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ヤクソク〜交わしたのは誰と〜  作者: 気衒い
第一部

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33/94

Episode.33 旅館

一頻り、海で遊んだ俺達は近くにある旅館に一泊していくこととなった。そこは風情がいい木造建築の旅館だった。


「お部屋はどう致しましょうか?」


「一つで…………」


「ふ、二つで!!もちろん、二つでお願いします!!」


「塔矢の言う通りよ!!い、一体何考えてんのよ、あんた!!」


「こらこら。そんなに騒いだら迷惑だぞ」


「「……………」」


約一名、とんでもないことを口走りそうになったお嬢様を全力で阻止した俺達は受付を無難に済ませて部屋へと向かう。その際、近くで舌打ちのような音が聞こえた気がしたが、聞こえないフリをしつつ、辺りに視線を配った。すると、さっき受付で説明された大浴場の暖簾が見えた。ちなみにその角を左に曲がるとそれぞれの部屋がある。


「じゃあ、明日は朝七時にロビーに集合ってことで」


部屋の前で別れた俺達はそれぞれが荷物を置きに部屋へと入る。ちなみに俺が一部屋であとのメンバーが同じ部屋だった。青春の大暴走が起きない為には致し方のない措置だったとはいえ、俺だけが一部屋まるまる使えるのは悪い気もしてくる。しかし、あっちもあっちで同性同士で話したいこともあろう。いわゆる、ガールズトークというやつだ。それを邪魔しては悪い。


「ちょっと静!さっきのは何なのよ!!」


「あら?どうしたんですか、美鈴さん。そんなに興奮して…………あ、お水飲みます?」


「あら、気が利くわね。ありがとう……………って、そうじゃなくて!!」


「え?もしかして、このお部屋のどこを自分の領土としたいのか主張なさるおつもりなんですか?まぁ〜気がお早いことで……………あ、私は端の方でお願いします」


「そんなことが言いたいんじゃないわよ!!ちなみに私は真ん中ね!!」


「君もちゃっかり乗っちゃってるじゃないか。とにかく、落ち着きたまえ。あ、私は二人の間に挟まれなければどこでも」


「私は光と隣同士がいいです」


「私も!!玲華の隣がいい!!」


「ならば、私が二人の間に挟まるしかないか」


「「すみません、綾乃先輩」」


「いいんだよ。どのみち、この二人の仲裁役が必要だしね」


「まぁ!収まるところに収まりましたね!!」


「ちょっと!私達のせいにされてんのよ!?少しはプライド持ちなさいよ!!」


「美鈴さん、自分の過ちを認められない人はみっともないですよ?」


「ぐっ…………正論だけどあんたに言われてると思うと腹が立つわね」


「何ですか、もう…………もしかして、さっきの受付でのことですか?」


「分かってんなら、はぐらかすな!!あれはあからさまじゃない!!このムッツリ!!」


「最近、誰かさんと距離が近いからって余裕ぶらないで下さい。こっちはあなたと違って、こういうチャンスに懸けるしかないんです」


「べ、別にあいつと距離が近いのは昔からだし」


「ん?あいつ?」


「う、うるさいわね!!」


「それに私だけが特別良い思いをするのは申し訳ないのでああ言ったんじゃないですか……………本当は私と誰かさんだけ同じお部屋でも良かったんですよ?」


「っ!?そ、そんなの不潔よ!!この変態!!」


「わぁ〜呼ばれ方がグレードダウンしました!!……………許せませんね」


「あのさ、二人とも……………この部屋、壁がそんなに厚くないんだよ?」


「「………………」」


本当にその通りだよ、綾乃さん!!ナイス!!てか、そういう会話はみんなでお風呂に入っている時にでもするもんなんじゃないの!?てか、こんなの想像していたガールズトークでもなんでもないし!!全然、ほんわか・キャッキャッウフフしてないし!!


「よし……………風呂、行くか」


その後、隣の部屋が静まり返ったのを確認した俺は何も聞かなかったことにして、大浴場へと向かうのだった。







「「あ……………」」


夜もだいぶ更けてきて、寝る前に少し喉が渇いた俺は自販機へ飲み物を買いに部屋を出た。すると、ちょうど同じタイミングで部屋を出た綾乃さんと目が合った。そして、その流れで一緒に自販機へと向かい、近くにあったソファーへと腰をかけた。


「お疲れ様です」


「ん?」


「いや、あの二人の相手ですよ………すみません。俺もどうにかして、力になりたいんですが部屋も違いますし、こればっかりは……………ね?」


「いやいや。塔矢くんがお礼を言ったり謝罪をしたりする必要はないよ。私が好きでやっていることだ。まぁ、多少は疲れるが……………にしても気付いていたのか」


「いや、あれだけ騒いでいれば流石に気付きますって」


「まぁな。なんせ、大浴場から戻ってもあの調子だ。でも、今日のところは許してやってくれないか?余程、みんなで出かけることができて嬉しいんだろう。特に静さん。彼女はこういった経験があまりなさそうだからな」


「いや、俺は全然。それでいうと旅館の方達に迷惑がかかってないかの方が心配ですが」


「ははっ!違いない」


「いや、笑い事じゃないですって」


綾乃さんは軽快な笑みを浮かべると次の瞬間には穏やかな表情になり、持っていた缶コーヒーに口をつけた。


「……………もう夏休みも終わるな」


「はい」


「今年の夏は特に楽しかったよ」


「それは良かったです」


「また、こんな風に過ごせたらいいな」


「何言ってるんですか。楽しいことは夏だけじゃありませんよ。学校が始まれば、それこそ文化祭もありますし」


「そう…………だな」


この時、綾乃さんが見せた表情……………その本当の意味を知るのはもっと後になってからだった。






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