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Episode.3 案内

「それでここが職員室………………以上かな」


「なるほど」


放課後、俺は皇へ校内を案内して回っていた。いつもなら光か美鈴と一緒に帰宅している時間だが、今日は用事があるからと言って先に帰ってもらっていた………………皇を案内すると言ったら、また面倒臭いことになりそうだったからな。


「塔矢さん、わざわざ案内して頂いてありがとうございました」


「いやいや。言っただろ?何か分からないことがあれば、何でも聞いてくれって。これからもどんどん聞いてくれて構わないからな」


「そうですか……………なら」


そう言って、突然俺の耳元に顔を近付ける皇。俺としては不意をつかれたその行為に胸がドキドキとしてしまった。耳心地の良い綺麗な声が耳をくすぐり、美しい黒髪が俺の肩にかかる。それにこれだけの美人だ。クラスの男子達ではないが、俺も彼らと同じような反応をしてしまうのはしょうがないことだろう。


「皇……………?」






「ちょっと!何なのよ、あれ!」


「美鈴ちゃん、シッ!大きな声を出したら、聞こえちゃうよ」


「校内を案内するだけに飽き足らず、あ、あ、あ、あんな…………」


「まるでキスするみたいな?」


「グサッ!?直接的な表現は避けてよ」


「う〜ん…………でも、どうなんだろう?美鈴ちゃんに頼まれて、こうして二人の後をつけまわしている訳だけど」


「その言い方、やめてくれない?」


「あ、ごめん。こうして二人の後をストーキングしている訳だけど」


「それ、余計酷くなってるから」


「だって、そうじゃん。大人しく二人で帰ればいいのにこんなこと」


「光も心配じゃないの?大好きなお兄ちゃんがぽっと出の転校生に取られちゃうかもしれないんだよ?」


「その言い方、やめてくれない?」


「あ、ごめん。大大大好きなお兄ちゃんがぽっと出の女に取られちゃうかもしれないんだよ?」


「それ、余計酷くなってるから」


「あれ?」


「まぁ、とりあえず心配しなくても大丈夫でしょ。だって、本当に今日知り合ったばかりなんでしょ?」


「うん。そうみたいだけど」


「え〜っと、皇さん?は美鈴ちゃんから聞く限り、あとこうして見ている限り、どこかのお嬢様みたいな雰囲気でなんかガード固そうだし、お兄ちゃんもお兄ちゃんでそんな今日会ったばかりの人に手を出しちゃうようないい加減な人じゃないよ」


「それは分かってるんだけど!塔矢はああ見えて真面目だし、優しいし、時々妙に男らしいところを見せたりとか、まぁ、そこがかっこよくて……………」

 

「あぁ、はいはい」


「とにかく!ないと思うんだけど!絶っ対に!ないとは思うんだけど!皇さんのあの魔力に吸い寄せられでもしたら」


「魔力て。あの人は魔物か何かなの?」


「あっ!あの二人、移動するみたい!!こうしちゃいられないわ!光!急いで後を追いかけましょう!」


「え〜本当に大丈夫だと思うんだけどなぁ…………仕方ないか」







「凄くいい街並みですね」


「そう?」


「はい!」


俺の住む街…………押幸(おしあわせ)市は人口二十万人程であり、分かりやすいところでいくと神奈川県の厚○市とほぼ同じ人口である。中心部分には駅やビルが密集する都会で外れの方へ行くと海や山といった自然に囲まれた場所が多く存在する。ちなみに俺達が今いるのも市の中心に位置する街だった。


「うわぁ〜」


皇は目をキラキラさせながら、辺りを見渡している。皇がどこから来たのかは分からないが、この様子からするとよっぽど環境の違う場所で暮らしていたようだ。


「……………」


俺はそんな皇の様子を見ながら、気が付けば笑っていた。


「あ〜!もしかして、私のことあまり外に出ない箱入り娘とでも思ってます?」


「いいや。そんなことはないよ。ただ…………たださ」


「?」


「何でかは分からないんだけど、皇がこんなに楽しそうにしているのが……………俺は嬉しいんだ」


「っ!?」


まだまだ街の隅まで案内しきってはいない。しかし、日が暮れてレンガ色に染め上げられていく街の中で俺と皇はまるで時が止まったように見つめあっていた。


「「………………」」


やがて日も沈み、もうすぐ宵がやってくるというのに……………どうしてだろう?俺達はどうしても互いに目が離せなかった。


「いや、離せや!!」


「「いでっ!?」」


俺と皇は同時に頭を叩かれた衝撃で現実の世界へと戻ってきた。横を見るといつからそこにいたのか、我が親愛なる幼馴染みがハリセンを持って立っていた。


「ちょっと美鈴ちゃん!駄目だってば!!」


「美鈴……………と光?」


「はい、そうです。塔矢くんのい・ち・ば・んの!理解者である美鈴さんですよ!」


「どうして、二人がここに?」


「そんなの決まってるじゃない!私は」


「私にご挨拶がしたかったのですよね?」


美鈴が何か言葉を続けようとした直後、それを遮るように皇が口を挟んだ。すると、それに嫌な顔をした美鈴が皇の方へ顔を向けた。


「あ〜ら、皇さん。いたの?全然、気が付かなかったわ」


「それを言うのなら、私の方です。塔矢くんに自己紹介をしたあの時、視界に入らなかったもんですから、あなたに自己紹介をしそびれました。ごめんなさいね」


「ムカっ!」


「改めまして。皇静と申します。私の視界に入らないぐらい存在感の薄いあなたとは関わることもないかとは思いますが、一応よろしくお願い致します」


「ど・う・も!三海美鈴です!今日、来たばかりの皇さんよりも私の方が塔矢と過ごすことが多いから、もう会うこともないでしょうね。一応よろしく」


「あはは。わ、私は春日伊光で…………」


「あら、美鈴さん。そんなこと言わずにあなたも混じっていいですよ。今後はわ・た・しの方が!塔矢くんとご一緒する機会が多いので」


「何言ってんのよ!いつもは私と光が塔矢と帰っているんだから!割り込んでこないでよ!!」


「私達のことをストーキングしていた人にとやかく言われたくはありません」


「あ、あの。私は春日伊光っていい………」


「ス、ストーキングなんて変態みたいなことしてないわよ!!被害妄想も大概にしてよ!!」


「あんな尾行の仕方でバレてないとお思いで?それにあなたは立派な変態です。どうせ、家では変なことでも考えているんでしょう?」


「へ、変なことって何よ!!」


「えっ!?そんなことを私の口から言わせるんですか?」


「あんたは一体、何を考えているのよ!!」


「「……………」」


おそらく、美鈴に無理矢理付き合わされたっぽい光と喜んで皇への案内を買って出た俺は何故、こんなことになったのだろうと二人の言い合いを無言で見つめた後、二人揃ってその場から、さりげなく離れていった。


「……………光。晩御飯の材料、買ってこう」


「うん。今日は何がいい?」


触らぬ神に祟りなし。君子危うきに近寄らず。俺達はたったの一日で皇が美鈴と同レベルなのだと理解した。








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