兄弟のように
ラザロ・フォルテ・アルマトゥーラことロザリオは、地図上から姿を消した亡国の王族筋であるという。
王家には、有翼種の血が流れていると言われてきた。
(つまり、順当に考えるとロザリオさんも能力者。地下組織の人間が欲しているという……)
ファナが地下の廃駅騒動で倒れて目覚めてから二日。
過保護なアルベルトから、ようやくベッドを出て動き回る許可が下りた。ファナは神殿内の礼拝堂でロザリオと顔を合わせ、通り一遍の挨拶の後、神妙な態度で話を切り出した。
「財宝列車の行方がわからずじまいなのは、困りますよね。探し物があったんですよね?」
ロザリオは茶色の髪をひとつに括り、顔にはメガネを乗せ、実にしっくりと似合う漆黒のスータン姿での対面となった。何年も前から神殿でともに寝起きしていた兄弟のように馴染んだ様子で、にこにこと笑って「気にしないで」と言う。
「探していたのは事実だけど、選ばれし者ではない輩が手にしたところで、使いようが無いものだから」
地下の廃駅に運び込まれたという問題の列車の探索は、まだ手がつけられていない。
その点については、事件の経過報告で神殿を訪れていたガリレオが、誠に遺憾と言わんばかりの痛切な表情で説明をしてくれた。
「廃駅に関する資料の大半が失われている上に、少なくともここ十数年の間地下がどういった使われ方をしていたか、全容がまったく掴めていない。調査隊を出しても、地の利のあるあいつらに見事してやられたように、迂闊に少数で潜れば確実に返り討ちにあう。かといって、大人数で向かったところで爆破で崩落、全員生き埋めなんてされた日には、この街の治安を守る警備隊がいなくなっていよいよ悪党の跳梁跋扈を許すことになるわけで……」
実に嘆かわしい、としめくくられたところで、笑顔で聞いていたロザリオがすかさず茶々を入れた。
「今でも、跳梁跋扈を許しているみたいだ。首都でもないのに竜騎兵までいるのに、仕事してる? 中央から、もっと優秀な人材を借りてきたほうがいいんじゃないかな」
ふふっとロザリオが笑い、彼とはさして仲が良いとは思われないアルベルトまで「そうだな」と同意をする。
言われ放題のガリレオであったが、特に機嫌を損ねた様子もなく堂々と胸を張って「働いてるよ!」と言い切った。
「日々の仕事を確実にこなしつつ、廃駅攻略についてはすぐには無理でも対策を立てて焦らず少しずつ進めるから!」
ふーん、と気のない様子で聞いたアルベルトがぼそりと呟いた。
「いっそ、熱々に熱した鉄でも流し込んでしまえばいいのに」
「アリの巣穴ならそれでいいけど、あの広さだとね」
ガリレオが相槌を打ち、アルベルトが「子どもの頃、そういうのあったよな。熱湯をアリの穴に注ぐ遊び」とろくでもないことを言い出す。「ああ~」とガリレオが笑顔で頷いた。
「そうだ、お二人は幼馴染なんですよね。悪い遊びをしていたんですね……」
あのアルベルトさまにも悪童時代が……とファナが引き気味な態度で言うと、答えたのはガリレオだった。
「子どもは純粋だ無垢だなんていう人が世の中にはいるけど、なんにもわかっていない。子どもというのは、方向性の定まっていない原初の欲望みたいなもので、放っておけばだいたい少し悪い寄りの生き物だ。だからこそ『良し悪し』を教える教育は大切で、悪いことは悪い、だめなことはだめをしっかり教える必要がある」
「そ、そうですね。無意味な殺生はいけませんというのは、幼い頃のお二人にはぜひお伝えしたいものですが、幸いにもそのへんをよくわかった大人に成長あそばされたことは、大変良きこととと思います……」
ファナはガリレオを見つめて、正直な気持ちを伝える。その視界にアルベルトが割り込んできて「昔のことだから」と話を強引に終わらせた。
興味があるのかないのか、ロザリオは笑顔のまま三人のやりとりを見ていたが、不意に何かに気づいた様子で礼拝堂の入口へと目を向ける。
そして、三人に向かって言った。
「誰か来る。聴罪室利用者じゃないか?」




