最後の一手
最近あるアニメを見てるんですよね。
ぼっち・〇・ろっく! 本当に面白いんで見てない人は見てください。
その戦いは一方的なものだった。
「ぐっ……あっぶな……」
「ほう…よく避けましたね。ならこれはどうすかっ!」
「だっ……ッ!」
次々にアドラから繰り出される斬撃の数々。その威力は凄まじく、咄嗟に転がって避けたものの、元いた場所には深い斬撃痕が刻まれている。
「ふむ……その程度のレベル、ステータスでこれ程回避出来るとは悪魔の割に中々筋は良さそうですね。ですが……」
アドラが自身の長剣を腰だめに構え、目にも止まらぬ速さで振り抜く。
その時、ゼロは幸か不幸か足元のタイルの段差に足を引っかけ転んでしまう。
そしてゼロの頭上を通り抜けた斬撃は……アドラの眼前にあった家々を切り倒しながら50mほど進んで行った。
「おいおい、飛ぶ斬撃とかファンタジーすぎね?いやまあ、元からファンタジーな世界観だけどさ」
「運良く避けれたようですが、そんなに呆けていて次も避けれますか?」
「な……ッ!」
アドラの言葉で正気に戻ったゼロはすぐさま横に飛ぶ。だが……完全には避けれなかった。
「いっっっ………ッ!」
「痛いですか?他人の痛みや不幸を笑う悪魔が滑稽ですね?貴方も少しは"痛み"というのを理解しましたか?」
そこには右足を切断されたゼロが横たわっていた。
右足からは大量の血液が流れ出ており、その壮絶な痛みからゼロは苦悶の表情のまま動けずにいた。
(まずい、このままだと死ぬ…痛い…逃げないと…痛い…距離を…取って…体勢を立て直さ…ないと……痛い痛い痛い痛い!……左足と両手……が残ってるん……だからまだ戦え……痛い痛い痛い痛い痛い痛い痛い!なんでこんなに切られたところが痛いんだよ!)
ゼロは一つミスをしていた。ゼロは今までゲーム内でダメージを受けたことがほとんど無い。と言うより痛覚設定で痛覚を100%にした時から今までに関しては一回もダメージを受けたことが無いのが不味かった。
リアルの人間は事故などで大きな怪我を負ってもすぐには痛みを感じることは無い。理由は、簡単に言うなら大きな怪我などが人の肉体に大きなストレスとなって人の心身を興奮状態にする、よく言われるアドレナリンと言うのが出ている状態である。これが出ると痛みを感じる感覚器が麻痺する。その結果、痛みがあまり感じなくなるという現象が起こるのだ。
だが、ゲーム内のゼロは違った。
実際に怪我しているのはリアルの肉体では無く、ゲーム内の肉体。だからこそゲーム内でのダメージや痛みはそのまま凄まじい痛みとして脳に直接送られてしまう。リアルの肉体が怪我をした訳では無いのでアドレナリンが多量に出ることは無く、言ってしまえば脳で痛みを感じている状態になるのだ。つまり一切の軽減が無い、足を切断した痛みがゼロに襲いかかっているのである。
本来ならゼロの様な状態にならないように痛覚設定が存在している。だが、それを切っているゼロには耐え難い苦痛が直に来ているのだ。
「悪魔が痛みに悶える姿は何度見ても笑えてきますね。最大限手加減をしてでも見る価値があるというものです。」
「ふー……ふー……ふー……」
あまりの痛みにゼロには、なんとか呼吸を落ち着けることに集中するくらいしか出来ることが無かった。
そんなゼロの頭の中には現状の解決策が一つあった。
(痛覚設定を0に戻せば……)
そう、今の痛みは痛覚設定を100%にしているから起こるのであり、切ってしまえば関係ない。急いで痛覚設定を0に戻そうとした所でアドラの言葉を思い出す。
『貴方も少しは"痛み"というのを理解しましたか?』
アドラはこう言った。大きな"痛み"というのは今までゼロが現実で感じたことが無かったものだ。ゼロが今まで生きてきた中で痛みを感じたのは精々擦り傷や切り傷などくらいだ。だからこそゼロは分かっていなかった、本当の"痛みを"死"の恐怖を。だが、ゼロは痛覚設定を切る事でそれを初めて実感し、本当の意味で"死"というのを理解した。ならばここで痛覚設定を戻してもいいんだろうか?痛みから逃げて、ただこの世界の人々をころす。そんな事をしていいのだろうか?
否だ。ゼロはここで"痛み"から逃げて、ただ金のために殺しを続ける。そんな事は自分自身が許せなかった。"殺る以上殺られる覚悟を持つべき"ゼロは綺麗事なんてクソ喰らえだと思っているが、それと同時ににある程度の綺麗事が無ければ自分が現実の犯罪者以下の存在になると理解していた。なぜならこの世界の人々もまたこの世界で"生きている"のだから。
だからこそ、殺しという悪逆非道な行為をしてるのだからそれ相応の覚悟は持つべきだと、痛めつけられ、殺されても文句が言えないことをしているのだと改めて考え直した。
そこで頭上から視線を感じる。目を向けるとリアが心配そうな顔でゼロを見ていた。
それを見たゼロは笑みを浮かべ、リアに目線で自分の言いたいことを伝える。そして再び設定の画面を見たゼロはその画面を閉じる。
「ふぅ……命というのを考え直せ…ゼロ。お前は今この世界で生きてるんだろ?…ならこの"痛み"を断ち切る訳にはいかないだろ…!」
「何をぶつぶつと言って…………ッ!」
アドラは息をのんだ、理由はゼロの瞳だ。ゼロのその青色の瞳から放たれる視線は先程よりも鋭く危険なものになった様にアドラは感じ取った。それはまるで死を覚悟した死兵の様な気配だった。
「ふっ…ふふ…何をしようとしてるのか知りませんが貴方では私には勝てませんよ!」
ドンッ!
