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世界でひとつの花  作者: 生丸八光
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2話一輪の花

王子の(はや)る気持ちに(こた)えるように、馬は疾風(はやて)の如く町や村を駆け抜けて行った。


辺りはすっかり暗くなり、人気のない山の中で焚き火を囲み、パンとスープを口にする二人・・


ここに来るまで目にした事が、二人の気分を暗く、落ち込ませていた・・・・


家の中に閉じ籠り、誰一人見かけない町があるかと思えば、大勢が外で喧嘩、暴動になっていた町・・道端で酒を飲み寝てる者。希望を無くし、虚ろな目で座り込んだ人達・・『この世の終わりだ!』と、わめき散らす人・・・二人はそれらの人々を思い出していた・・・


「王子・・・花が消えただけで、世の中こうも変わっちまうもんですかねぇ・・・」


「・・・まぁ・・仕方ないさっ・・人は変化に弱いんだ・・・突然花が消え、戸惑い、不安になっているんだろう・・・君は剣術の事しか頭にないから、いいだろうけどさっ・・・」


タオは、王子の言葉にパンをかじり

「不安か・・・不安になっちゃダメなんだ!不安ってヤツが一番体に悪いんだぜっ!」

と言うと、王子はため息をつき・・・


「花が咲かないと言うことは、実がならない・・・つまり、このパンやトウモロコシのスープも、そのうち、口にできなくなるって事なんだよ・・・」


「ふぅ~ん・・・そうか・・・じゃあこれからは、肉と魚を食って生きねぇとなっ!」



「タオ・・・君は強い男だよ・・・」





旅立って三日が過ぎ、二人はアロマ王国の城下町に来ていた。


この町は、今まで見てきた町と違い、活気と笑顔が見える・・


二人が城の方に足を進めると、城門から伸びる長い行列、その最後尾に並ぶ人に、タオが声を掛けた。


「ねぇ君、これは何の列なんだい?」


「花を見るために並んでるのさ!」


「ひぇーっ!たかが花を見るために、こんなに並んでんの!」

と、タオが理解できない表情を浮かべると


「兄さん、バカにしちゃいけないよ!今や世界中で花を見れるのはここだけなんだから、遠い外国から来てる人もいるんだ!それに、ここの花を見ると、凄く元気が出るって話だ!特別な花だ!どうだい、あと30分程で門が開く、兄さん達も並んで見て行きなよっ!」


タオと王子は、やんわり誘いを断ると、長い行列の横をゆっくり馬で走り抜け、門番の前に来た。


「私は、ネピア王国王子、親書を(たずさ)えて来ました。国王にお取り次ぎ願いたい。」


少しだけ門が(ひら)かれ、中に入って行く・・・



二人が玉座まで案内されると、王子は親書を手渡し膝間付いた。


親書が王の手元まで運ばれ目を通すと、王は、申し訳なさそうに王子を見つめ


「花を貸すことは出来ないんだよ、すまない・・・ネロ・・」


「ほんの数日だけです。式が終われば直ぐ返す事をお約束します!」


「・・・いいかいネロ・・今の世界で、花がどれ程貴重になってしまったか・・・一輪の花を見るため毎日大勢の人が並んでいる。そして、誰かが花を盗み出そうと、毎日、城に忍び込んで来るんだよ。到底(とうてい)、貸す事なんて出来ないし、城の外に持ち出す事も禁じておるんじゃ・・・」


王の話にネロは、(あきら)めざる終えなかった・・・・・がっくり肩を落とし、落ち込むネロに王は


「・・・せっかく来たと言うのに、すまんのぅ・・だが、久しぶりに顔を合わせたんじゃ、夕食を一緒に食べて今夜は泊まって行くとよい。

さぁさぁ元気を出して、おぉ!そうじゃ!花を見るとよい!そろそろ水をやる時間じゃ・・・この花を見ると元気が出るぞぉ!」


と、王が話し終えた時、奥の部屋から、四人の兵士に守られガラスケースを持った男が、王に挨拶しネロの横を通り、テラスに向かって行った。


ネロは、横を通り過ぎるガラスケースの中を目にする事が出来た。


白い(つぼみ)・・・


鉢植えに植えられた花・・なんて事ない花・・以前なら見向きもされない程、地味な花に見えた・・・



テラスの方が、大歓声で湧いている。


「さぁネロ!花を見に行って来なさい。」

王の言葉でネロとタオは、テラスに出た。


二階のテラスから黒山の人だかりを見下ろす二人。


城門が開かれ、花を見に来た人で、広い広場が埋め尽くされていた・・・


『なぜ、この花をそんなに見たがるんだ?』


ネロはそう思いながら、花がテラスにある台に置かれ、ガラスケースが外されるのを眺めていた・・・


ケースが外されると、如雨露(じょうろ)を持った男が花に水を与え始める。


白い(つぼみ)に水がかかり、花びらが少しづつ開き始め、開くと更に、中から何枚もの花びらが現れた・・・

その花びらは、虹色で輝き出し、どんどん大きく広がり続け、開ききったその姿は、まるで巨大な女神が翼を広げ、人々を祝福しているかの様に見えた・・・・


初めてこの花を見た人は驚き、両手を上げ祈る者、感動して涙を流している人までいたが、常連の者は、大歓声を挙げて(よろこ)んでいた。


王子とタオは目にした光景に目を丸くしている。


やがて、その花の女神は(つと)めを終えたのか、昇天するように空へと消え、白い蕾の姿に戻っていた。


花がケースに納められ、城の中に運ばれて行くと、観衆は帰って行くが、皆、目を輝かせ元気に溢れている。


王子とタオも、体の中から感動と元気が湧くのを感じながら、互いに顔を見合せ、その場に立ち尽くしていた・・・









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