Episode.44 修学旅行2日目①
二日目は全体行動だった。生徒達は皆、学校側が決めた神社仏閣を見て回り、様々な見聞を深めていく。ちなみにどこを見て回るかは事前に知らされていた為、多くの生徒達が一日目の自由行動で訪れたのはそこと被らない場所だった。
「よーし!ここで一旦、昼休憩とする!!」
教師からの号令にたちまち歓声が上がる。それもそうだろう。こちとら修学の為に散々、歩かされてきたのだ。なので、そろそろ休みが欲しいと思っていたところだった。
「はぁ。疲れた〜…………なぁ、二人とも」
「「……………」」
「どこで昼食べるよ?ここまで来て、ファストフードっていうのもなんだよなぁ」
「「……………」」
「……………ん?」
教師の号令を聞くと同時に脱力感に支配された俺は両隣にいた静と美鈴に話しかけた…………のだが、あいにくと反応が返ってこなかった。しかも二回も問いかけているのにだ。これは完全におかしい。そう思った俺はふと膝に手をついていた体勢から背筋を伸ばして立ち上がり、顔を上げて二人の顔を見てみた。
「っ!?」
すると、そこにはやけに真剣な表情で目の前を見つめる二人がいた。
「…………どうしたんだ、二人とも」
目の前…………正確には下鴨神社の鳥居をただただ黙って見つめる二人。こんな真剣な表情の二人はなかなか見たことがない。というか、静に至っては初めて見たかもしれない。
「「塔矢」」
ややあって、口を開いた二人。そこには並々ならぬ決意というか覚悟のようなものを感じた。
「私、この神社に行きたいわ」
「私もです。塔矢さんもよろしいですか?」
「いや、よろしいもなにも…………昼だって、まだ食べてない訳だし」
「それなら神社に寄ってからでも全然遅くないわ。なんせ、お昼休憩はたっぷり二時間もある訳だし」
「塔矢さん、焦らなくてもお昼ご飯は逃げませんよ?」
「あれ?なんか俺だけが食いしん坊みたいになってない?え?二人はお腹空いてないの!?」
「さっ、行くわよ。静」
「はい!今だけは同志です!!」
「サラッと無視かよ……………てか、この二人は一体何を仰っているのやら」
それは昼休憩の後、再び全体行動をしている時のことだった。
「うっ…………」
「っ!?静っ!?」
「すみ…………ません。少しふらついただけですので」
「大丈夫なのか?」
「はい…………ちょっとこのまま肩をお借りしてもよろしいですか?」
「それは別に構わないけど……………」
貧血からか、なんと静が少しよろめいて俺に倒れかかってきたのだ。あまりにも咄嗟のことだったが、どうにか受け止めることに成功し、俺はほっと胸を撫で下ろしていたのだが、すぐ側にいる美鈴はどうやらそうではないようで血相を変えて静へと走り寄った。
「ちょっと、静!!あんた、本当に大丈夫なの!?」
「美鈴さん…………大丈夫ですよ。こんなのいつものことですから」
「……………」
「ちょっと今日はお薬を飲むのを忘れてしまっただけで…………あれ?いつもはこんなことはないはずなのに。おかしいな…………そうですね。きっとこの旅行が楽しくて薬を飲むことなんて忘れてしまってたんですね」
「…………聞いてない」
「へ?」
「私、静が身体が弱いこともその為に薬を飲んでいることも一切聞いてない………………てか、聞かされてない!!」
そのあまりの剣幕に周囲は驚いて一瞬、静まり返った。そして、それは当事者であるはずの静も同じだった。
「み、美鈴さん、落ち着いて下さい。こんなの本当に大したことないんですから。それにいつものことですし」
「じゃあ、何で薬なんて飲んでるの?…………いつものことなら、何で言ってくれなかったの?…………本当に大したことないんだったら、言えたはずだよね?」
「……………」
「どうせ、あんたのことだから私達に気を遣って言えなかったとかそういうことでしょ?でも、そんなのってなくない?」
「どう………ないんですか?」
「静?」
ただ黙ったまま、美鈴の話を聞いていた静がここで口を開いた。しかし、その声音は今まで聞いたことのないくらい低く、側から見ても怒りを堪えているのが丸わかりで俺は嫌な予感がした。
「私達は何?」
「そんなの"友達"に決まってるじゃないですか」
「だったら、何で言えないのよ!」
「そんなの"友達"だからに決まっているじゃないですか!!」
ここで静の叫びが周囲へと響き渡り、再びこの場に一瞬の静寂が訪れた。そのすぐ後で周りがザワザワとしだした。俺も俺でどうしたらいいのかがまるで分からなかった。
「ふ〜ん。友達ねぇ〜」
「何ですか、その言い方と態度は。言いたいことがあるのなら、はっきり言ったらどうですか」
「じゃあ、この際だからはっきり言わせてもらうけど…………あんたのそれ、全て本心で言ってる?」
「えっ、何を言って…………」
「"友達だからこそ、私なんかのことで心配かけたくない"……………それだけが理由じゃないでしょ?」
「何言ってるんですか!それだけに決まってるじゃないですか!!」
「いいえ、違うわ。むしろ、そっちの方が比率としては小さいかもしれない。ただ、あんたは……………自分のことを知って嫌われたくない。そう思っているのよ」
「っ!?」
美鈴のその言葉を聞いた静はひどく驚き、何かを言おうと口を開きかけたが、それも震えて上手くいかなかった。すると、それを見た美鈴は静かにこう言った。
「次はまた自由行動の時間だったわね……………悪いけど、私は別行動を取らせてもらうわ。正直、病人がいたんじゃ動きづらくてしょうがないし」
「っ!?」
美鈴のその言葉をそのままストレートに受け取った静は思わず怒りで前のめりの体勢になりかけたが、俺が押し留めた為、なんとか元の体勢に戻った。
「塔矢、悪かったわね。こんなしょうもないことに巻き込んで」
「ああ。だから、早くいなくなってくれると助かる」
「そうするわ……………じゃあね」
今、美鈴が静にかけた言葉、そして俺が美鈴にかけた言葉は当然本心からではなく、静の為を想ってのものだった。しかし、三者ともどこかで傷付いてるのは間違いなく…………
「……………」
「はぁ………はぁ………」
去り際の悲しそうな表情の美鈴と体調の悪そうな静、そのどちらもが俺は気になって仕方がなかったのだった。




