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Episode.41 素顔

ハロウィンパーティーからどれくらい経ったか。俺は力の抜けた毎日を送っていた。何なのだろう、この気持ちは…………。ずっと追い求めていた物が目の前に突然、現れて…………でも、まだこっちの心の準備ができてなくて、変な感じになって、それでもやっぱり嬉しくて、途中変なテンションにもなって……………


「……………」


で、今はあれだ……………そう、燃え尽き症候群みたいな感じだ。結果ばかり追い求めていて、いざそれが手に入ると急にやる気がなくなるというか……………昔、冒険漫画を読んだ時の気分に似ている。その漫画では宝を目指して一人のトレジャーハンターが旅をするのだが、その宝が別のトレジャーハンターによって隠され、それを追いかけていく場面でついぞ最後を迎えた。おそらく、その漫画が伝えたかったことは結果ではなく、その過程が大事だということなのだろう。現に俺はそんなオチにも関わらず、多くの仲間達に囲まれて幸せそうなトレジャーハンターを見ているだけで満足できた…………うん。つまり、あれだな。俺は結果はどうあれ、婚約者が誰であるか頭を悩ませて過ごしたこの日々に満足していたということだ。いや、この際だから、はっきり言おう。認めたくはないが、もしかしたら、俺は心の奥底で楽しんでいたのかもしれない。しかし、それを認めてしまえば、あの仮面の婚約者に対して吐き出した言葉の数々が嘘ということになり、俺は稀代の大うつけ者として、後世に語り継がれてしまうことだろう。それではとんだピエロではないか……………でも、まぁ、それはそれでいいのかもしれない。なんせ、あそこはハロウィンパーティーの会場だ。であれば、そこに一人くらい小物ピエロが混じっていても何ら不思議ではない。


「…………というか、よく考えれば、まだ終わってないんだよな」


ここで俺は思考停止した頭を再び稼働させることに成功した。きっと寒空の下、屋上という絶好の環境に吹きつけてくる冷たい風のおかげだろう。俺はここですぅ〜っと軽く息を吸い、ゆっくりと吐き出した。まだ、それが白煙となって漂うまではいかない中途半端な季節にどこか今の自分と似ているなと感じて、俺は苦笑した。


「さて、あの婚約者は一体誰なんだ?」


そう。勝手にもうゴールした気分でいたが、正確にはその半分といったところだろう。確かに婚約者は実在したし、姿もこの目で確認することができた。しかし、外見は仮装状態で誰なのか分からずじまい、加えて貴重な情報源であるはずの声も変声機によって変えられていた。後、ヒントになりそうなところといったら、仕草や口調、笑い方ぐらいか?……………でもなぁ、あまりにも突然のことでひどく動揺していたからな。あまり覚えてないんだよな。それに口調に関しては参考にならないだろう。姿や声まで偽るあの徹底ぶりからすれば、口調を変えることなど造作もない……………いや、むしろ、そうこちらに思わせておいて、実はあれが素の口調だとか?………………いや、分からん。


「いずれにせよ、それを確認する術はもうないだろう」


あれはいわば、ボーナスステージのようなものだ。ああやって、堂々と姿を偽れる環境下だからこそ彼女は出てきたのだ。それに彼女のあの去り際に見せた態度からして、おそらくもう俺の前に現れることはないだろう。となれば、次に彼女と対面する時は俺が彼女の正体を暴き、袋小路に追い詰めた時だ。


「なんか、ルパ○と銭○のとっつぁんみたいな関係だな」


とはいってもなにも彼女は悪党という訳ではない。純粋に好きな人の前に出てくるのが恥ずかしいという非常に奥ゆかしい女性なのだ……………ひぃ〜!!その好きな人って俺のことだよな!?自分で言ってて恥ずかしい!!


「ごほんっ。ともあれ、絶対に追い詰めてやるからな……………待ってろよ!!」


「へ?何を?」


俺の固い決意表明は偶然、背後にいた美鈴の耳に吸い込まれていった。その後、屋上から教室へと戻る最中、顔を赤くした俺を質問攻めにする美鈴という構図が各所で目撃され、夫婦喧嘩でもしたのでは?という根はあり葉はない噂が囁かれたという。









ハロウィンパーティーの後、私は自室にて自らを覆う鎧を脱ぎ捨てた。やはり、疲労が凄いみたいだ。しかもそれは想定していたよりもずっと…………。それもそのはずだ。なんせ、今までにないくらい勇気を振り絞って、あの人の前に姿を現したのだから。まぁ、とはいっても完全に素顔を晒せた訳ではないけど…………。でも、良かった。あの人に自分の存在を知ってもらうことができた。今の私はそれで十分だった……………と、私はこのタイミングで幼い日に交わした約束を思い出した。


「塔矢くん……………どんなに離れていても私達の心はずっと一緒だよ」


「ずっと一緒?」


「そう。私達みたいな仲良しさんは決して切れない絆で結ばれているの」


「へ〜凄いね!!」


「だから、絶対に私のことを忘れないで」


「うん!絶対、忘れないよ!!約束する!!」


「ありがとう……………でも、約束は違うのがいいかな」


「違うの?」


「うん。それはね……………」


思わず、笑みが溢れる。幼い日の心温まる記憶。私にとって何よりも大切な……………


「あら…………」


すると、ここで開け放たれた窓から風が入り込んで両端にSPのように控えていたカーテンが揺れた。私はゆっくりと窓へ近寄り、それを閉めようと手を伸ばした。ふと空を見上げる。そこにはまるで今日の私を祝福するようかのように温かく煌めく綺麗な満月があった。





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