Another World Online
2話目ェ!
当選の通知が来てから2週間がたった。
あの日から零夜は底が見える貯金に怯えながら日払いバイトをして食いつないでいた。
(ようやく明日ゲームが始まる。ゲームが始まったら急いで金を稼がないと……でも普通にモンスターを狩って金を稼いでも他のプレイヤーと奪い合いになるよなぁ、かと言って生産職は作る時間と売る時間が必要な上に、他のプレイヤーに買って貰えるか分からない不確実性があるからなぁ……狩場を占領したりなんかが出来れば楽だけど……)
AWOは普通のRPGゲームでは無くMMORPGだ。
運営からは『AWOは現実世界とは違うもうひとつの世界であり、規約に書かれている禁止行為以外はどんなプレイも許容する』と明言されていた。
ここにある規約とは1プレイヤーに対する粘着行為などの普通のゲームでもやってはいけない行為の事だ。勿論だがその中には狩場の占領も含まれている。
ただし、プレイスタイルの一環として運営に認められた物が一つだけあった。それが……
「そうだ、PKプレイ」
PK…プレイヤーキラーとはMMORPGを初めとしたオンラインゲームにおいて一方的に他者を攻撃する行為の事である。
運営はPKプレイもまたプレイスタイルの一種としてその行為を公認していた。ただPK行為を普通に認めてしまうとゲーム内の秩序が崩れる。その為PK側のメリットとデメリットを提示していた。
メリットは、相手の金銭の2割の強奪に加えて所持品をランダムに一つ奪うことができること。コレはそのときプレイヤーが装備しているアイテム以外に限られ、インベントリに入っている物が殆どとなってくる。
他にメリットと呼べるようなものは嫌いな奴に仕掛けてリスポーンさせる位だが、粘着行為は運営から禁止されているため1回程度が限度であり、それ以上は垢BAN対象となってしまう。
逆にデメリットは幾つも存在する
まず、プレイヤーから得られる経験値はそのプレイヤーの持つ総経験値の100分の1となってしまう。
コレはレベル1の奴がレベル100をPK出来れば関係ないほどの経験値が手に入るが同レベル帯だとあまり美味しいとは言えなくなってしまい、それは自分より低レベルの奴ほどより顕著になる。何よりレベル1でレベル100に勝つことはまず無理だ。
次に一度PK行為をしてしまうとName欄が赤くなり、レッドネームとなる。この後も繰り返しPKを続けると指名手配を食らうことになる。
このゲームのデスペナルティ、通称デスペナは状況によって異なっており、通常であればレベルが一つダウンし、リアルタイムで2時間、ゲーム内は最新技術により3倍の速度で時間が流れるので6時間のステータスダウンを食らうのだが、そのデスペナがレッドネームには3倍、指名手配をされている者は5倍の重さでかかることになる。その上レッドネームや指名手配されている者はリスポーンと同時に各国の監獄に収容されることになり、その期間はカルマ値によって変化し、高ければ高いほど期間は延びていく
更にPKプレイヤーを殺すとプレイヤーはカルマ値が低くなっていき、カルマ値が低く、善行を行っている者ほどゲームの世界に存在している協会からイベントが発生する可能性が提示されていた。
他にも上げればキリがないので割愛するが、言ってしまえばPKプレイは旨みが少なく、その上多くのプレイヤーから反感を買うことも少なくないので、運営も認めているとはいえする人は少ないと思われていた。
だが、零夜はそのほんの少しのメリットに目をつけた。
(いくら殺してもデメリットは無いが探すのに苦労するPKプレイヤーや他のプレイヤーに狩られたモンスターのリポップを待ってちまちま金を稼ぐよりもプレイヤーを殺した方が早いし楽じゃないか?)
零夜は理解した。PKこそが自分の生きる道だと。
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午前4:00
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零夜はサーバーオープンと同時にゲームへとログインした。
(ここは……?)
