Episode.25 中間テスト
美鈴は親父の言う婚約者ではなかった。それが彼女と接して分かったことだった。予期していなかったとはいえ、この収穫はデカい。なんせ婚約者候補から1人外して考えることができるのだ。
「であれば、あれは一体誰のことなんだ?」
そう。美鈴との約束の件で俺が思い出した光景はあの公園の砂場で幼き日の俺と美鈴が話をしているというものだった。となると静が転校してくる日に見たあの夢、そこに出てくる少女とは別のものということになる。
「ますます迷宮入りだな……………しかし」
俺はそこで一旦思考を止めると目の前の現実を直視した………………そう。今、俺が置かれている状況はそんなことを考えている余裕なんてない程、切迫していたのだった。なんせ……………
「……………中間テストか」
何を隠そう、6月に入り、あと2週間後には中間テストが控えていたのだった。これをちゃんと乗り越えなければ、その後に控えた夏休みを思う存分楽しむことなど到底できない。それにしても……………あ〜楽しみだなぁ、夏休み。海に山、プール、BBQ、花火、天体観測…………あとは何だ?まぁ、いいや。とにもかくにも楽しそうなイベントが目白押しだ!!
「塔矢さん?一体、どこを見ていらっしゃるのでしょうか?」
「そうよ。現実逃避なんてしている場合じゃないでしょ」
しかし、そんな俺のどこか遠い目も目の前に座る2人の般若………
「「今、何か?」」
「ひぃっ!?」
もとい女神に諭されたことによって、中断させられた。現在、俺の家にて中間テストの為の勉強会が開かれており、講師役として成績上位者の静と美鈴が教鞭を振るってくれているのだ。
「あんまりふざけているようですとお教え致しませんよ?」
「そうよ。こっちもやってあげたくなくなるんだから」
「すみません。もうふざけないのでご指導ご鞭撻の程、よろしくお願い致します」
まぁ、生徒として教わるのは俺1人だけなんだが。なんせ、綾乃さんは学年も違う上に当然成績がいい。そして、下級生である光と玲華もすこぶる頭がいいのだ。つまり、この中で優秀でないのは俺だけ……………で、でも!ちょうど平均ぐらいは維持してるし、俺の周りが特別頭がいいってだけで…………って、なんか言ってて情けなくなってきたな。
「はぁ」
「塔矢さん、手が止まっていますよ」
「何?そんなに勉強したくないの?」
「いや、この世はつくづく理不尽だと思ってね」
「何言ってるんですか。テストは塔矢さんだけが受ける訳じゃありませんよ?」
「いや、そういう意味で言ったんじゃないんだが」
「?」
まぁ、強者には弱者の気持ちなんぞ到底分からんわな。俺は不思議そうな顔をする静を横目に覚悟を決めて、ペンを走らせた。あ、ちなみに今ここにはいない浩也も成績上位者のうちの1人だ。本当、世の中って……………はぁ。
中間テストは6月の中旬頃に行われ、全科目が終了するまでは計三日間かかる。この地獄の三日間のことは生徒達の間では皮肉の意味を込めて"お地三さん"と呼ばれている。は〜なんだか非常に拝みたくなってきた。
「祈るのは最後までちゃんと足掻いてからにしなさい」
「はい」
現在、テスト前夜である。俺は自室にて、美鈴から最後の追い込みをかけられていた。いや、正確には違うな。追い込みをかけてくれるよう俺の方からお願いしていた。
「……………あのさ」
「ん?何だ?ここ、間違えてたか?」
「いや、合ってるわよ。凄いじゃない」
「あはは。美鈴達がこうして付き合ってくれたおかげだよ。ありがとな」
「ううん。塔矢が頑張ったからよ……………って、そうじゃなくて!!」
「?」
「その…………あの日はありがとね」
「あの日?」
「この間の…………さ」
「ん?………………ああ、あれのことか」
「私、あの日から変われた気がする。まぁ、それで言ったら、私は塔矢と初めて会った時からどんどんと変わっていっている訳なんだけど…………でも、中でもあの日は特別だった」
「……………俺は当然のことをしただけだ。美鈴がああなっていたのは半分は確実に俺のせいな訳だし」
「それは」
「違くない」
「塔矢…………」
「悪いけど、こればかりは譲れない。美鈴がどう思おうとそうだから。いや、正確には違うな。そう思っていたいんだ」
「………………」
「まぁ、俺のせいで美鈴には苦しい思いをさせてしまったのは事実な訳だけど、あれが全て無駄だったとは思わない。美鈴には悪いけど、俺達の関係を進めるには凄く良い機会だったと思う」
「わ、私達の関係っ!?」
「ん?どうした?」
「だ、だって!!塔矢がそんなことを言うなんて」
「ん?何か変か?俺は今回の一件で俺達の間にあった溝が取れて、より仲良くなれたと思ってる。だから、これからもよろしくな!!」
「っ!?え、ええ。そうね。ちなみにそれって…………」
「親友として!そして、幼馴染みとして!!」
「ええ!そうよね!!どうせ、そんなことだろうと思ったわ!!」
「?」
何やら美鈴が1人で興奮していたが、俺にはさっぱりだった。なるほど。こんだけ仲が深まっているのに分からないこともあるもんなんだなぁ。
「よし!気を取り直して頑張るぞ!!」
「切り替え早っ!!」
こうして強力な協力を得た俺は万全の体制でテストへと臨み、見事に全科目で平均点以上を取ることに成功したのだった。




