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Episode.16 一緒にランチしよう

ゴールデンウィークが明けた今日…………俺は頭を悩ませながらの登校を果たした。とはいっても別に美鈴や玲華のことで頭を悩ませていた訳ではない。なんせ、この休み期間中に二人から距離を置くことで心に余裕が生まれ、今では二人と普通に会話ができるようになっていたのだ…………本当にゴールデンウィークは最高だなっ!!


「だが、問題は新たに現れたもう一人の方だ」


そう。紫風綾乃先輩……………彼女の存在が今一番のネックだった。俺のことを知りたいと言っていたが、果たしてそれは本当にただの好奇心からなのか。


「いやいや。油断はできない。先輩が婚約者だからということもあり得る」


普通に考えれば、正体を明かしたくない婚約者があんな怪しい近付き方を選ぶとは到底思えない。こちらに警戒されてしまうからな。しかし、紫風先輩は普通ではない。加えて、もし紫風先輩が婚約者だと仮定して、昔俺と何らかの約束を交わしていて今もなお俺と仲良くなりたい場合、今の先輩の立場ではそれが厳しい。だから、あんな強引な方法で俺と仲良くなろうとした………………うん。あり得ない話ではない…………とこんなことを休みの間中、ずっと考えていたのだ。


「まぁ、とにもかくにも当たって砕けろだな」


「ん?何が?」


俺の呟きに対して、不思議そうな顔をする美鈴。現在、昼休み前最後の授業中で俺は一つ覚悟を決めていたのだった。







「春日伊塔矢くん、一緒にランチしないか?」


そんな覚悟は昼休みに先輩が教室を訪れてきた途端、崩壊した。ま、まさかこんなに早くコンタクトを取ってくるとは。


「どうしたんだ?鳩が豆鉄砲を食らったような顔をして」


「い、いえ…………」


「ふ〜ん。なるほど……………もしかして、あまりにも突然だったから、驚いたとか?」


「っ!?」


「図星、かな?でも、少しショックだな。そんなに驚くことないじゃないか。私と君の仲だろ?」


「私と君の仲だって!?」


「春日伊のヤロー!あの紫風先輩と一体どんな関係なんだ!!」


「くそっ!!何で春日伊ばっかり!!」


「消えろ、トゥーヤ!!ってか、お前のハーレムから一人ぐらい寄越せ!!」


紫風先輩のその言葉に事態を見守っていたクラスメイト達が騒ぎ立てる……………おい、浩也。どさくさに紛れて何言ってんだ。


「誤解を与えるような変な言い方はよして下さいよ」


「誤解も何もこの間、言っただろ?私は君のことを知りたい、と。だから、こうしてわざわざ教室まで訪ねてきたんじゃないか」


「………………」

 

「ふむ。その様子だとゴールデンウィークくらいの短い休みじゃ…………準備期間としては不十分だったのかな?」


「っ!?」


まさか、先輩について考えを張り巡らせていたことがバレているのか?それに先輩に対して心の準備をしていたことも!?……………いや、早とちりは良くない。この人にはなるべく隙を見せない方がいい。俺はそう思い、徐に席を立った。


「紫風先輩……………ランチいいですね。俺についてきて下さい」


「ふふっ。そう言ってくれると思っていたよ」


俺の提案に笑顔で乗る紫風先輩。しかし、一方で教室を出る際にチラリと視界に入った美鈴と静は揃って、どこか不安そうな表情をしていたのだった。







俺達は屋上で昼食をとることにした。俺は光が作ってくれた弁当で紫風先輩も紫色の渋い包みに入った弁当を持ってきていた。


「そのお弁当は妹さんのお手製かな?」


「ええ、まぁ」


俺が弁当の蓋を開けると紫風先輩がチラリと中を見てきてそう言った。随分と勘が鋭い人だ。


「そちらは先輩がご自身で作られたんですか?」


「そうだ。料理はいいぞ?今度、やってみるといい」


「考えておきます…………先輩は料理が趣味なんですか?」


「ああ。なんせ料理をしている最中は……………無心になれるからな」


「無心に…………」


「何も余計なことは考えなくていい。その時だけはただの紫風綾乃としての時間を過ごすことができる」


「……………」


「…………って、私のことを話してどうする。君を食事に誘ったのは君のことを知りたいと思ったからだ」


「その"君"っていうのやめてくれませんか?背筋がゾワッとなるんで」


「では私のことを"先輩"と呼ぶのもやめてもらおうか。それが条件だ」


「…………分かりました。では何とお呼びすれば?」


「そうだな……………下の名前で呼んでもらって構わないよ」


「そう、ですか。では……………………綾乃さん」


「っ!?お、おおっ……………歳下の後輩にそう呼ばれるのは……………なんだか、こそばゆいな」


「綾乃さんがそう呼べと言ったんじゃないですか」


「ほほぉっ!?こ、これはなんとも……………」


「どうしたんですか、綾乃さん」


「ち、ちょっと待て」


「大丈夫ですか?顔が赤いですよ、綾乃さん」


「だ、だから、待てと」


「綾乃さん…………」


「だから、待てと言っているだろ!!」


「あ……………すみません。調子に乗りました」


「ま、全く…………」


そう言って顔を真っ赤にして、そっぽを向く綾乃さん。あれ?何だか、様子が……………ってか、綾乃さんってイメージだと高嶺の花すぎてとっつきづらい感じだけど、これは何だか……………


「…………可愛いな」


「っ!?か、可愛っ!?」


「あれ?俺、口に出して…………」


俺の言葉に再び、顔を真っ赤にする綾乃さん。もしかして、この人は別に婚約者とかじゃなくて、純粋に俺のことを知りたいと思って近付いてきたのかな?だって、本当に何か狙いがあって近付いてきている人がこんなに狼狽える訳ないもんな。


「す、すみません。ほ、ほら!!さっさと食べないと時間なくなりますよ!!」


俺がそう促すと綾乃さんはこっちを恨みがましそうに上目遣いで見上げて、こう言ってきた。


「全く、不意打ちがすぎるぞ………………塔矢くんは」


「っ!?」


いや、不意打ちはあなたもですよ!!…………………とにもかくにも今日の会話はこれで終わってしまった。後は広い屋上で黙々と弁当を食べる二人がいたとかいないとか


「「………………」」


そして、さっきの考えは撤回した。もしかしたら、綾乃さんは婚約者かもしれない。こちらをチラチラと真っ赤な顔で見てきた彼女を見てそう思ったのだった。







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