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ヤクソク〜交わしたのは誰と〜  作者: 気衒い
第一部

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Episode.38 進路

静の言う"ハロウィンパーティー"とは彼女の家で行われる仮装パーティーのことだった。毎年、ハロウィンの日になると彼女の家には様々な仮装をした多くの老若男女が訪れ、大いに盛り上がるらしい。その内容は年齢・性別等によって違い、子供達はお菓子を貰って喜び、女性は純粋に会食と自身の近況報告を、男性は仕事の話をして友好を深めるのだそうだ。で、今回はそんな楽しい宴に来ないかとお声が掛かったという訳である。


「えっ!?私達もいいの!?」


「当然です。皆さんも私の大切なご友人ですから」


「でも、静先輩…………」


「そんな顔をしないで、玲華さん。別に無理をしている訳ではありませんから」


「いや、彼女の言いたいことも気持ちも理解できるぞ。この間も話をしただろう?そんなパーティーがあるのなら、チャンスじゃないか」


「いえ。今回のこれは本当に私が望んだことなんです。やっぱり、こういったパーティーはみんなで楽しみたいじゃないですか……………それにチャンスは今回だけじゃないですよ、きっと」


俺が静から誘いを受けた日の翌日。昼休みにみんなで集まって学食を食べていると不意に静が話があると言った。なので耳を傾けみるとハロウィンパーティーについてのもので俺だけではなく、みんなも来て欲しいという内容だった。俺としては当然みんなも誘うものだと思っていた為、大して驚きはなかったのだが、どうやらそう考えていたのは俺だけだったようだ。なんせ、俺以外はみんな寝耳に水といった感じだった…………あ、訂正。俺と光以外は、だ。


「まぁ、静がそれでいいって言うのなら、私は別に…………」


「静先輩、ありがとうございます。楽しみにしています」


「お礼に今度は私の家に招待するよ」


「ふふふ。皆さん、喜んで頂けて何よりです」


何やら知らんところで話がまとまったらしい。こういう時、凄い疎外感を感じるよな。一人だけ話に着いていけてない感じというか……………結局、美鈴達が何を気にしていたのか、さっぱり分からんぞ。


「お兄ちゃん、話に着いていけてないでしょ」


「っ!?な、何故分かった!?」


「だって、お兄ちゃんだし」


「いや、答えになってないんだが」


「はぁ…………」


「何故そこでため息を………?」


「うん。まぁ、今はそれでいいと思うよ。その代わり、後になって苦しむのは自分だけじゃないってことを肝に銘じておいてね」


この場で唯一の静観者だった光…………彼女が俺だけに聞こえる声で発した内容をこの時の俺はまだ理解できないでいたのだった。








「失礼します」


少し控えめのノックをしてから職員室へと入る。誰だって学生のうちはそうだと思うが、職員室という場所は緊張する。別に悪いことをして呼び出されたという訳ではないのにだ。


「ん?………ああ、春日伊くん。こっちよ」


入ってすぐ俺の存在に気が付いた担任に手招きされ、デスク前へと歩を進める。正直、これから話すことを考えれば気乗りはしないが致し方ない。何故なら、これは誰もが通らなければならない通過儀礼のようなものなのだ。そこに逃げ道などありはしなかった。


「悪いわね、わざわざ放課後に」


「いえ。これは俺自身のことなので」


「そうね…………じゃあ、早速だけどいいかしら?」


担任の穏やかながらも鋭い気配を孕んだ視線が俺を射抜く。これに対して、俺はややたじろぎながらも無言で首を縦に振った。


「春日伊くんに提出してもらった進路希望表だけど…………本当にこれでいいのね?」


「…………はい」


「はぁ…………」


「あの…………そんなに変でしたか?」


「いいえ…………まぁ、変というよりは意外といったところかしら」


「そう…………ですか」


「ご家族は何て?」


「家族には…………まだ伝えていません」


「つまり、あなたの独断ってことね」


「で、でもっ!!これは俺の進路ですよね?だったら、家族は関係ないんじゃ……………それに俺の進路希望だったら、負担にもならないし」


「その負担っていうのが何を指すのかについては聞かないでおいてあげるわ。でもね、それ以前にあなたの言葉には矛盾がある」


「ど、どこがですか?」


「自分の進路と言いながら、それを家族に伝えていないところよ」


「だからじゃないですか!関係ないから伝える必要がないんですよ」


「逆よ。関係ないからこそ、気軽に伝えられるんじゃないかしら?俺はこの道に進むから!!…………って勝手に宣言して後は堂々としていればいいんだもの」


「……………」


「でも、あなたはそれをしなかった。何故かしら?」


「そ、それは……………」


「後ろめたかったのよね?家族に反対もしくは気を遣われることが嫌で仕方がなかった」


「……………」


「でもね、あなたのこの選択も家族に気を遣った結果なんじゃないかしら?それでこのまま何も言わず、後から聞かされたご家族はどう思うかしら?もしかしたら、あなたと同じで気を遣われて凄く辛い思いをするかもしれないわ」


「っ!?」


「春日伊くん……………あなた、本当はどうしたいの?」


「お、俺のしたいことなんて……………それにこうすれば、家族が」


「甘ったれんな!!」


その瞬間、担任の声が職員室に響き渡った。幸い、ここにいるのは俺達だけだった為、迷惑がかかることはなかった。


「社会に出たこともないガキが一丁前にそんな心配してんじゃねぇよ!!いいか?お前がしてんのはただの逃げだ」


「に、逃げって…………俺は本当に家族のことを」


「いいや、逃げだよ、逃げ。お前はその選択を取ることによって、安心したがっているんだ。この先がどうなるか分からないから、不安だから、その気持ちから解放されたいだけなんだよ」


「……………」


担任のその言葉に何も言い返すことが出来なかった。もちろん、家族の為という気持ちはある……………でも、よく考えてみると担任の言う通りかもしれなかったからだ。


「ふぅ…………怒鳴ってごめんなさい」


「…………いいえ」


「勘違いしないで欲しいのは()()がした選択自体を否定している訳じゃないの。現にそういった進路を選ぶ子もいるわ。でも、あなたとは状況が違う……………ここまで言えば分かるわよね?」


「…………はい」


俺は担任の言葉に深く頷くと背筋を伸ばした。そろそろ日も傾き、橙の線が静かなここを照らしていく。担任は徐に荷物をまとめると最後にこう言った。


「覚えておいて。大事なのはあなたがどうしたいか、それとあなたが家族を想う気持ち以上に家族はあなたを想っているのよ」


その言葉は耳に貼り付いてたとえ滝に打たれることがあったとしても取れそうになかった。ふと目をデスクの上へと向けるとそこには俺の進路希望表があり、投げやりな汚い字で"就職希望"と書かれていたのだった。





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