Episode.42 決められたこと
吐く息が真っ白な煙となって流れていく今日この頃。周りを見渡せば、この季節特有の洗礼を受けた者達の精一杯の抵抗が装いというはっきりとした形になって表れていた。そして、行き交う人達の忙しないこと…………そう。旧暦でいえば、今はもう師走、つまりは12月だった。
「う〜寒い」
俺はといえば相変わらず、変わり映えのない日々を送っている。しかし、心の内に秘めたる想いは以前とは打って変わっていた。親父から衝撃の事実を伝えられたあの日と同等、いやそれ以上のやる気に満ち溢れているのだ。まぁ、それもこれもあの仮面の婚約者に焚き付けられたからなのだが…………何?向こうにはそんなつもりがない?そんなの俺がそう感じている時点でそれが事実なんだ。向こうがどうとか知るか。まぁ、それらを含めても向こうの思惑通りなのかもしれないがな。なんせ、こうしている今でさえ婚約者のことを考えてしまっている。
「おっす!塔矢!」
「おはよう、美鈴」
だったら、もう行くところまで行けだ。俺は決めたのだ。これからは俺と関わる女性全員に可能性があると思って動くとな。
「おい、トゥーヤ」
「相変わらず、うざったい呼称をする奴だな」
「お前、クリスマスはどうするんだ?」
「まだお前と会話してやるとは言ってないんだが?」
「俺か?ふふふ。実は立てている計画があってだな…………知りたいか?」
「人類の叡智が詰まった会話という素晴らしいものをお前はどこかに捨て去ったのか?俺の質問に答えろ」
「ああ、悪かったよ。正確には"知りたいか?"ではなく"知って欲しい"、だ。なんせ、この計画にはお前の助力が必須だからな」
「…………なんか嫌な予感がするな。危険なことじゃないだろうな?」
「馬鹿野郎!この俺が危険なことに親友であるはずのお前を巻き込むだと?馬鹿も休み休み言え!!」
「まず、危険なことをする前提で話を進めるな。それに忘れたとは言わせんぞ?今まで俺はお前に何度巻き込まれたか…………あと"親友"って何だ!!"はず"って何だ!!そして、馬鹿馬鹿言うな!!」
俺はぜぇぜぇと息を切らしながら力の限り、ツッコんだ。すると、それを見たこの馬鹿は何故か満足したような笑みを浮かべた。何だ、この不毛な放課後は。
「話は変わるが、クリスマスはどうするんだ?」
「いや、ちっとも変わってないだろ」
「まぁ、聞け。俺に提案がある」
「ん?」
「クリスマス会をしないか?」
「「「「「クリスマス会?」」」」」
「そう!以上がこの俺の華麗なる計画という訳だ!!」
翌日の放課後。善は急げとばかりにみんなを集めた俺と浩也。今は空き教室にて、浩也の胡散臭い演説が続いていた。
「という訳で…………女子共!分かったか!!」
「いえ…………分かったかと言われましても…………」
「うん。静の言いたいこと分かるわ。こいつ、凄い深みのあるようなこと言ってると見せかけて全然大した内容言ってないから」
「凄い時間の無駄」
「うん?要するに鈴木くんは単にクリスマス会がしたいということなのかな?」
「ぐはっ!?」
結果、女子達からの猛口撃を食らい、地に伏した馬鹿がそこにはいた。あーあ、言わんこっちゃない。だから、あれほどやめておけと言ったのに。
「でも、まぁ、こいつの無駄な演説は置いておくとして、クリスマス会自体はいい案ね」
「だろう!?俺もこれを閃いた時は流石に…………」
「こんなの誰でも思いつきます。調子に乗らないで下さい」
「ぐはっ!?ひ、酷いよ、玲華たん」
「次にその呼び方したら、抹殺しますよ?」
「ひっ!?…………さ、参考までに聞くけどそれは社会的に?それとも…………」
「どちらがお好みですか?」
「うん。この人、実は一番怖いかも」
この一部始終をただ黙って見ていた光はこうポツリと言った。
「なんだかお兄ちゃんのお友達って感じがするね」
「おい!それはどういう意味だ!!」
この後、日程や場所なんかの詳しいことも話し合い、正式にクリスマス会が開かれることとなったのであった。




