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Episode.27 プール

「ううっ」


「だから、泣くなって」


「だって」


「お前は相変わらず、泣き虫だな」


また夢を見ていた。幼い頃の俺と……………相変わらず、顔の見えない少女の。


「はぁ……………仕方ないな。俺が何とかしてやるよ」


「本当!?」


「ああ!任しとけ!!なんせ、俺はお前の………………」


やばい。この感覚は…………夢から覚めてしまう時のあれだ。


「うん!ありがとう!!」


頼む!あと少し待ってくれ!!あと少しで何かが分かりそうなんだ!!


「へへっ!いいってことよ!!」


しかし、俺の望みは届かず……………夢はここで途切れてしまうのだった。






「夏!それは開放的になるということ!つまり……………」


「つまり?」


「プールだ!!!!!」


「テンション高いな」


地元の駅から数駅離れたところにある大型のアトラクション施設。その中の一つがただ今、俺達のいるプールだった。流れるプールや本物の海を再現した波のプール、ウォータースライダーといった様々なアトラクションがあり、開園してからまもなく10年は経というというのに全く古臭さを感じさせないつくりとなっている。休日や祝日は家族連れやカップルで賑わい、それに伴って、別のイベントが開催されることもあるここはまさに来場者にとって楽園ともいえる場所だった。そして、それはどうやら俺達も例外ではないらしく、目の前では浩也が何やら気持ちの悪い踊りを披露していた。


「何?テンションが高いだと?それはそうだろう!!なにせ…………」


「なにせ?」


「あんな美人達とこんな青春イベントができるのだからな!!」


そう言って、浩也が指差した方には……………なるほど。まさに楽園ともいえる光景が広がっていた。


「美鈴さん、スタイルが良くて羨ましいです」


「何言ってんの。静だって、めっちゃスタイルいいじゃない」


「安心しろ。私を含めたここにいる全員、もれなく超のつく美少女だからな」


「……………恥ずかしい。やっぱり、帰ろうかな」


「ほら、玲華!せっかく来たんだから、楽しまなきゃ!!」


向こうから、ゆっくりとこちらへ歩いてくる天使達。彼女達を見た周りの男共はだらしなく鼻の下を伸ばし、女性達は感嘆のため息を吐いていた。


「ん〜ビューティフル!!」


「おい。お前までそっち側にいくな」


それもそのはずだ。なんせ元から容姿の整った彼女達が現在、眩しすぎて直視できないほどよく似合った水着を着ているのだ。まず、静。彼女は自身の髪色と同じ黒のビキニだった。ここだけ聞くと人々の目にはとても艶かしく映りそうなものだが、不思議とそんな気持ちにはならなかった。彼女のとても落ち着いた性格がそうさせるのだろうか。しかし、かといって、子供っぽさを感じさせるといった風でもない非常にバランスの取れた格好だった。次に美鈴。彼女の水着はオレンジ色のものでやはり、ここでも彼女の性格が表れているのか、活発そうというか、とてもスポーティーな印象を受けた。と同時にちゃんと男心をくすぐる色気はあるのか、遠くの方で美鈴に見惚れた男がパートナーに足を踏まれるといった珍事も起きていた。三番目に目に入ったのは綾乃さんだ。彼女は自身のプロポーションを最大限に見せつける真っ赤なビキニであり、これでもかというぐらいエロスを振り撒いていた。今の彼女を見れば、たとえ煩悩を捨て去ったお坊さんでもたちまち下心を取り戻すことだろう。次は玲華。彼女の水着は黄色のものでこの中だと最も幼いという印象を受けるだろう。しかし、それは裏を返すと最も伸び代があるということであり、決して女性として劣っているという訳ではない。現に自身の身体を隠そうとモジモジする彼女に男心を刺激された奴らは大きな歓声を上げている。最後に我が妹、光。彼女は水色の水着を着ており、それは玲華と同じワンピースタイプのものだった。仲良く同じ店で水着を買う似た者同士な二人を想像したら、なんだか微笑ましくなってくる……………が、玲華とはまた違う魅力が光にはあった。それは発展途上なはずなのに何故か、大人の色気があるということだった。上手く言葉で言い表せないが、目の前で子供っぽく微笑む光からは同時に少しでも気を抜くと包み込まれてしまいそうなそんな包容力を感じさせ、無意識のうちに目で追ってしまっていた。


