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Episode.14 ラブレター

「おはよ〜」


「お、おぅ」


「美鈴ちゃん、おはよう!」


朝、登校しようと家を出たら、いつものように美鈴が家の前で待っていた。昨日まではこれが当たり前であり、美鈴の顔を見ても特に何かを思うこともなかった。しかし、昨日の晩で美鈴が婚約者候補の一人として浮上した以上、俺は当然ながら意識せざるを得なくなり、挨拶も少しぎこちない感じになってしまっていた。


「ん?塔矢、どうかした?」


「っ!?い、いやっ!!何でもないぞ!!」


そして、美鈴は俺のそんな些細な変化すらも見逃さず、こうして声を掛けてくる。この気遣いの良さが男女問わず人気な理由なのだが、今回ばかりははっきり言って、ありがた迷惑だった。


「本当に?」


「あ、ああ」


婚約者かもしれないお前のことが気になって気になって仕方ないんだ……………なんて言える訳ないだろ!!頼む!見逃してくれ!!


「……………そう。でも、何かあったら、すぐに相談しなさいよ。私はいつでもあんたの味方だから」


俺の祈りが通じたのか、美鈴はすぐに引いてくれた。ありがとうございます美鈴さん!でも、その純粋な気遣いに俺の心は罪悪感で一杯です。







「おはようございます、塔矢先輩」


「っ!?お、おぅ!おはよう玲華!!」


美鈴との若干、ぎこちない空気のままの登校を終え、昇降口に入ると今度は玲華に声を掛けられた。そして、案の定というかなんというか……………俺はまたしてもぎこちない挨拶を返してしまった。


「どうしました?」


「い、いやっ!?何でもない!!」


「ん〜?そうですか?なんか様子がおかしいですよ?」


「お、おかしくない!おかしくない!俺は元気だよ〜」


な、何でこうも俺の周りの女性陣は鋭いんだ!!そして、本当のことなんて言える訳ねぇ!!婚約者かもしれないお前のことが気になって気になって仕方ないんだ!!……………なんて。


「もしかして、どこか具合でも…………」


近い近い近い!!俺のことを心配してくれるのはありがたいんだが、そんなに顔を近付ける必要があるのか!?一歩間違えれば、その……………口と口がくっつ…………いや?むしろ、いいのか?


「って、いい訳ねぇだろ〜〜〜!!!」


「きゃっ!?」


「すまん、玲華!!詳しい話は後でな!!じゃあ、授業頑張れよ!!」


「へ?」


俺は玲華の返事を聞く間もなく、その場から一時退散した。背を向ける直前に見た玲華の表情は呆然としていたのだった。








「あ〜…………しんど」


やっと放課後になった。今日は一日中、二人のことが気になって仕方がなかった。まぁ、玲華は学年も違うし、一緒にいたのは昼飯の時だけだから、まだいい。問題は美鈴だ。彼女は一緒のクラスである為、授業中だろうが休み時間だろうが、気にしない訳がない。ましてや、美鈴は俺の隣の席だ。普段ならば、気軽に話しかけられたり、教科書の見せ合いをしたり、何かと便利だが、こと今日に限っていえば最悪だ。いちいち気になって、隣を見ちゃうし、周りから俺が変態扱いされても致し方ないだろう。


「それはないな」


「だから、ナチュラルに他人の心を読むな浩也」


「お前と三海はとっくに付き合っていると思っている連中がほとんどだろう。だから、何も問題はない」


「仮に百歩譲って、お前の言うことが本当のことだとしよう……………それでも今日の俺は気持ち悪いだろ?」


「安心しろ。お前がキモいのは今日に始まったことではない」


「ラプラスの悪魔なんかに言われたくねぇわ!!」


「おっ。遂にお前もその呼び名を認めるのか」


「黙れ!!論点をずらすな!!」


ちなみに今、ここに美鈴はいない。そもそもいたとしたら、こんな話はできていないので当然なのだが。


「どうしたんですか?」


俺と浩也が言い合いをしていると不思議そうな顔をした静が近付いてきた。彼女には今日一日、本当に助けられた。なんせ彼女は婚約者候補ではない。だから、安心して話すことができたし、美鈴との会話に困ったら、彼女に話を振って誤魔化すこともできたのだ。


「塔矢が遂に三海に告白するらしい」


「おい、馬鹿!!んなこと言ってないだろ!!」


「え…………」


目の前の馬鹿がとんでもないことを言い始め、この場の空気は一気に凍り付いた。恐る恐る静の方を見ると彼女はどこか焦点の合っていない瞳で俺を見つめて、笑っていた。


「っ!?じ、じゃあ俺はこれで!!あ、静!!こいつが言ったことは冗談だからな!!」


俺は慌てて、荷物を持つとすぐに教室を出た。後ろは決して振り返らなかった。脳内には某作品に出てくる、とある装束を着た青年の"絶対に後ろを振り返ってはいけないよ"という言葉が響いていた。







次の日。昨日に引き続き、美鈴とぎこちない空気のまま登校を終えた俺は昇降口に辿り着くと念入りに辺りを見回した。


「……………よし!今日は玲華いないな」


玲華には悪いが、今の状況でまともに話などできる訳がない。だから、俺の気持ちが落ち着くまではしばらく会うのを避けたかったのだ。


「あんまりモタモタしてたら、会っちまうかもしれない。ここはさっさと教室へ……………」


と俺が靴を履き替える為、下駄箱を開けた時だった…………目の前にピンク色の封筒が見えたのは。


「っ!?」


そして、俺はあまりの衝撃で咄嗟に下駄箱を閉めてしまった。


「い、今のはまさか……………噂に聞くラブ・レイターとかいうものでは」


それから周りの目がなくなるまで少し待った俺は恐る恐る下駄箱を開けてみた。


「や、やっぱり幻覚じゃない」


俺は震える手でそれを掴み、靴を下駄箱に入れて上履きを取り出すと恐ろしい速さで下駄箱を閉めた。ちなみにこの一連の動きは今までで最も早かった。やったね、記録更新!!


「って、言ってる場合かよ〜〜〜!!ど、どこかに隠れられる場所は」


俺は駆け足で人気のない場所を探しているとちょうど誰も使っていない空き教室があり、そこに入った。


「え〜っと、なになに……………」


そこでゆっくりと封筒から手紙を取り出して、上から下へ流れるように読んでいく。一言一句、見逃さないように。


"春日伊塔矢くんへ。お話したいことがあるので放課後、屋上で待ってます・・・三年、紫風綾乃(むらかぜあやの)より"


短い文面だったが、俺はドキドキが止まらなかった。


「こ、これはそういうことなのか?」


お、落ち着け俺。ここは冷静になるんだ。差出人の名前に覚えはない。告白だと決め付けるのは早計では?だったら、イタズラや何かの罰ゲームか?他にどんなことが考えられ……………


「……………あ」


そこで俺の中でもしかしたらという疑念が浮かび上がった。最近、俺に起きたこと……………それは俺には婚約者がいると親父に教えられたこと。その直後にこれは……………


「まさか、この紫風先輩が婚約者……………?」


俺は別の意味でもドキドキが止まらなかったのだった。







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