そこは白としか表現出来ない空間であり、当たりを見回してもこれといって何も無かった。
そんな空間にいきなり一人の声が響き渡る。
「どもどもー!こんにちはー! 神様に使えし下僕が一人、天使ちゃんだよー!」
「うわ、うるさ」
「ちょーい! 流石に出会って開口一番にそれは酷くなーい!?」
上からいきなり現れ、声を張り上げて元気に名乗るその娘、天使はこの空間の説明をしだした。
「この空間では、あなた達異界人がコチラの世界で生きるための姿を作って貰います! あ!異界人ってのは私たちが管理する世界でのあなた達の総称だよ!」
言ってしまえばキャラクリである。
「まずはあなたの名前を教えて貰ってもいいかな!と言ってもあなた達の世界での名前じゃなくてコチラの世界で使う名前ね、でももし他の異界人と名前が被った場合はその名前は使えないの!ごめんね!」
一言一言の勢いが凄いがそれでも言ってることは理解出来た。
「なら、〈ゼロ〉で」
「おけおけ!りょーかいっ!今から確認するからちょっと待ってねー! えーと……うん!あなたの名前を〈ゼロ〉で決定したよ!次はあなたのコチラの世界の姿を作っちゃおー!」
零夜ことゼロの前に現れたのは現実の自分と同じ姿の人だった。
「コレは向こうの世界にいるあなたの体をビビビッと脳から読み取ってそのまま再現したものになります!あなたの手にあるそのウィンドウパネルで色々弄れるんだけど、向こうの世界の体と差異がありすぎると問題になる身長や胸なんかはそこまで大きくは変えられないようになってます!」
画面には髪色や目の色などの項目があり、現実とは違う見た目になることは簡単にできるようだが、違いすぎるのは無理らしい。
零夜は髪を銀髪に目を青色に変えて身長は1センチだけ盛った。
理由は「銀髪青眼ってなんかカッコよくね?」と思ったからである。身長は現実のゼロの身長は174センチであり、あと1センチ欲しいと思っていたからだった。
「わお、カッコイイですねー!惚れちゃいそうですよ!」
「お世辞はいいから次に行けよ」
「つれないですねー……それでは最後に種族と職業、ステータスの設定をお願いします!」
目の前に出てきたウィンドウを見ると〈人間〉から始まり〈エルフ〉や〈ドワーフ〉、〈獣人〉や〈魔人〉、果ては〈ゴブリン〉や〈スライム〉なんてものまである。
「これってどれがいいとかあるの?」
「んー……その人のプレイスタイルによるとしか言えませんねー。〈人間〉はステータスだけなら魔人より弱いんですが、取れるスキルは全種族中一番ですし、全てのスキルの適正が高いんですよね。あとは、〈エルフ〉は魔術系ステータスへの適正は高いですが、物理系のステータスの伸びが悪いので近距離で戦う人にはあまり向きませんね。逆に〈獣人〉は物理系ステータスが伸び易いです!それと種族によってはこの世界に降り立った時の開始地点が違ったりもしますかね。あとは種族スキルとかもありまして、例えば〈エルフ〉なら“美麗補正”というのがあります!」
そこまで聞いた零夜はいくつか気になった事を聞いた。
「ステータスはどんなのがあるんだ?それに種族スキル?」
「あー!忘れてました! ステータスはSTR、VIT、INT、MID、AGI、LUKの六種類があって、物理系ステータスはSTRとVITを指し、魔術系ステータスはINTとMIDを指します。それぞれのステータスは物理攻撃のダメージ、物理防御力、魔術攻撃のダメージ、魔術防御力、移動速度、幸運に深く影響するので、自分のプレイスタイルにあったステータスを伸ばす事をオススメします! 他にもレベルアップ時に自由にステータスを上昇させられるステータスポイントというのが手に入るんですが、ステータスには種族との相性があって〈人間〉はステータスポイントを1振ると1つステータスが上がりますが、〈エルフ〉は魔術系ステータスなら3上がります。逆に物理系ステータスは3ポイント支払って1つ上がります。その他にもレベルアップ時に一定量ステータスが上がるんですがその上がり幅が偏っていきますね!」
「なるほどな……スキルの方は?」
