えを受けて静はその場で黙り込んだ。そして、果たしてそれが響いてくれたのかどうか……………しばらく経った頃、彼女はゆっくりと口を開いた。


「…………妬けちゃうなぁ」


「ん?」


「いえ…………塔矢さんにそこまで分かってもらえる、想ってもらえる美鈴さんが羨ましいなって」


「何言ってるんだよ。俺は美鈴と同じくらい静のことも大切に想ってるし、もっと知って分かり合いたいとも思ってる」


「っ!?」


ここで何故かは分からないが顔を真っ赤にする静。あれ?俺、そんなに変なこと言ったか?


「もうっ!!塔矢さんはまたすぐこういうところでそんなことを言う!!」


「おいおい。そんな間接的な表現じゃなくて、もっとはっきりとした表現で頼む。何が言いたいのか、さっぱりだぞ」


「いいんですー、塔矢さんはそのままで。一生、そうやって鈍感系主人公さんにでもなってて下さい」


「すまん。日本語で頼む」


「はぁ。この人のこれは言語の問題とか、読解力がないとかの次元じゃないんだけどなぁ」


今度は大袈裟なくらいのため息を吐いてから、足元の地面へと視線を落とす静…………なんか反応が色々と忙しいな。


「…………まぁ、でも」


「ん?」


その時、不意に優しい風が吹いた。その風は彼女の綺麗な黒髪を軽く揺らし、それを優しく手で抑えた彼女は柔らかく微笑みながらこう言った。


「後は色々と一人で考えてみます。塔矢さん、ありがとうございました」


俺はその光景に対して、こんな時だというのに軽くドキッとしてしまったのだった。








「悪かったな、悪役なんてやらせて」


「別に塔矢が謝ることじゃないわよ」


あの後、静に"少しここで休んでいきます。なので私のことは気にせず、塔矢さんは楽しんできて下さい"と言われ、そのお言葉に甘えた俺は真っ先に美鈴を探して駆け出した。そうして捜索は何時間にも及ぶかと思われたが、意外とすぐに終わりを迎え、今ではこうして日陰のあるベンチに座りながら二人で静かな時間を過ごしていたのだった。


「二人ともさ、ちょっと意固地になりすぎじゃないか……………まぁ、ひたすら傍観者でしかいられなかった俺にこんなこと言う資格はないかもしれないけど」


試しに先程、静に言った台詞と同じものを美鈴へぶつけてみた。すると、返ってきた答えは思わず吹き出してしまいそうになるものだった。


「あれは静が悪いのよ。私はただ静のことを本気で心配しているっていうのに…………どうして私の気持ちを分かってくれないのかな」


なんかどっかで聞いた台詞だな。


「でも、美鈴のことだ。静の気持ちも分かるんだろ?」


「……………」


「俺には両方の気持ちが分かるけどな。静は静でみんなのことを想う反面、みんなに嫌われたくないっていう保身…………つまり自分の為でもある。でも、それは美鈴も一緒だ」


「……………」


「美鈴は美鈴で静を本当に大切に想うからこそ、そういう大事なことは言って欲しかったって思ってる。と同時にそういうことを話してもらえなかった自分自身にショックも受けている。ああ、静にとって自分とはその程度の存在なのかって……………つまり、お前が怒ったのは自分の為でもある訳…………だろ?」


「……………うん」


「まぁ、でも今回の一件…………心情的にはだけど、俺はどっちかというと美鈴寄りの意見かな」


「塔矢……………」


「ぶっちゃけ、俺も話しておいて欲しかったと思ってるから」


「でしょ!?」


「そんなことぐらいで嫌いになったりしないのにな。もちろん、心配はするさ。死ぬほどな…………でも、そういう心配し合えるのだって、お互いを大切に想っている証拠だろ?」


「…………………」


「でもさ、今回の一件…………逆の立場で考えてみて欲しいんだ。もしも静と美鈴の立場が逆だったとしたら、どうだ?……………って、こんなこと言われなくてもお前なら、ちゃんと分かってるか」


「…………………」


「だったら、答えはもう出てるよな?結局、今回はたまたまボタンを掛け違えちゃっただけでお互いがお互いを大切に想っていることは確かなんだからさ。その…………静のこと、あんまり悪く思わないでくれないか?」


