Episode.17 お宅訪問
「塔矢くん、君の家に行ってみたいんだが」
とある日の昼休み、綾乃さんが突然そう言ってきた。ちなみにあの屋上でのランチから昼休みを共に過ごすことが多くなり、その過程で今では俺だけでなく美鈴や光、静に玲華とも一緒にランチをするようになっていた。そして、今日も例に漏れず、俺を含めた六人で食堂のテーブルを囲んでいた訳だが………………
「っ!?あ、綾乃先輩!?」
「い、一体何を仰っているのですか!?」
綾乃さんのトンデモ発言により、この場はとんでもない空気になっていた。
「いや、なに……………そういえば、塔矢くんの家にまだお邪魔したことなかったなと思ってな」
「な、何なんですか。そのお邪魔するのが当然という考え方は」
「そうです。いきなりすぎます!」
家主である俺と光がどうこう言う前に二人が反応した……………おい、玲華。お前も黙って頷くなよ。
「そう言われてもな……………君達だって、とっくにお邪魔している訳だろう?」
「そ、それとこれとは話が別で……………」
「ですね。美鈴さんの言う通りです」
「美鈴さん。君に至っては幼馴染みで幾度となく訪れているんだろう?それで私が行っては駄目な理由があるのかい?」
「うぐっ!?」
「静さん、君もだ。聞くところによると君は既に歓迎会を塔矢くんの家で開いてもらっているそうじゃないか。それも出会って、すぐのこととか……………であれば、君が良くて私が駄目な理由は何かな?」
「うぐっ!?」
「それで玲華さんだが……………君は」
「まだ行ったことないです」
綾乃さんの言葉に悲しそうな表情をする玲華……………そうか。玲華を招いたことは今までなかったな。
「おおっ、そんな顔をしないでくれ。よしよし……………あ、そうだ。この際だから君も一緒にお邪魔させてもらうっていうのはどうだろうか?」
「っ!?」
綾乃さんの提案に背筋をピンと伸ばす玲華………………な、なんだか嫌な予感がしてきたぞ。
「どうだい、玲華さん?君は塔矢くんのお家に行きたいとは思わないか?」
「……………はい。行きたいです」
「ちょっ!?」
「玲華さん!?」
まるで当然、こちらの味方だと思っていた玲華に裏切られて驚いたような反応をする美鈴と静………………ってか、まるでじゃなくて、まんまその通りだな。
「はい!それじゃあ、決まり!!…………………ああ、悪い悪い。勝手にこちらだけで盛り上がってしまったよ。それでなんだが、塔矢くん……………どうだろうか?一度も君の家に行ったことのない私達をどうか受け入れてはくれないだろうか?」
「うっ……………」
流石は綾乃さんだ。こんな頼み方をされたら、断れないじゃないか……………俺は揃って上目遣いでこちらを見る二人を見て、そう思った。
「お、俺は別に構いませんが……………」
「そうか!ありがとう!!………………っと、ごめん。また、一人で盛り上がってしまったようだ。まだ光さんの了承も得ていないというのに」
「へ?私ですか?」
「ああ。家主は二人だろう?だったら、当然もう一人にも許可を得なければならない。それもなくお邪魔するなど失礼に値する」
「いや、私は別に……………お兄ちゃんがいいのなら、構いませんよ」
「本当か!?ありがとう、光さん!!」
そう言って光と両手で握手した後、玲華ともハイタッチをする綾乃さん。これは…………おそらく作戦だろう。基本的に俺がOKを出せば、光は断らない。それをこの数日間、俺達と一緒にいることで理解したのだろう。本当に恐ろしい人だ。
「では日時などは追って……………」
「「ちょっと待った〜〜〜!!!!」」
と、綾乃さんが続けようとした直後、美鈴と静が慌てて止めに入った。
「わ、私達も」
「い、一緒に行きます〜〜!!」
二人の叫びは食堂に木霊したのだった。
「全く……………君達はいつでも来れる仲だろう?どうして、ついてくるんだ?」
「おほほほっ。た、たまたま今日!行きたくなったのよ!!」
「そ、そうです!それに私達についてこられたら、困るんですか?中で一体、何をしようとしているんですか?」
「ま、まさか!?へ、変なことじゃないでしょうね!?この、変態!!」
「………………玲華さん。放課後だというのに随分と彼女達は元気だね」
「……………私の時も大変だった」
「あ、あはは…………それじゃあ、綾乃さん。こちらです」
そう言って、先導する俺。たまたま後ろの光と目が合うと彼女は苦笑いを浮かべた。
「なるほど……………ここが」
「おお〜っ!!」
リビングに通すと冷静に軽く室内を見回す綾乃さんと目をキラキラさせながら、頭をぐるりと一回転させる玲華……………随分と対照的だな。
「塔矢くんと光さんの愛の巣か」
「変な言い方はよして下さいよ!!ここは家族共同で使うリビングです!!」
それからは俺の部屋へと二人を案内した。ちなみに階段を登っている際に後方から警戒する約二名の視線が突き刺さったが知らないフリをした。
「なるほど………………ここが」
「おおおおおっ〜〜〜〜〜!!!!!」
下の階と同じ反応を見せる綾乃さんと一方でより目をキラキラさせる玲華。そんな状態で俺は次の綾乃さんの発言に備えた。
「思春期男子の禁断の部屋か」
「普通の部屋です!!禁断でも何でもありません!!」
「ん?だが…………」
そこで徐にベッドの下に手を突っ込みだす綾乃さん。その瞬間、俺は自分でも驚くほどのスピードで彼女を止めにかかった。
「ちょっと!!何してるんですか!?」
「いや、思春期男子の部屋でやることといったら、これに決まっているだろう?」
「決まってませんよ!!……………ほら!!美鈴と静の視線が怖いんでやめて下さい!!」
「ん?そんなに慌てるってことは何か他人には見せたくないものでもあるのか?」
「塔矢!?あんた、まさか!?」
「そ、そんな訳ないだろ!!」
「そんな!?塔矢くんも男の子だったということですか!?」
「お、落ち着け静!!お、俺は何もやましいことなんて…………」
しかし、数分後。俺の叫びも虚しく、引っこ抜かれた綾乃さんの手にはそれはもうアレな雑誌が握られていたのだった。
「「「「……………」」」」
その時の四人の侮蔑を含んだ視線といったら、もう……………何か別のものに芽生えそうになるほどでした。
「あ、あはは……………お茶入れてきますね」
しかし、光だけは苦笑いをしつつも気を遣って動いてくれた。そして、そこからは何事もなかったかのようにみんなでお菓子を食べながら、とりとめもないことを話して夜になったら解散したのだった………………あ、ちなみにアレな雑誌は浩也に無理矢理押し付けられたやつで決して、俺が自ら買った訳ではないことをここで言っておく。