Episode.26 夏休みの予定を立てよう
「え〜暑い日が続きますが、夏休み中も本校の生徒であるということを忘れずに自覚を持った行動を……………」
現在、終業式の真っ最中である。全校生徒が一同に会している体育館では皆、校長の長い演説が終わるのを今か今かと待ち侘びていた。これが終われば、あとは教室に戻って軽いホームルームを済ませるだけだ。中にはこの時間を利用して早速、友人達と夏休みの予定を立てている者もいる。だからだろうか。そこかしこから、ヒソヒソ声が聞こえてくるのは。
「ごほんっ」
しかし、そんな声も学年主任の唐突な咳払いで収まった。あの人だけは怒らせてはいけない。なにせ、陰で鬼主任と呼ばれ、教師・生徒共々から恐れられている人だからだ。
「にしても夏休みか……………」
そんな中、俺はというと例に漏れず、来るべき夏休みに備えて思考を巡らせるのだった。
「ってことでこれから夏休み中の予定を立てる訳だが」
「あの〜つかぬことをお伺い致しますが」
「ん?何だね、塔矢助手」
「何で当たり前みたいに俺ん家に集まっているのでしょうか、綾乃先生」
「嫌なのか?」
「嫌っていう訳じゃないですけど、こうも当たり前になるとちょっと…………」
「ちゃんと妹さんの許可は得ているぞ?いや、むしろ彼女の方が乗り気だ」
「お兄ちゃん、私は全然平気だよ?それにみんなで夏休みの予定を立てるなんてワクワクするじゃん」
「その通りだ!一体どうしたというのだ、トゥーヤよ!!」
「しかも何でお前までいるんだよ!!」
「いつまでもお前だけにこんな素晴らしい空間を味わせたくないのでな」
「は?」
「塔矢さん、心中お察し致します」
「静……………俺の支えはお前だけ」
「いいわよ。こんな頭のお堅い人は放っておいて、話を進めちゃいましょ」
「美鈴さん、あなた最近容赦ないね」
「うっさい!だいたい両親がいなくて静かだし、家主がいいって言ってんだから、迷う余地ないじゃない。考えてみて?みんなで集まるのにこんな最適な場所、他にある?」
「そりゃ、ファミレスとか……………」
「ってことでこれから夏休み中の予定を立てる訳だが」
「台詞がループした!?」
「お兄ちゃん、これも青春だよ」
「妹さんは相変わらず、良いことを言うなぁ……………とまぁ、冗談はこれぐらいにして、さっさと夏休みの予定を立ててしまおう。それぞれ忙しくて放課後は集まれなかったからな」
「こんなこと言いたくはないんですけど、綾乃さんは受験生でしょ?油を売ってていいんですか?」
「ん?言ってなかったかな?私、既に推薦が決まってるから」
「「「「「「おー!!!!!!」」」」」」
「え?どこまで完璧なんですか。あなたの言うことなら何でも聞きますだって?そんなに褒めるな」
「いや、言ってないから」
まぁ、何はともあれ、その後はワチャワチャしながらもあーでもない、こーでもないと予定を立てていった俺達。とはいえ、それぞれの予定もある。だから、全員が集まれる日は限られていた。
「………………」
と、そんな中、俺は先程から一言も発さない目の前に座る少女のことが気になっていた。元々、人見知りということもあるのだろうが、ここにいるのは勝手知ったる仲間達だ。緊張して話せないということもないだろう。
「玲華はどうだ?何かやりたいことはないか?」
だから、俺はあえて明るく話を振った。もしも、何か考えていることがあるのなら、ここで言ってくれるはずだと信じて。
「すみません。私は…………」
しかし、そんな俺の声も今の彼女には届きそうもなかったのだった。