「……………」


俺の真摯な訴えを受けて美鈴はその場で黙り込んだ。そして、果たしてそれが響いてくれたのかどうか……………しばらく経った頃、彼女はゆっくりと口を開いた。


「…………静が羨ましいわ」


「美鈴…………」


「だって、そうでしょ。いつからなのかは分からないけど、私なんて塔矢にとっては物分かりの良いお利口さんみたいな立ち位置になってるし……………まるであれよ。お姉ちゃんなんだから分かるよね?みたいな……………言っておくけど、私、そんなに物分かり良くないから!」


「……………」


「本当は塔矢にそこまで分かってもらえる、想ってもらえる静が羨ましい!!私、そこまでしっかりしてないし!!」


「何言ってるんだよ。俺は美鈴のこともちゃんと大切に想ってるし、今以上にもっと分かり合いたいとも思ってる」


「…………本当?」


「ああ。それにちゃんと分かってるから……………お前が本当は甘えたがりだってことが」


「ぷっ………何それ」


「おい!俺は真剣にだな…………」


「…………うん。分かってるよ。だから………」


その時、不意に優しい風が吹いた。その風は彼女の綺麗な茶色の髪を軽く揺らし、それを優しく手で撫でながら彼女は満面の笑顔でこう言った。


「後は色々と一人で考えてみるわ。塔矢、ありがとうね」


俺はその光景に対して、またしてもドキッとしてしまったのだった。一体、何なんだ…………今日の俺はどうしたというのだろう?


「…………そうか」


だいぶ間を空けてから、絞り出すようにそう言うことしかできなかった俺はその場をそそくさと後にした。この時の俺にも一人で考えたいことができた瞬間だった。







「はぁ…………どうしたもんか」


その日の夜。俺は割り当てられた部屋から抜け出して、ロビーのソファーに一人腰掛けていた。わざわざ部屋を抜け出して、こんなところに寂しく座っているのは俺くらいなもんだろう。現にこの場には俺以外の物好きなどただの一人として存在してはいなかった。だからだろうか。普段ならば気にならない自販機から発生する稼働音や階下から聞こえるちょっとした足音などがやけに神経に障るのは…………。そう、今この場は静寂によって支配されていた。だからこそ、一人で思索に耽るにはもってこいの環境だった。しかし…………流石にこの静けさにおいてはどんな小さな音だって耳には響いてしまうものである。いかんいかん。気にしてはいけないと思いつつも集中を乱されてしまっている俺がいる。


「こんなところでどうした、塔矢よ」


とそんな状況の中、突然俺の足下に影が差した。俺がなんとなく、それにつられるようにして顔を上げると知った顔が目の前にあった。まぁ、顔を見なくても声で誰かは分かったのだが……………


「距離の近い呼び方はやめて下さい。ここでは一教師と一生徒でしょう?」


「おっと、今は腐っても学校行事の最中だったな。いや〜、悪い。気を抜いてたわ」


「全く…………修学旅行が終わるまではちゃんと担任らしくしていて下さいよ」


「あ〜………善処する」


「ちょっと!ちゃんとする気ないだろ!!」


「いや、分かってんだけどさ…………お前と二人きりになるとつい、な」


「はぁ…………あんたは昔っからそうだな」


俺はため息を吐きつつ、再び思考の海に飛び込んだ。そうだ。今はこんな人を相手にしている場合じゃないんだった。


「おっ、なんか悩みでもあんのか?」


「先生、そろそろ猫被らないと同僚もしくは教え子にその薄汚い本性がバレちゃいますよ?」


「お前、言うようになったな」


「じ、冗談ですから!だから、額に青筋立ててにじり寄ってこないで!!」


俺の必死の懇願が届いたのか、距離を元に戻して座り直す担任。ちなみにこの担任は何の許可もなく隣に座りました、はい…………まぁ、許可がいるとか言って、俺はどこの貴族だよと思われるかもしれないが、それにしたってこういう時は"隣いい?"みたいな一言があって然るべきだと思うのは私だけでしょうか?


「あん?」


はい、どうやら私だけのようでした。


「で?何を悩んでんだ?」


仕切り直してといった面持ちで再度、訊いてくる担任。てか、さっきは悩みがあるのかないのかを訊いてきたのに今度の質問は悩みがあること前提だな。ま、この担任のことだ。どうせ俺が悩んでることなどお見通しなのだろう。この人は昔っからこうだ。俺の些細な変化も見逃さない。


「はぁ。実は…………」


俺は軽く息を吐くとこれ以上の隠し事は無駄であると観念し、ゆっくりと口を開いた。その内容はもちろん、日中の時のことだった。









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