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Episode.20 雨の中の記憶

「ぐすんっ……………やっぱり私、何もできない」


「そんなことないって」


「ううん。私、いつもみんなから遅れるの………………図工も算数も体育も……………もう、こんなの嫌だよ」


「諦めるなって!お前はやれば、できるんだから」


「それは塔矢くんのことでしょ?あ〜あ…………いいなぁ〜塔矢くんは……………なんでもできて」


「………………分かったよ」


「塔矢くん?」


「お前ができるまで俺が付き合ってやる!だから、もう泣くのはやめろ!」


「いいの?」


「ああ!なんてったって俺はお前の……………だからな」


またしても夢を見ていた。雨の降りしきる中、シャッターの閉まった店の軒先で雨宿りをする俺と少女。それは幼い頃の記憶だった。おそらく、小学校低学年……………いや、高学年くらいか?いずれにせよ、以前夢で見た時間軸とさほどズレていない時だろうか?そういえば、少女の俺に対する呼び方も以前の夢でのものと一致している……………であれば、その時の少女との夢か?


「ありがとう!塔矢くん!!」


どちらにしても少女の顔はよく見えず、決定的な証拠は見つからなかった。そうして、俺はあの時振りにモヤモヤとした目覚めとなったのであった。







五月の末日。少し早い梅雨入りを迎え、ジメジメとした日々が続く中、俺は今日も今日とて勉学に励んでいた。体育祭を終えてから、俺はどこか憑き物が取れたかのように美鈴達だけではなく綾乃さんとも普通に接することができるようになっていた。もちろん、頭の片隅には婚約者のことが常にあり、早く何とかしなければという思いはある。しかし、婚約者のことと美鈴達を結びつけるのは一旦やめてみようと俺はあるキッカケから、そう思うようになっていた。まぁ、それというのも………………


「俺の華麗なるアドヴァイスがあってのものだろう?」


「っ!?いきなり、後ろから現れるなよ!!気色悪いな!!」


「それにしても"勉学に励んでいた"なんて自分で言うのはどうかと思うぞ。そういうのは他人から言われるものだ」


「おい!ラプラスの悪魔!!お前、どこから人の心を読んでいた!!」


「ん?そんなの最初からに決まっているだろう?」


「えっ……………ってことは」


「まぁ、いかんせん途中の部分だけは何故か読めなかったがな」


「な、なんだ……………そっか」


「んんっ?何だ、その安心しきったような平和ボケした面は。もっと不安そうな表情を……………世の中の全てに絶望したような表情をしてみせろ!!」


「そんな表情するか!ってか、お前は本当に俺が困るの好きだよな」


「当たり前だろう。お前は色々と持ちすぎている。しかもタチの悪いことに本人にその自覚はなし………………だからこそ、お前と接した全ての者はお前を羨み、嫉妬の業火でその身を焼けないか、日々怨念を募らせることだろう」


「怖すぎだろ!!ってか、俺のことはいいから自分の人生の為になることをしろよ!」


「まぁ、暇なんだろ?」


「いや、その理論でいくとお前もそうなるが?」


「いやいや。俺は彼ら程じゃないさ。なんせ、こうやってお前をからかう程度に抑えているからな」


「これで抑えている方かよ」


俺は浩也とそんな馬鹿話をしている最中にふと教室の扉の方に目をやった。すると、そこにちょうど美鈴が駆け足で駆け込んできた。


「ごめん、塔矢!遅くなった!!」


「大丈夫だ。全然待ってないから」


「そう?」


「ああ。だから、そんなに急ぐことないのに」


実は今日、美鈴と一緒に帰ることになっていたのだ。しかし、美鈴が職員室に用事があるということで俺は少しの間、教室で待つことにしたという訳である。ちなみに光はスーパーの特売があるとかで先に帰り、玲華は神出鬼没な奴なのでそもそも会うのが稀、綾乃さんに関しては向こうからやってくることが多く、それがないということは何か用事でもあるのだろう。とにもかくにも今日は久々に美鈴と二人での下校となったのだった。


「良かった。私のせいで塔矢に迷惑かけたくないから」


「おいおい。雨にやられたか?そんなこと言うなんて、いつものお前らしくないぞ?」


「ごめんごめん……………じゃあ、帰ろうか?」


「そうだな」


俺達は誰もいない教室を出て、昇降口へと向かった。あ、浩也は美鈴が駆け込んできた瞬間にどこかへと姿を消していた。まぁ、それはいつものことだった。






幼馴染みと肩を並べて歩く………………浩也からすれば、それは喉から手が出るほど体験したいシチュエーションらしいが、俺にはそれがよく分からない。俺にとって美鈴とこうして歩くことは昔から繰り返してきたことであり、今さらそれで一喜一憂するなどありえないことだった。だからこそ、この状況を見てあいつが何か言ってくるのなら、俺は自信を持って、こう言ってやりたい……………別に普通だと。


「ごめんね。私が傘忘れちゃったから」


「別に謝ることじゃない。それに俺が持ってるんだからいいだろ」


「でも、さ。こんなところを学校の人に見られたら、何て言われるか」


「いやいや。今さら一緒の傘で帰ったくらいでそれはないだろ」


「分からないよ?一年生なんて入ったばかりで私達の関係性までは知らないかもしれないし」


「そんなのどうとでも思わせとけばいいんじゃないか?別に俺達が気にしてやることじゃないさ」


「……………塔矢はそれでいいの?」


「ん?」


「その…………私達が付き合ってるのかもとか思われても」


「どっちかっていうとそれは俺の台詞だろ。美鈴は人気者なんだし、お前のブランディング的には…………」


「ブランディングって…………私、芸能人でも何でもないよ」


「とにかく!俺はそう思われてもいいが、お前の方は……………」


「えっ、いいんだ?そう思われても」


「話、聞いてたか?俺なんかのことより、お前の方が…………って、おい!」


話の途中で急に傘の中から飛び出した美鈴は帰り道の途中にある公園の中に入っていった。俺が何か怒らせるようなことを言ったのか?……………俺は訳が分からないまま、とりあえず美鈴を追いかけた。そして、公園の中に入ったまま立ち尽くす彼女を傘に入れた。


「ここ…………覚えてる?」


「ん?覚えてるっていうか、毎日横を通るだろ」


「そういうことじゃなくてさ……………」


その瞬間、美鈴は隣にいる俺の方を何ともいえない表情で見上げてきた。そんな彼女の瞳からは雫のようなものが滴り落ちていた。しかし、それが雨によるものなのか、はたまた涙だったのか………………皆目、俺には検討もつかなかったのだった。







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