「みんな、綺麗だ…………」


「「「「「っ!?」」」」」


と、そんなことを考えていたら、どうやら知らぬ間に言葉が口から出ていたらしい。目の前で顔を真っ赤にする天使達を見たことで俺はハッと我に返り、それに気が付いた。しかし、無意識のうちに出ていたということは紛れもない本音だということになり、それは……………


「いや、これはだな……………素直にそう思ったからで別に他意は」


「いや、お前もこっち側じゃねぇか」


その後、しどろもどろになる俺に至極真っ当なツッコミをする浩也がそこにはいた。








「凄いです!ちゃんと流れてます!!」


「あんた、そんなんで感動するって、どれだけお嬢様なのよ」


「うん。これは実に気分がいいな」


「じ、人体が浮くなんてひ、非科学的であって…………」


「玲華、私が泳ぎを教えるから、こっち来て」


気を取り直した俺達がまず向かった先は流れるプールだった。ここは流れが実に緩やかでそれは小さい子供からお年寄りまで幅広い層が楽しめる程だった。現に目の前では浮き輪に掴まりながら見事なバタ足を披露する子供が横切っていった……………いや、まぁいいんだけど。流れるプールであれはモラル的にいいのか?


「うわぁ〜あ〜」


「玲華、落ち着いて!!」


うん。まぁ、別にいいか。俺は奇声を上げながら、ある意味立派な犬かきを披露する玲華を見て、そう思い直すことにした。







次に俺達が向かったのは身長制限のあるウォータースライダーである。この中だと比較的小柄な光や玲華は乗れるのか?と軽く失礼な心配をしていた俺だったが………………


「お兄ちゃん!それは失礼すぎ!!私達だって、ちゃんと乗れるんだから!!」


「そ、そうです!!いつまでも子供扱いしないで下さい!!」


「いや、俺はちゃんと分かっていたぞ?2人はもう立派な大人だって」


「「はい、ダウト」」


やはり、俺は思ったことが顔に出やすいらしい。







最後は海を再現した波のプール。寄せては返す波の感じを立派に再現しており、遠くに見える小島のCGもクオリティーがとても高い………………あれ?今日の俺、立派って言葉をやけに使うな。


「塔矢さん?そんなところで黄昏れてどうしたんですか?」


「いや、最近の技術力の凄さと自分のボキャブラリーのなさを同時に感じていたんだ」


「あんた、悟りを開いた坊さんかっての」


「美鈴さんや、坊さんネタはさっきやりました」


「あっそ。じゃあ、色々と枯れ果てたおじいちゃんでいいわ」


「色々と枯れ果てたら、さっきの感想は出てこないと思うんだが」


「っ!?うっさいわ!!」


その後は何故か、顔を赤くした美鈴にロケットランチャータイプの水鉄砲による砲撃を食らいました………………いや、それどっから持ってきたの!?







「みんな、寝ちゃったな」


「はい」


「今日は沢山、遊んだもんな」


「はい」


「やっぱり、疲れちゃったか」


「だと思います」


「「………………」」


帰りの電車の中でそれぞれ肩を貸し合いながら眠るみんな。そんな中で隣同士に座る俺と玲華だけは起きて、声を抑えながら話をしていた………………いや、訂正。あとは浩也も起きていた。何故か、かなり離れたところの扉付近にもたれながら目を瞑っているが…………あれは絶対に起きてるな。いや、本当にあいつの行動は謎だ。


「楽しかったか?」


とまぁ、奴の行動についてなど考えるだけ無駄だと判断した俺はすぐに頭を切り替えて、先程から気になっていたことを玲華へ問いかけた。


「はい…………とても。こういう大勢でどこか行く機会などなかったので楽しかったです」


「そうか」


「今日はお誘い頂いて、ありがとうございました」


「何言ってんだ。お前ももう俺達の仲間なんだ。当然だろ?」


「塔矢先輩…………」


「言っとくがこれからもどんどん誘い出すからな。覚悟しておけよ?」


「……………はい」


軽く微笑みながら、そう答える玲華。しかし、その表情は誰がどう見ても無理をしていると分かるものだった。それと玲華が答えるまでに発生した間の意味がこの時の俺には理解できなかったのだった。








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