Episode.37 整理
文化祭も無事に終わり、本格的に秋の季節に入った今日この頃、俺はとある考え事の為に屋上を訪れていた。
「……………」
文化祭の一件から、ここが俺にとってお気に入りの場所となりつつあった。特に何か考え事をする時などはちょうどいい。まだ完全に冷たくなっていない風が涼やかに吹きつけ、俺の思考をやけにはっきりとさせてくれるのだ。
「綾乃さんも違ったか…………」
俺が考えていたこととは例の婚約者の正体についてだった。最近…………というか夏休みからだが、ドタバタした毎日を送らせてもらっているおかげで全然考えることが出来ていなかった。しかし、彼女達と過ごした中で要所要所は覚えている為、それで困るといったことはなかった。
「まず、美鈴………彼女は以前、考えた通りに婚約者候補から外していいだろう。次に玲華…………彼女の家はどうやらお金持ちらしく、さらに幼い頃、既に出会っていて約束も交わしていることが分かった。しかし、結果からいえば、彼女は候補とはいえないだろう。婚約者がヒントとして"約束"というワードを持ち出す以上、そこに込められた意味はおそらく強いものだ。そこに当てはめると彼女との約束は内容こそ、それっぽいがもっと運命的なというか、ロマンチックっぽいものであるべきだと思う」
よく漫画とかである"大きくなったら、〜君のお嫁さんに…………"とかいうやつである。それと比べると彼女との約束は少々弱い。それにもし約束の件がなかったとしても俺と初めて会った時の両親の態度からして彼女は候補ではないだろう。親父は言っていた。先方も乗り気である、と。玲華の両親は出会うまで俺のことなど全く知らず、さらに演奏会を終えてからの玲華父の俺への態度を見るに親父の言った前提に当てはまってはいないだろう。
「そして、最後に綾乃さんか………」
つい最近の出来事の為、彼女のことに関して考えを巡らせるのは容易だ。先に言っておくと彼女もまた候補の一人ではないだろう。そもそもからして、彼女との約束など一切思い出せなかったのだ。というよりもしていないといった方が正しい。もちろん、俺が忘れているだけだという可能性もある。しかし、美鈴・玲華…………この二人との約束を思い出して綾乃さんだけ思い出せないということはないはずだ。なんせ、彼女との時間の方が二人よりもずっと濃く、今でも夢に彼女の父と祖父が出てくるぐらいなのだ。
「ひっ!?嫌なことを思い出しちまった」
それに何より、玲華のケース同様、先方が乗り気であるという前提も当てはまらない。てか、彼らが乗り気なのは婚約ではなく、俺と一戦交えることだからな……………実に恐ろしい。これが現実ではないと願いたい。
「はぁ…………てことは結局、振り出しか。まぁ、あの三人が候補から外れたってことを考えれば、これも前進なのか?」
とここまで考えてから、俺はため息を吐いた。その直後、背後で扉の開く音が聞こえる。どうやら誰かが来たようだ。
「塔矢さん?」
おずおずと遠慮がちにやってきたその人物…………それは皇静だった。
「二人きりで帰るのは久しぶりですね」
「だな。なんか最近、バタバタしちゃってたもんな」
「いえ。私が言ったのはそういう意味じゃなくてですね…………」
「ん?」
「ほら………美鈴さんとか玲華さんとか綾乃先輩とかは塔矢さんとちょいちょい二人きりになってるじゃないですか」
「へ?」
「でも、私なんて転校初日の校内と街の案内ぐらいでしか二人きりになれてません……………なんか、これって寂しいです」
「え〜っと…………そうだったっけ?」
「はい」
「そ、そうか。それは悪いな。じゃあ、今度は二人で静がしたいことをするか」
「わぁっ!!ありがとうございます!!」
小さい子供のように喜ぶ静を見て、俺は自分を戒めた。別に静を蔑ろにしていた訳ではなかったが、もう少し彼女のことを気遣うべきだった。
「で?静は何をしたいんだ?」
「それなんですけど…………」
そう言って、少し間を空けてから、静はこう口にした。
「ハロウィンパーティーに出ませんか?」




