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Episode.43 修学旅行1日目

うちの学校では12月の中旬に修学旅行がある。こちらとしてはもっと過ごしやすい時期にして欲しいと思うのだが、それはごく一部の生徒だけであり、概ね多くの生徒からは好評みたいだった。何故なら、この修学旅行が終われば、クリスマスが待っているのだ。その影響か、一年の中で最もカップル発生率が高いのがこのイベントという訳である。今も周りを見渡せば、肩をブンブン振り回す男子達の姿が見え、一方の女子は控えめにだが、意中の相手と二人きりで過ごす絶好の機会を狙っていた。


「「「はぁ〜」」」


そして、かくいう俺なのだが両脇を静と美鈴に挟まれ、三人一緒になって京都の街並みを眺めていた。その際、口を半開きにして見惚れていた為、現地の住人からはさぞや、おのぼりさんに見えたことだろう。


「ちっ、春日伊の奴。ここでも見せつけやがって」


「両手に華はいいどすな〜」


「えっ!?お前、もう現地に染まってんの!?」


なんか遠くの方で聞こえた気がするが、どうせ碌でもないことだろう。無視だ、無視。


「二人ともこれから自由行動だろ?どうする?」


「私は神社仏閣を見て回りたいです」


「私も!せっかくの京都だしね!!」


「なるほど。よし!そんじゃ、早速いくか!!」








そんでもって最初にやってきたのが清水寺である。この名自体は聞いたことがある人も多いだろう。なんせ、金閣寺や嵐山などと並ぶ有数の観光地だ。約1200年もの歴史があり、"清水の舞台から飛び降りる"というあの有名な言葉の語源がここだ。現に今もその言葉通りに飛び降りようとしている奴がいる……………って、あれは俺らの学校の生徒じゃねーか!!


「「……………」」


チラリと横を見ると何も見なかった振りをしている静と美鈴がいた。おそらく同じ学校の生徒として恥ずかしいのだろう。


「二人とも清水寺って好き?」


「そうですね。やっぱり本堂は美しいと思います」


「私はその…………やっぱり、滝とか」


「っ!?美鈴さん、それって…………」


「な、なんでもない!!忘れて!!」


「いいえ!是非行きましょう!!そして、あわよくば汲んでやりましょう!!」


「そ、そうよね!!何も真ん中のって決まった訳じゃないし!!なんせ右も左もあるんだし!!」


風向きを変えようと話を振る。すると、二人ともどうにか着いてきてくれたので心の中でホッとした。しかし、どうやら向きが変わりすぎてしまったらしい。そこには若干、暴走気味の二人が立っていた。


「てか、汲むのは流石にまずいだろ。よく分からんけど」


ちなみにさっき清水の舞台から飛び降りようとしていた生徒は無事、仲間達によって阻止されていたのだった。





「「「ふぇ〜」」」


俺達の力の抜けた声が辺りに響き渡る。次にやってきたのが先も話題に上がった金閣寺である。金閣寺といって、パッと頭に浮かぶのは足利義満だ。


「知ってるか?金閣寺の別名"鹿苑寺"って、義満の死後に名付けられたらしいぜ」


「えっ!?そうなの!?」


「いや、塔矢さん」


「静、しーっ!!……………そんで鹿苑寺って元々、義満の持ち家とかじゃないらしいぜ。どうやら誰かから譲り受けた別荘だそうだ。んでそれを改築・増設していったって訳」


「へーっ。塔矢って物知りね」


「いや、あの美鈴さん?」


「そんでもって、極め付けがこの金閣寺…………今、オークションに出品されててな、その額が1兆円だって」


「へーっ、オークションにまで……………って、それは嘘でしょ!!そんな訳ないじゃない!!」


「あ、バレた?」


「全く…………油断も隙間もないわね。でも、塔矢のことだから、その前の二つは本当のことなんでしょ?」


「ああ、もちろん」


「凄い自信ね」


「そりゃそうだろ。だって…………」


そこまで言うと徐に目の前の立て看板を指差す俺。それにつられて立て看板を見る美鈴。なんとそこには俺が説明した通りのことが書いてあった。


「ちょっと!!どういうことよ!!」


「いや、どういうことも何も…………そういうことだよ。てか、明らかに目線がそっちいってただろ」


「っ!?小賢しいことしてんじゃないわよ!!」


そして、俺と美鈴がギャーギャー言い合う隣では静がこめかみを指で押さえてこう言った。


「ほんと何故、気付かなかったんですか美鈴さん」








「今頃、皆さんどうしてるんでしょうか?」


「う〜ん。確か一日目は自由行動が主だったと思うな…………ま、私の時と変わってなければだけど」


「そっか。綾乃先輩、去年行ったんでしたね」


一方、その頃の玲華・綾乃・光は三人揃って仲良く某ハンバーガーチェーン店に来ていた。各々の眼前には"うわー。それぞれの性格が反映されているな………"と大いに感じられるメニューが並んでいる。


「やっぱり、女子に人気なのって主に縁結び系の神社ですよね?」


興味津々といった感じで玲華が身を乗り出して訊く。それを手で制しつつ、綾乃は冷静に答えた。


「ああ。数とか種類とかは色々あるんだが…………特に下鴨神社な。二日目の全体行動の時にチラリと寄るんだ。それもわざわざ神社前でお昼休憩だとか言ってな。だから、そこでさりげなく神社へ足を運ぶ女子の姿が散見される。今思えば、学校側も色々と考えてくれていたんだろうな」


「でも、それってあからさまな行動じゃないですか?だって、男子達にもその行動は見られてる訳じゃないですか」


光はそう言いながら、ストローに口をつけて可愛らしく小首を傾げた。それに対して、綾乃は軽く微笑みながら、こう言った。


「だからこそだ。好きになったのが鈍感なタイプだった場合、少しのアピール程度では気付かないこともあるだろう。しかし、ここで縁結びの神社に向かうという選択を取ることで相手に揺さぶりをかけることができるんだ。こうすれば、たとえどんな唐変木であっても流石に察しはつくはずだ……………"あれ?もしかして、あいつ好きな奴いんのか?それって、やばいんじゃね?"みたいな」


「「なるほど」」


「それに安心して欲しい。その機会を逃してしまった者、または羞恥心が邪魔したり勇気が出ず、神社へ行くことが叶わなかった者にもちゃんとチャンスはあるんだ。なんせ一日目は自由行動だし、なんてったって、三日目にも神社に行くくらいの時間は確保してくれている………………な?これでお膳立てはバッチリだろ?」


「「お〜っ!!」」


「ま、こんなにチャンスがあって行動に移れない者はいないとは思うが……………さて、あの二人の場合はどうだろうな」


この時の綾乃の呟きはかなり小さなものだったが、さてはて後輩二人の耳はちゃんとそれを捉えていたのであった。








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