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七月六日

ダイナマイトはケツに入りませんので悪しからず

 明日、七月七日は一年で唯一俺が誇れる日。

 そう、俺の誕生日だ!



夕月(ゆづき)クン……ちょっと、いいかな?」

「……えっ?」


 放課後、ダチと二人で創った投扇興(とうせんきょう)愛好会で青春の汗を輝かせた俺は、下駄箱で同じクラスの羽釜(はがま)美沙羅(みさら)に声を掛けられた。


「ここじゃ何だから……」


 クラスでも全く影の薄い美沙羅は、陰キャムーブの極意を会得した達人のように気配が無く、長く伸びた前髪と、どこか清楚感が感じられないよれっとした制服で、クラスメートからも気味悪がられていた。


「え? なに?」

「いいから、ついてきて……」


 クルリと背を向けた美沙羅の手にリボンを施した小さな箱が見えた。


 ──まさか告白かッッ!?

 

 誰かと結託して告白罰ゲームをするような奴じゃないだろうし(そもそも誰かと居るところを見たことが無いわけだが)一人で告白罰ゲームをする程度胸があるようにも、恨みがあるわけでも無い(知らんけど)。


 そうなると……やはり告白だろうなぁ。


 マスクの下から自然と笑みが漏れそうになり、慌てて表情筋を引き締める。


 てか、美沙羅と話したのって……初めてじゃね?


 するってえと…………ははぁん。さてはずっと想いを秘めていたのか。納得。


「……ここ」


 美沙羅が俺に促した先は社会科資料室。やたらデカい地図とか地球儀とか、なんで作ったのか分からないクソデカ図鑑とかが置いてある倉庫みたいな部屋だ。


「いいのか?」

「カギ、特別に借りた」


 おいおいそこまでして俺のこと……。


「入って」

「あ、ああ……」


 放課後の夕暮れ色がカーテン越しに埃臭い資料室を染めている。手頃な長テーブルに腰掛けようとしたが、埃が凄くてすぐに止めた。


「これ……」


 美沙羅がずっと手にしていたリボンの箱を、両手で俺に差し出す。


「明日、夕月くん誕生日……でしょ?」

「しっ、知ってたんだ……」


 家族やダチ以外に、ましてや女子に誕生日プレゼントを貰った事なんかあるわけない俺は、まさかまさかのサプライズに、驚きと共に喜びが湧いて出た。


 が、待て待て。ぬか喜びさせといて、中身は生ゴミでしたー(笑)とか無いよな? な?


「開けてもいい?」


 少し警戒しつつ、そう聞く。

 もし生ゴミなら美沙羅の顔に投げてやれ。因果応報だ。


「いいよ。開けて」


 特に表情を変えるわけでも無く、美沙羅は俺と淡々と会話する。あれか? 古き良きクーデレか?


「どれどれ」


 リボンをほどき、箱を開けると、中から短い筒が三本。それを腕時計のような物でグルリと巻いてある物体が現れた。うん、時限爆弾だね。


「何だこれぇぇ!? えっ!? ええっ!?」

「静かに……聞こえる?」


 ──チッ、チッ、チッ……


「はぁぁぁ?」


 初めて会話した女子から貰った誕生日プレゼントが時限式のダイナマイトとか、ちょっと世界どーなってんの!? マジで。


「赤か青を切れば止まる……」

「間違ったらどうなるって?」

「……爆発する」

「ハッ! 高校生がダイナマイトとか作れるわけねーじゃん。アホだろ?」

「違う。中に入れた大量のスギ花粉が飛び散るだけ」

「それいっちゃん最悪なやつ!!!!」


 なんなんだコイツは!?

 マジ何考えてるか分かんねぇんだけど!!


「あと五分……」

「知るかよ五分五分でスギ花粉かよ!!」

「ヒント」

「なんなんだよ早くしろよ」

「当たりと同じ色のカラコンをしてきた……」

「……は?」


 ほぼ目にかかっている前髪のせいで見えないが、両手を後ろに回した美沙羅が、ゆっくりと俺へと近付いてくる。


「自分で確かめてみて……」

「ラーメン屋の暖簾みたいなその前髪をか?」

「そ」

「何で俺が……」

「あと三分」


 ぶっちゃけあんまり触りたくないんだが、スギ花粉爆弾には変えられん。なんせ俺は花粉症なのだ。春はあけぼのならぬ、春は死にぼのだ。


「ったくメンドーだな!」


 右手でダイナマイトを持ちつつ、左手でサッと前髪を払い、美沙羅の右眼を見た。


「……なんもねーぞ」

「逆」


 てか、案外眼が綺麗だなとか、まつげ長いなとか、余計な事まで見ちまったじゃねーか!! クソボケッ!


「あ、ああ……?」


 美沙羅のデコを押さえるように前髪をどかし左目を見ると、僅かだが右眼と色が違う気がした。


「わかりずれーなぁ!!」

「よく見て……」


 イマイチ乗り気になんねーけど、ゆっくりと美沙羅の目に顔を近付けてガン見する。


「てか取ればよくね? そいっ」

「いたっ!」


 美沙羅の目に指を入れ、カラコンを抜き取った。

 美沙羅が身を引き顔を押さえているが、因果応報ってやつだ。


「きったね……」


 ブツが汚いのもあるが、何より腹立つのがカラコンに()()()()()()()()()()()()事だ。


 ──ブチッ。


「あー終わり終わり。じゃ」


 ハナから俺をハメる気だった事にムカついた俺は、そのまま資料室を出て帰宅した。




「ゆづき君お誕生日おめでとー!」


 家に帰ると、三割引のシールが貼られたスーパーの寿司(六貫)がバースデーケーキだった。

 何割引でも味は変わんねーから、ぶっちゃけ寿司食えて嬉しかった。

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― 新着の感想 ―
[一言] 投扇興愛好会とは、随分渋いwww
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