アドラはゼロに対して感じたものを振り払う様にゼロの腹部を蹴り上げた。ゼロの身体はアドラに蹴られたことによって吹き飛び、まだ形を保っていた建物の中に転がり込む。
「ゴホッゴホッ……!」
ゼロの口から血が吐き出される。今の一撃で胃が損傷したようだった。
「まだ生きているんですか。しぶといですね」
「俺が……死んだら……リアを……殺すん…だろ?」
「上にいる吸血鬼の事ですか?だとしたら勿論殺しますよ。徹底的に痛めつけた後でね」
もう喋るのも辛いだろうゼロの顔には何故か笑みがあった。それは普通のものでは無い、狂気的で悪辣的な笑みだった。
「なら……死ねねぇな!」
瞬間ゼロは魔術を起動させた。
「闇魔術の[暗黒]ですか……だが、この程度!」
アドラは軽くゼロの暗黒を無効化し視界を元に戻す。だが、そこにはゼロの姿が無かった。そしてアドラの真横から魔術が炸裂する。
「ぐっ……! なるほど…"悪魔の翼"で私の横に移動してたんですか」
アドラの目の先では黒い翼を生やしたゼロが天井にぶつからないように飛んでいた。
「まだ負けたくないんでね!」
ゼロがそう叫ぶと次々に魔術が放たれる。もし相手が異界人などであればその魔術の弾幕は有効だっただろう。だが、相手は高レベルの圧倒的強者だ。
「甘い!」
凄まじい勢いで魔術が切り裂かれ打ち消される。その斬撃の威力は凄まじく、その余波だけで建物を切り刻んでいった。
「貴様の様な下級悪魔程度に負けるほど私は弱くないぞ!」
その声と共にアドラはゼロに向かって斬撃を飛ばす。
「くっ…[強風]![風球]!」
ゼロは咄嗟に自身を強風で吹き飛ばしながら風球を身体にぶつけることで一時的に飛行速度を加速させてその斬撃を間一髪でよける。
だが、その斬撃はゼロの想定より遥かに鋭く、ゼロの左翼を切り裂いた。
「だっ……ッ」
ゼロはその勢いのまま建物の壁にぶつかった。
片足を失い、羽を切り裂かれ、既に満身創痍なゼロの元へ足音が近づいてくる。
「残念ですがここまでのようですね。貴方は同レベルの者達の中では相当な強さを持つでしょう。ですが、相手が悪かったですね。貴方では天地がひっくり返ろうとも私に勝つのは不可能です」
薄ら笑いを浮かべながら近づいてくるアドラは自身の勝利を確信していた。だが、ゼロは未だアドラに敗北したと思ってなどいなかった。
ゼロは最後の手札を切った。
「アドラ……お前は気を……抜きすぎたな?」
「何を言っているんですか?」
メキッ
その時、そう言ったアドラの頭上で嫌な音が鳴った。
「……ッ!まさか!」
アドラが頭上を見ると無数の斬撃と魔術の余波をくらい続けた建物が今にも倒壊しそうになっている。
「さぁ、アドラ!これが俺の最後の一手だ!」
ゼロのその言葉を聞いたアドラは焦るでもなく口元に笑みを貼り付けた。
「悪魔ゼロ、残念ですが私の勝ちです。冥土の土産に私の力の一端を見せてあげましょう」
そう言ったアドラは先程から幾度か見たように剣を腰だめ構える。だが、その威圧感は先程までの比ではない。
「固有武技・"天仙閃断"」
瞬間、落ちてきていた瓦礫どころか周囲の建物が全て切り刻まれ、掻き消えた。
「これが私の実力の一端です。わかりましたか?貴方では勝つ事など端から無理だったのですよ」
絶望的なまでの実力差。
だが、それでもゼロは笑っていた。
「言ったよな?最後の一手だと。最後の一手はまだ終わってないぞ?」
「何を言っているんです?貴方はもう動けないでしょう?」
「そうだな、確かに指一本も動けないさ……俺はな?」
次の瞬間空が紅く染まった。
夕暮れ?違う。既に日など沈んでいる。街を照らすのは街灯とそこら中で燃えている炎だけだ。だが、その灯りを反射する紅い何かが空にはあった。
「あれは……?………まさかッ!」
「さぁ、時間は稼いでやったぞ。ぶちかませ!リアーー!」
ゼロが叫んだ瞬間、今の今まで一切ゼロとアドラの戦闘に干渉しなかったリアが動く。
「ゼロ様、今まで動けず申し訳ありませんでした。これで終わりです」
リアは現在自分の持つあらゆるスキルを使い、その魔術を極限まで強化する。
そしてそれを向ける先は……街の中央。そこは現在人々が最も多く集まる場所だった。
「まて!やめろーーー!!」
今までにないほどの焦りを見せるアドラを無視してリアはその魔術の名を告げる。
「【紅淵血激絶槍】」
内から溢れ出る承認欲求モンスター!
(「・ω・)「ガオー
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