閑話〜運営の苦悩と、とあるベータテスターの話〜
今日中にもう1話投稿する予定です。10時になったら投稿しようと思うのでよろしくお願いします!
そこはVR内にAWOと同じ技術によって作られたゲーム運営用の管理室。
そこに一人の女性の声が響き渡る。
「はっ? なんでこの人もうこんな所まで!?」
「もうちょっと静かに仕事出来ないのか?」
「いやいやいや、それどころじゃ無いですよ先輩!!」
「何か問題でも発生したか?」
「問題じゃ無いんですけど、ユニーククエストにリアって言う吸血鬼の姫様のクエストあるじゃないですか?」
「そういえばそんなのもあったな」
「あれをもうカギを手に入れて扉の前まで来てるプレイヤーがいます」
「はぁ!?」
先輩と言われた男はなんの冗談だと聞き返す。
「そんな事ある訳無いだろ? 第一、道中のモンスターはどうしたんだよ。ベータテスター達もゲーム内で集めたお金の半分と回復アイテムを持ち越しできるだけで、レベルは1からなんだぞ?」
「それが、そのプレイヤーはレベル1なんですけど……」
「なら完全にバグじゃねぇか! おいなんでAIは作動してないんだよ」
「そのプレイヤー、〈ランダム〉で下級悪魔を引いてるんですよね」
「……マジ?」
「はい」
先輩と呼ばれた人物は頭を抱えた。実は〈悪魔〉と言うのは魔物に近い種族で、初期に選べる種族の一体である比較的人間側の〈魔人〉と魔物達の中間のような存在なのだ。その他にも”吸血鬼”や”鬼人”という種族もそれに近いのだがそれは置いておこう。
ここで重要になってくるのは魔物に近いという点だ。悪魔というのは人に近い種の中で最も魔物に近い"闇"を纏っている。その結果、魔物も自身の目で見なければ自分達と同じ魔物だと判断し遠くから態々追ってきたりしないのだ。
「そう言えばあそこの森って……」
「はい。モンスターの強さをめちゃくちゃ高くして感知能力を上げる代わりに湧く数が少なくなってます。本来ならモンスターがプレイヤーの気配を感知して追いかけてくるんですが、何せこのプレイヤーは〈悪魔〉ですから」
「だからかー!」
つまり、ゼロも不思議に思っていたモンスターと一切会わないという事象は運営の思惑と悪魔の性質が奇跡的なまでに噛み合わなかったがために起こってしまった事故のようなものだった。
「どうすればいいんだ? このままクエストが始まったら、いや彼がSTRを100まで上げてなければどうにか……」
「彼レベルは1ですけどSTRは綺麗に100ですね」
「ならクエスト発生するじゃねぇか!」
「コレもう私たちだけじゃ対処出来ないですよ」
リアのクエストは大まかに二つのルートが存在する。STRが100以下の者には自分を助けてくれる人を探してとお願いするルートと、STRが100以上の者に自分を助けてとお願いするルートだ。
そして本来ならば、リアが自分を解放してくれた人物にいきなり襲い掛かり戦闘フェーズが始まる。ここでプレイヤーがリアに勝てれば問題ないが、負ければその後凄まじい力をつけたリアが人間の街に襲い掛かるというイベントが発生するのである。
今回はゼロが悪魔という種族だったためにレベル1なのにSTRが100を超えているなんてことが起こり、このままではゼロに助けを求めるルートに入ってしまうということだった。
リアのレベルは100を超えているのでレベル1ではまともに太刀打ちする事は出来ない。このままではプレイヤーが育ってない初期段階でリアが解放されてしまうと危惧した女性はこの部署の主任を呼んだ。
「主任!ちょっと来てください!」
「なんだぁ……うるさいなぁ。俺は二日酔いがVRの中まで浸透しているせいで今頭が痛いんだけど?」
「そんなの知りませんよ。それよりもコレ見てください」
「ん?…………あ?」
その映像ではゼロがちょうどリアの待つ部屋に入る所だった。
「どうします?」
「いやいやいや、冗談だろ?」
「ドッキリとかじゃ無くてマジです」
「これってバグ?」
「いえ、彼の種族が下級悪魔なのでその特性で奇跡的にここまで来ちゃってますね」
「ならどうしようもないじゃねぇか! 一体どうすれば……はぁ、しょうがないから一旦監視をし続けてくれ」
「わかりました」
◇━━━━━━━━━━━━━━━◇
「ちょ、彼やってる事やばいって!」
「なんだ!何があった!?」
「リアが彼の下につきました!」
「はぁ!?どうしてそうなる!」
主任達が驚くのも当然で、リアを含めたユニーククエストと呼ばれるクエストにはそれぞれ大きな役割が存在する。そして、それを遂行するために運営によって開発されたAIの中でも特に高性能の物が搭載されているのだ。