「種族スキルはその種族に元々備わっているスキルで、その種族の根幹とも言えるスキルです。他にもいくつかスキルに種類があるんですが、基本的にスキルは頑張ってスキルを身に付けるか、スキルポイントを使って取る事になります!」
「スキルポイントってのは?」
「スキルポイントはステータスポイントのスキル版だと思っていただければ結構です!」
「頑張って身に付けるって事はスキルポイントを使わなくてもスキルを身につけることはできるってことか?」
「勿論その通りです!ただ、たとえば剣を1回も持ったことの無い初心者が剣のスキルを身に付けようと思っても身に付くまでに凄い時間がかかりますけどね!」
「ふーん……ならまずは種族を決めるか。俺はどんな種族にしようか……」
「ちなみに、ゼロさんはどんなプレイスタイルでゲームを進められるので?自分のしたいことを言ってくださればアドバイスしますよ!」
「俺はPKプレイヤーになろうと思ってるんだ」
「え、マジすか?」
「マジだよ」
それを聞いた天使はゼロに向かっていくつか忠告を投げかけた。
「この世界はどんな事も許されるとはいえ国ごとに法律もありますし、下手にプレイヤーを狩ったりしたら反感だって買いますよ? それにもし指名手配なんて食らってから捕まれば向こうの世界の時間で1ヶ月近く牢獄から出られないなんてこともあるんです!辞めといた方がいいですよ!」
「その時はその時だろ。それに俺は今すぐにでも金を貯めないとヤバいんだよ。向こうの世界じゃ俺は仕事を辞めたせいで今にも金が無くなりそうなんでな」
「うわーダメダメじゃないですか」
「うるせぇ」
天使はいくつか思案したが首を振って考えるのを辞めた。
「PKをするのに最適な種族はあまり思いつきませんね。一つだけオススメしたいのもあるんですがギャンブル性が高すぎますし……」
「ギャンブル性が高いって?」
「種族の欄を下にスクロールしていってください!」
ゼロがスクロールするとそこには〈ランダム〉の文字があった。
「これは?」
「それはランダム機能と言って、コチラの世界にいるありとあらゆる生物からランダムで種族が決まるんです!」
「それって何のメリットがあるの?」
「メリットはコチラの世界に存在していたあらゆる生物から種族が決まるので、もう既に滅んだ伝説の種族やドラゴンになったり!?なんて事も起こっちゃう訳なんですけど、逆にそこら辺にいる犬や猫、虫なんかのゴブリンよりも弱い種族になることもあるんですよねー。だからこそ〈ランダム〉を選んだ人はどんな事があろうと自己責任となります!」
「他にメリットは無いの?」
「一つだけありますよ、初期に貰えるステータスポイントが増えるんです。最初は100配られる所が50増えて150になります。因みにレベルアップ時に貰えるポイントは10です!」
「5レベル分か……デカイな」
「でも、万が一虫になんてなったら強くなるのに凄まじい時間がかかりますよ!?」
「虫から強くはなれないのか?」
「一応なれますけど時間は凄まじくかかりますね、それに運も必要な時があります!」
そこまで聞いた零夜は悩む。
このゲームは人の脳波を読み取って個人を識別しているので、また新しく《アリステラ》を買っても全く同じアカウントとなってしまうためリセマラなど無いからだ。
そして悩みに悩んだ零夜は一つのボタンをタップする。
「ここまで来たら賭けだ、俺はリアルで何かやってる訳じゃ無いから普通に他のプレイヤーと戦っても負ける可能性の方が高いし、コレで強い種族になれたらよし、なれなかったら普通に仕事を探すことにしよう」
「うぇ!? 本当に選んじゃったんですか!? ……はぁ、なら種族はコチラの世界に降り立ったらわかるので〈ランダム〉のを選んだ人はここで職業とステータスを決められない決まりがあるんですよ!なのでゼロさんのコチラの世界での姿の構築はこれで終了になります!〈ランダム〉だと種族によってはどこに降り立つか分かりませんが、コチラの世界に降り立ったらできるようになるので早めにしといてください!」
そこまで言った天使は満面の笑顔で零夜を送り出す。
「ではでは!私たちの世界、《リヘナ》を存分に楽しんでください!」
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