閑話〜光の女神と闇の女神〜
次回は運営の話を挟んでから元の話に戻ります。
それと初めての感想めちゃくちゃ嬉しかったです!
そこは白く、何も無い空間だった。
いや、正確には虚無が存在すると言った方が正しいのかもしれない。
そんな空間に苦虫を噛み締めたような表情で足元を見ている女性がいた。
「あのゼロとか言う奴、私の愛しき子達をよくも殺してくれたわ……こうなったら全てのプレイヤーに奴の討伐クエストを送ってや……」
『何をやってるのかと思ったら……くだらないことはやめなよティアーラ』
その女性、光の女神ティアーラは驚いたような表情で辺りを見回す。
「な…あんたがなんでここにいるの!?」
『そこにはいないよ。…てか知ってるでしょ、僕がそっちに行けないの。これは念話だよ』
「ふんっ……なら、なんの用でこうして話しかけてきたのか聞いてもいいかしら?」
『今の自分の行動を振り返りなよ。そんくらい分かるでしょ?』
そう念話をしてきた人物から言われたティアーラは小馬鹿にしたように鼻で笑って答える。
「なに?あの男の討伐クエストを出すなって言いたいの?」
『当たり前でしょ?彼も異界人の一人。異界人のこの世界での過ごし方は千差万別。僕たちはそれを妨害することは許されない。"異界人への過度な接触、肩入れを禁ずる"それが創造主様達のお言葉。……分かったら貴方もそんな事はやめて……』
「黙りなさい」
念話越しに聞こえてくる女性の声がティアーラの行動を咎め、やめさせようとした所でティアーラがその女性の声を遮った。
「ルナ?貴方に私を止める術は無いでしょ?貴方のような"人では無い闇に生きる者達"に与する者の意見なんて聞く価値も無いわ!」
『なっ……それってどういう意味!?魔物だって生物よ?生態系を守る上で必要な存在なのにそれを蔑ろにするつもり?僕がなんて言われようとも構わないけど、僕の眷属をバカにするのだけは絶対に許さない』
「眷属?まともな眷属がいないのは可哀想ね?貴方からなんて言われようが被害を受けているのは私の眷属の人間達であり、被害を出しているのは悪魔よ?私を止めることができない貴方は指を加えて見てなさい!これがこの世界の意思よ!私が絶対なのよ!」
『なっ……!』
ルナこと闇の女神ルナには現在、確かにティアーラに対して干渉する方法は無かった。それを正確に理解していたティアーラはプレイヤー達にクエストを出してしまった。
「ふふ……これであの男も終わりよ。あの町にいるほとんどの異界人がアイツを狙う。生き残るのなんて到底無理な話よ。…残念だけどルナ……貴方ももう一度、深淵の奥底で眠りにでもついていたら?もう二度と起きてこなくてもいいわよ。それじゃ」
そう自分の言いたいことだけ言ったティアーラによって、ルナの念話は断ち切られてしまった。
◇━━━━━━━━━━━━━━━◇
「くっ……まずい…」
そこは黒く、何も無い空間だった。
ただひたすらに黒が続いており、ティアーラの居た空間とは対照的と言えるほどに黒かった。
そんな空間でルナは上を見ていた。
「あのバカ……異界人全体への過度な干渉は禁止されているのに、アイツをどうにかして止めないと」
だが、そう思っていてももうクエストが出てしまっている以上、もう止めることは不可能となってしまっている。
「こうなったらバランスを取るために僕も彼に……ゼロ君に対してクエストを出すしか無い……」
ルナが考えついたのは、ティアーラのクエストを消すのでは無く、ゼロに対して専用のクエストを出してバランスを取ると言うものだった。
「本来ならダメなんだけど……しょうがない!」
ルナは苦渋の判断ではあったがゼロにクエストを出した。
「クエストを受けてくれれば一時的にモンスターに攻撃され難くなる隠しバフも付けたし、これを受けてくれれば、一応ゼロ君が一方的に不利になる状況は防げると思うけど……」
そう考えている内にゼロはルナのクエストを受注した。