普通ならばリアは"姫"というアイデンティティと"人間と吸血鬼を滅ぼす"という目的から大きく外れないはずなのだ。だが、リアは姫という立場を守らずプレイヤーの下についた。さらにこれは本来のイベントから大きく外れた行動である。だからこそ主任は一つしか可能性はないと思った。
「リアのAIがバグったか?」
「いえ、単純に彼、ゼロというプレイヤーの事が気に入っただけっぽいですね」
「なんでだ?」
「彼、職業を【悪意の体現者】にしてますから、説明には書いてありませんけど魔に属する種族からは好印象になる隠し特性あるからですかねー?」
「ああ……そういえばそんな隠し特性持たせてたわ。バグじゃないなら俺たちにできることは無いな」
「でも、彼を放って置くのは危険じゃ無いですか?」
「コイツのプレイング自体は別に規約に違反するものじゃないからな。精々が何かやらかさないか監視を続けるくらいしか出来ないだろ?」
「わかりました。目を光らせておきますね」
「そうしといてくれ」
早々に自分達が今できる事は無いと感じ取った主任達はこれからも監視を続けるだけで、これ以上の干渉は諦めた。
このときの主任はハプニングの連続で胃に穴が開きそうな気持ちだったが、これから先さらに主任の胃にダメージが入る騒ぎが起こるのはまた別の話。
◇━━━━━━━━━━━━━━━◇
「アランー本当に南の森に何かあるのかよ?」
「アース!アランが見に行きたいって言ったんだから、リーダーの言う事に従いなさいよ!」
「うるせーなーリンは。お前はアランの事が好きなだけだろ?」
「ん……リンはアランの事が好きなだけ」
「ちょっとレインまで!」
「まあまあ、落ち着いてよ三人とも…」
そう言って三人を宥めるのは先ほどから名前が挙がっていたアランだ。
「まあ、アランが言うならしゃーねーか。何もなかったらリアルでジュース奢れよー」
「ん…」
「それで、何で南の森に行きたいのか教えてほしいんだけど?」
”なぜ南の森に行きたいのか”これは三人がずっと気になっていた事だ。南の森はモンスターとの遭遇率がほかに比べて少なく、だが一体一体のモンスターは強く、格上のモンスターばかりで殺されることも多いというあまり経験値がおいしいとは言い難い場所だった。
「あそこの難易度は明らかに他よりも高いし何かあるだろうとは前々から思ってはいたんだけど、まだまだ今の僕たちよりも強いモンスターの方が多い」
「ならなんでだよ?」
「実はみんなが来る前、サーバーが開設された直後に教会の聖騎士と恐らくNPCと思われる男が言い争ってるのを目撃してね、その男は背中から羽を生やして南の森の方に飛んで行ったんだ」
「そんなイベントがあったのかよ!」
アースと呼ばれている男はそんな重要そうなイベントを見逃したことを嘆くがそこで疑問の声が上がる。
「それって本当にNPC…?」
そうアランに投げかけたのはレインと呼ばれている少女だった。
「僕も色々な可能性を考えたんだけどね。プレイヤーにしては騒ぎを起こすまでの速度が速すぎるだろ?だからNPCなんじゃないかって思うんだ」
ゼロは本当のところはプレイヤーなのだが、騒ぎが起こったのがゲームが始まった直後だったこともあり”そんな速度でイベントは起こせないだろう”という考えが広まった結果、ゼロはプレイヤーではなくNPCという認識が通説となっていた。
「それで、その男の飛び去った南の森に何か重要なイベントがあるかもしれないってこと?」
そう聞くリンと呼ばれた少女にアランは笑顔で答える。
「そういうこと。ただ何もない可能性もあるから別に僕についてくる必要はないけど…」
そこまで言ったところでアランは言葉を遮られる。
「水臭いこと言うなよな!お前がパーティーリーダーなんだから、俺たちを無理矢理にでも連れて行ったって文句なんてねーよ」
「ん…そのとおり」
「もうレベルも10を超えたんだから少し見に行ったって死んだりなんてしないわよ」
三人からの肯定的な意見で勇気が付いたアランは改めて、リーダーとして命令する。
「よし、なら僕たちは南の森に行ってモンスターを狩りつつ謎の男の行方を捜すってことでいいね?」
「「「おおー!」」」
四人は自分たちの実力を正確に理解はしていた。確かに南の森の浅いところであれば彼らは死んだりなどしないだろう。
レベル100超えの吸血鬼を従えた男さえ来なければ。
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