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Episode.13 Xは誰だ

親父の話を聞いた晩、俺は部屋で婚約者について思考を巡らせていた。


「今、分かっている婚約者についての情報としては…………①実家がとんでもない資産を保有し、会社をいくつも経営していること、②俺のことを知っていて、俺との結婚に前向きであること、③過去に俺と何らかの約束を交わしていること……………この三つか」


婚約者の正体を知ることはできなかったが、これだけのヒントがあるのは良い誤算だった。向こうにも何らかの事情はあるのだろうが、俺は一刻も早く正体を知りたい。悪いが、早々にその正体を暴かせてもらうとしよう。


「う〜ん…………約束…………約束か……………ん?ちょっと待てよ」


とりあえず、①と②を除いて③の約束という部分にフォーカスを当てて考え始めた俺だったが、そこであることを思い出した。


「そういえば、あの時、見た夢」


それは以前に見たあの夢のことだった。夢の中で俺はとある一人の少女といて、話をしていた。その時の少女はボヤけていたし、台詞も一部欠けていたが、もしその欠けている部分というのが何らかの約束だとしたら?つまり、それは婚約者の正体があの夢の少女ということになる。それに何故、あの日はあんな夢を見たんだ?あの日に何か特別なことでも……………


「いや、あった。あの日は……………静がうちの学校に転校してきた日だ」


そう考えるとあまりにタイミングが良すぎる。しかし、いくらなんでも個人の夢を操作することなどできるのだろうか?ただの偶然とも考えられるが……………いや、昔どこかの記事で読んだことがある。魔法とは言わないまでも前世で夫婦だった人が今世でも巡り会うことができたと。それにどこかの研究者も言っていた。"私達は非科学的なことを信じたくはないが、人の絆が為しえる力は時に超常的な現象すら起こすことがある"と。


「予知夢…………とは違うか。あの夢は静が婚約者であると俺に伝える為のものだった?」


もし、静が婚約者だと仮定するのなら、当然①の条件には当てはまる。しかし、②の俺のことを知っているという部分は分かるが結婚に前向きだというのはいかがなものか。なんせ俺達は出会ったばかりで好意を持たれる程、長い時間を過ごしたかと問われれば……………


「いや、もしあの夢の少女が静だと仮定するのなら、俺達は昔に出会っており、そこで多くの時間を過ごした可能性がある。加えて、静の今までの謎行動にもちゃんと説明がつく」


そう。それは出会ったばかりの美鈴と玲華に対するあの態度である。も、もしも、その…………静が俺のことを昔から知っていて、俺のことをその…………す、す、好きだと仮定した場合、身近にいる同性を邪魔だと感じても何ら不思議ではない。ましてや、二人とも超絶な美少女だ。静からしたら、強力なライバルとなるはず……………って、こんな考えは流石に自意識過剰も甚だしいな。


「それにもし、俺が静の立場だとして正体を隠しておきたいのにこんなあからさまな行動をするか?なんせ、ヒントにも当てはまりすぎているし、出会ったタイミングも良すぎる。こんなの早く見つけて下さいって言っているようなものだ。これじゃあ、正体を隠す意味がない」


となると静は婚約者候補から外して考えた方がいいな。そして、軽く視点を変えてみてみよう。それは何故、このタイミングで親父が婚約者がいると俺へ告げたのかだ。


「もし、この話が以前からあったのなら、もっと早く俺に教えてくれても良かったはずだ。それがなかったということはこの話自体が持ち上がったのがつい最近ということになる」


それは一体何故なのか……………それはつまり、静の存在だろう。もし、婚約者が静ではない他の誰かだと仮定するのなら、静の存在は婚約者にとって、正体を隠す格好の隠れ蓑だ。何故ならば、俺と同じ立場に置かれた多くの者はこの状況から静が婚約者だと思うだろう。それを真の婚約者は逆手に取ったのだ。つまり、静の登場を確認した真の婚約者……………Xはこれは使えると急いで婚約者の話を親に通して、ここまで事態を進めた。


「とすると、Xは俺のことだけではなく静のことも知っているということになるな」


しかし、この情報はあまり気にしなくていいだろう。既に学校では俺と静が一緒にいるところを見かけている生徒も多い。それにXの家が金持ちならば、簡単に個人の情報など調べ上げることができる。つまり、俺の身近にいなくても俺と静の様子などおおよそは分かるだろう。


「ただ、身近にいる人物を疑うというのは悪くない」


静が婚約者候補から外れた今、俺の身近にいる女の子といえば、美鈴か玲華だ。しかし、美鈴は幼馴染みで玲華は中学時代からの後輩。距離が近い分、婚約者になど今更名乗りを上げるはずがない……………普通はそう思うだろう。だが、Xがそれすらも逆手に取っていたとしたら?


「確か、前に美鈴のお父さんの晩酌に付き合っていた時に言われたことがあったな……………実はいくつも会社を経営しているって」


その時は酔っ払いの戯言だと思っていたがもし、それが本当のことだとしたら?とんでもない資産を保有している可能性もあるし、①の条件にピッタリ当てはまる。それに美鈴は幼馴染みだ。昔から俺のことを知っているし、俺のことをす、す、好きだと仮定すると静と玲華に対する最初の態度も頷ける。そして、幼少期に何らかの約束を交わしていても不思議ではない。ということで②と③の条件にも当てはまる可能性があるのだ。


「し、しかし…………本当にそんなことがあり得るのか?み、美鈴が俺のことを……………?」


だが、美鈴がXだと仮定すると過去にしてきた不可解な態度にも納得がいく……………とにもかくにもまずは婚約者候補の一人目として、美鈴を挙げておいた方がいいだろう。


「となると候補の二人目は玲華か」


①に関しては玲華の家のことなので分からないが、そうであっても何ら不思議ではない。②の俺のことを知っているという部分は当てはまる。さらに言えば、俺のことをす、好きだと仮定するのであれば、廊下でのハグや学食、ファミレスての一件、もっと言えば中学時代のあれやこれやも納得はできる。③に関しては俺が忘れているだけで小さい頃に何らかの約束を交わしている可能性も捨てきれない。


「以上で美鈴と玲華が婚約者の候補か……………」


それ以上は俺の頭が考えることを拒絶した。久しぶりに頭を使いすぎたらしい。それに親父から告げられたこの事実が相当ストレスだったのか、何だか眠くもなってきていた。


「一体、Xは誰なんだ……………」


俺のその疑問に当然ながら答える者はいなかったのだった。







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