「よかった〜。これで創造主様達から怒られるのは避けれそう……かな?」
実際は運営の主任の人の胃に凄まじいダメージが入り続けているのだが、それはまた別の話。
「それにしても、あのバカ!異界人の人の行動を妨害しようとするなんて!……クエストをゼロ君に送るとき、あんまりにもムカついたからクエスト名を〔妨害〕にしちゃったけど不味かったかなぁ……」
少し自分の本音がクエストに出てしまっていた事を恥ずかしく思いつつもゼロの戦いを見守る。
「悪いけど僕にはこれくらいの事しか今は出来ない。もし君が沢山の異界人に勝てなくて死んじゃっても僕ができる限りの報酬をあげる。だから全力で楽しむといいよ。ゼロ君?」
そう独り呟きながらルナはゼロを見守り続けた。……が
「いや、ゼロ君つっよ」
たった一人で多くのプレイヤーを捌き切ったその実力の高さにルナは舌を巻いていた。
「まさかあの人数差を一人で捌き切るなんて……正直な話、負けると思っていた僕がバカみたいじゃん」
そう言いながら、ルナは一息つく。
「でも、これでティアーラの思惑は失敗。あんな女のくだらない眷属に対する庇護欲のせいでゼロ君に被害が及ばなくてよかった〜」
そう思いながら、ゼロにあげる報酬は何がいいかと思案しかけた瞬間。凄まじい速度でゼロに近づく強者に気がついた。
「……!この気配って……あのバカ…まだ懲りてないの!?」
◇━━━━━━━━━━━━━━━◇
「あは……これで終わりよ。クソ悪魔」
ティアーラは怒気を孕んだような狂気的な笑顔でゼロの様子を伺っていた。
「アイツを何かがあった時のためにこの街に来るように神託を出しておいて正解だったわ。本当ならアイツを使うつもりなんて無かっただけれど使ってしまった以上創造主様達からのお叱りは受けるでしょうね……でも、そんな事よりアイツを倒せればそれだけで街を壊され、人々を殺された私の溜飲は下がると言うものよ」
ティアーラは自身の現状ティアーラが切れる最強の手札を一人の異界人に切らされた事を悔しく思いつつも、これで確実に殺せると安堵していた。
「さぁ、やってちょうだい。我が"十剣"の一人"聖騎士長アドラ・ミラー"」
そう名前を呼ぶティアーラの顔は圧倒的な自尊心で彩られていた。
◇━━━━━━━━━━━━━━━◇
ダンッ!
ルナはティアーラに対する怒りに任せて地団駄を踏んでいた。
「まさか、アイツを使うなんて……正気じゃないでしょ!」
ルナは考えていた、今の現状を収める方法を。
(僕の信者をあのアドラにぶつける?いや、無理なのは自分でもわかってるでしょ、ルナ。私の信者のほとんどは魔界にいるからゼロ君を助けることはできないし、私に剣なんて……うぅ……あのバカがアドラを動かさなければどうにか収められそうだったのにー!こうなったら…私が出るしか……)
そこまで考えていたルナはゼロの宣言を聞いて自分の考えを正す。
『上等だ。この俺"闇の女神ルナ"様が剣"悪魔ゼロ"が相手をするとしよう』
「へ?」
思いもよらない宣言を聞いたルナは頭が真っ白になっていた。
「い……いま……剣って言った?剣って言ってたよね!?」
ルナはついついにやけてしまうその自分の顔を片手で隠しながら先程まで自分が考えていた事を全て捨ててゼロを応援する。
「よし行け!さあ行け!僕の初めての剣…悪魔ゼロ!あのクソ女の"剣"なんて倒しちゃえー!」
そこには先程までのゼロの身を心配していた、一人のプレイヤーに対する過度な接触、肩入れはダメだと言っていたルナはどこに行った?と思うほどにゼロを全力で応援しだすルナの姿があった。
後のルナは運営に向かってこう言ったという。
『ゼロ君のあの言葉、"僕の剣"だって言ってくれたのめっちゃ嬉しかったんですよ!そのせいで後先考えられなくなっても仕方ないじゃないですか!』と
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