そのよん
「いやぁ、あんなに歌が上手いなんて…。驚きました!」
お冷に口を付けながら、先程まで聴いていた圧倒的な歌唱力に対しての感想を述べた。
小さな身体とは真逆。曇を切り裂き、暗い曇天を突き抜けていく様な、生命力溢れるハイトーンボイスが、未だに心で残響していた。
そんな歌声で、一時期大流行したアニメのオープニングソングを歌い出すのだから、余計に胸が熱くなる。気が付いたら、カラオケというよりも、ライブを見に来た感覚になっていた。
「そんなんじゃないですよ。でも、これで商売してたから。」
響は、少し照れながらも得意げに言葉を返す。「えっ、歌手だったんですか?」と脊髄反射で返すと、「まぁ、そんなところ。」と水を飲む動作と共に、素っ気なくはぐらかされた。あっ、もしかして俺、地雷を踏んだのか?
「お待たせしました~!」
次の会話の一手を考えていた所に、助け舟の如く店員が注文品を運んできた。ピザ二枚に餃子3人前、鶏の唐揚げに手羽先揚げが2人前。そしてビールと緑茶ハイ。次々と運ばれては、居酒屋の座敷席のテーブルを埋め尽くしていく。
時刻は既に19時を回っていた。喫煙所で意気投合した俺達は、喫茶店で遅めの昼食を取り、カラオケボックスで一生分の曲を歌った、そんな気がする。
しかしながら響と名乗った女性は、不思議な魅力の持ち主だった。
未成年の様に幼い体格と可愛らしい顔立ちなのに、その目は何もかもを見てきたように大人びていて、カラオケの時も、どこか寂しい目をしていた。本人も盛り上がっていたから、「つまらなかった」わけではないと思う。いや、そう思いたい。「こんなゴリラと居てつまらなかった」なんて思いたくない。そもそも、つまらなかったら昼食で別れていただろうし、カラオケや居酒屋を提案したのは彼女だった。代金は昼食も含めて全部俺が出しているけど。
しかし、まあ、何というか・・・。
「響さん、めっちゃ食いますね。」
かなりの大食いだということは、二回の食事でハッキリとわかった。恥ずかしながら、小食の俺は緑茶ハイとピザ一枚しか頼んでない。
「そーかなぁ。昨日全然食べてなかったからかも。」
俺の問いかけに、響は柚子胡椒の効いた鶏の唐揚げを頬張りながら答える。料理が運ばれてきてから時間は経っていないのに、既に餃子とピザが半分程消失している。
なんて、なんて恐ろしい娘なのだ・・・。でも、その唐揚げを一心不乱に頬張る目には、微かに希望の炎が灯っているように見えた。
「早くしないと全部食べちゃいますよ!うおっ、手羽先うまー!店員さーん!」
響が追加注文をしたので、それを慌てて止めつつ、俺も負けじと手羽先に齧り付いた。
爽やかな風味が、鼻孔と舌を心地よく刺激した。