Episode.4 竜虎相搏
「へ〜皇さんって、そうなんだ」
「はい。うふふっ」
「あははっ!」
教室の真ん中辺りではやはりというか、今日も今日とて皇の周りに包囲網が出来ており、話に花が咲いていた。一方、こちら教室の左端の方では気のせいか、おどろおどろしいドクロが浮いていた。
「何なのよ、あの女!教室では良い顔しちゃって、大して中身のない話にも愛想笑いなんかしちゃってさ!」
「何だ?皇のことが気になるのか?」
「そんな訳ないじゃない!あの女は敵!私の天敵なの!」
「そうか?昨日のお前らは随分と波長が合っていたように思えるけどな」
「冗談はよしてよ!誰があんな奴なんかと」
「それは私の台詞です。どうして、こんな人と一緒くたにされなければならないのですか」
「「っ!?」」
俺達はいきなり近くから聞こえた声に思わず驚いた。ふと横を見れば、皇が立っていて美鈴へ敵意のある眼差しを向けていたのだった。
「皇?どうして、ここに?」
「私の名前が聞こえたような気がしたので……………それに他のクラスメイトと過ごす時間も大事ですから」
「な〜に良い子ちゃんぶってるんだか。ただ単につまらない話を聞かされたくないから、こっちに逃げてきたってだけじゃない」
「うっ」
「それにクラスメイトなら、あっちこっちに掃いて捨てるほどいるわよ。何でこっちに来るのかしらね」
「た、たまたまです」
「そう。じゃあ、私達との話はもう終わりね。ほら、他のところへ行ってあげなさいよ。皇さんのことを涎を垂らしながら待ってる連中がいるわよ」
「か、仮にもクラスメイトの方をそんな呼び方するのはどうかと」
「いや、需要と供給は成り立ってるから。見てみなさいよ」
「は、掃いて捨てるほど!?なんて酷い言い草!!」
「涎を垂らしながら待ってるだって!?ぐ、ぐぅ」
「だが……………だが!!」
「「「だが、その通り!!それがいい!!」」」
美鈴が教室の隅を指し示すとそこでは数人の男子が気持ち悪い動きをしながら、悶えていた。まさに美鈴の言う通りだった。
「ねっ?」
「ひぃっ!!」
「はい。じゃあ、私達とは友好を深めたから終わりね。バイバイ〜」
「で、でもですね!私はあなたと話してばかりでまだ塔矢さんとは全然……………」
「あんたの魂胆なんて見え見えなのよ。本当は塔矢と話したいだけなんでしょ?でも、あんたのキャラクター上、好き勝手に動きにくい。だから、私をダシに使ったのよね?ほら。学園の二代美女である私とあんたが話していれば、周りも絵になるとかならないとかで納得するしね」
「………………」
「仮面優等生も大変ね」
「…………失礼致しました。私は席に戻らせて頂きますね」
そう言って、自分の席へと戻る皇。一方の美鈴は何やら、ガッツポーズをして喜んでいた。
「よっし!何とか追い返したわ!」
「お前……………そんなことして虚しくないのか?」
「だ、だって……………手段なんて選んでられないんだもん」
「?」
「全部、塔矢のせいなんだから!!」
「お、おい!叩くなよ!わ、分かった!分かったから!帰りになんか奢るから!!」
「本当!?」
「ああ」
「やった〜!わ〜い!」
俺はこんなことで喜ぶ美鈴を見て、子供みたいだと微笑んだ。と同時に美鈴はこうでなくちゃと改めて思った。だからこそ、さっきの皇に対しての態度がとても気になった。
「喜ぶのは早いぞ、お前達」
「「っ!?」」
俺達は皇がいきなり現れた時以上に驚いた。何故ならば、音も気配もなく、俺の机の下から浩也がニョキっと現れたからである。
「心臓に悪いだろ!やめろ!」
「そうよ!一体どこから、現れてんのよ!!」
浩也は俺達の言葉などどこ吹く風とばかりに軽く髪をかき上げると何やら携帯端末を操作しだして、こんなことを言い始めた。
「皇静。我が蒼生高等学校の二年生。成績優秀、スポーツ万能な文武両道の優等生。おまけに容姿端麗であり、どうやら小さい頃から色々な習い事をしてきた関係であまり不得意なことがないらしい……………そういえば、昔から親の転勤の都合で色んな場所を転々としていたらしい。もしかしたら、俺達も過去に会ってたりしてな。あ、スリーサイズは不明だ」
こいつが手に持っている携帯端末にはこの学校のありとあらゆる女子生徒の情報が載っているらしい。しかもその情報の正確性は99.9%。去年、本人がそう豪語していたから、まず間違いない。まぁ、どんな姑息な手を使ったかは知らないがな。
「なっ?隙がないだろ?」
「なっ?………じゃねぇよ!本人の許可も得ず、何勝手に調べてんだよ」
「まぁ、まぁ落ち着け。俺の情報網の凄さに嫉妬する気持ちは分かるが」
「してねぇよ!単純に気持ち悪い……………ってか、怖いんだよ!!」
「それのどこが怖いんだ?俺がその気になれば、お前が知りたいと思った情報を友達価格で調べることができるんだぞ」
「だから、それが怖いって言ってんだよ!ってか、お前なんかに頼ることは死んでも有り得んから!」
「まぁ、まぁ。そんなに褒めるな」
「どんだけ都合の良い耳をしてんだ、お前は!!」
「……………ねぇ」
俺と浩也が言い合っていると何やら真剣な表情の美鈴が話しかけてきた。何だ?珍しくこいつの情報に興味があるのか?
「鈴木が今言った情報って本当?」
「ああ。これだけは俺の譲れない特技だから……………あ、繰り返すが皇のスリーサイズは不明だぞ」
んな特技、捨てちまえ。
「……………そう」
それきり、美鈴が話しかけてくることはなかった。そして、放課後になるまで美鈴は何か考え事をしているようだった。