第九話 もう自分の力でなんとかなる!!
「ムダ! むリョク! 伝説の剣を持たないお前の攻撃なンゾ、カスも同ゼン!! ゲヒャヒャヒャ!!」
相変わらずうす汚ねぇ笑みを浮かべる魔王だ。
本当に俺の攻撃を物ともしていない。
対して俺の拳は鎧の固さに血が吹き出していた。
俺に攻撃するよりも鎧を叩きつけた方が良いと考えたのか、今では突進ばっかりしてきやがる。
利口な事だ。
「認めてやるよ。お前は名乗るだけのカス魔王じゃねぇ。正真正銘の魔王だ。」
人間に伝説の剣と鎧があるなら、魔王にも伝説の剣と鎧がある。
そのどちらか片方でも持ち合わせているのなら、そいつは正真正銘の魔王だ。
正真正銘の魔王を倒すには伝説の剣と鎧が必要だ。
だが、人間のそれは魔王を倒すと勝手に元の場所に戻ってしまう。
しかも、あいつらがある場所は遠いし、一つ間違えれば死ぬかもしれない危険な場所だし、試練とかいう苦行も受けさせられる。
今まで何度あれを取りに戻って、死にかけたことか。
そして、面倒だと思ったことか。
状況は拮抗している様に見えるが、俺が圧倒的に劣勢だ。
攻撃すれば傷つく俺と違い、やつは俺に攻撃をしてもダメージを負うことが無い。
だが、こんな修羅場はくぐり飽きている。
そんな俺を説明クソ魔王があざ笑った。
「ゲヒャヒャヒャヒャ!! まさか俺が鎧しか持っていないとでも思っタカ?」
フォボスの手にいつの間にか漆黒の剣が握られている。
「人間の伝説の鎧すらも切り裂くサタンソードダ!! 俺こそが勇者を殺し、真の魔王になる第百十九代魔王フォボスさマダ!!!」
「いちいち説明ご苦労な事だ!」
フォボスの速度が増す。
このために今まで手加減してやがったな。
それでも、避けられない速度じゃない。
賢い戦い方をしているが、身体能力は高くないようだ。
いや、俺が速すぎるだけなのかもしれない。
「お前を殺したあトニ、そこの下等な魔族を殺し……。」
「おい! テメェ! 今聞き捨てならねぇ事を言いやがったな? もう一度言ってみろ。」
「お前を殺したあトニ、そこの下等な……。」
「俺の妹を侮辱するんじゃねぇ!!!」
俺の怒りをのせた拳にフォボスが狼狽えた。
ようやく効いたみたいだ。
「馬鹿にぃ……。」
馬鹿って声が聞こえた!
「テメェ! 俺の妹は馬鹿じゃねぇ!! 一度ならず二度までも!! この正真正銘のクソ魔王が!!」
「何も言ってねぇダロ!!」
俺の渾身の怒りをのせたパンチが遂にサタンアーマーを砕いた。
「馬カナ……。これは伝説の鎧のハズ……。生身の人間が砕けるはずがナイ!!」
「所詮お前の鎧はこんなものだ。作られた時は伝説かもしれねぇが、俺は生きる伝説! 俺の進化は止まらねぇ!!」
狼狽えるクソ魔王に続く渾身のフックを食らわせてやった。
「ブヘェェェ!! ……だが、鎧が砕かれても俺にはこのサタンソードがアル。お前の体を……」
縋るように剣を振りかぶる説明クソ魔王にはわからせてやらないといけないみたいだ。
人に絶望を味あわせておいて、自分が絶望を味わわないのは、フェアじゃない。
だから俺は敢えて説明クソ魔王の剣をその身で受けた。
俺の体を斬ろうとした剣は、俺の体にぶつかるとキーンと甲高い音を立てて折れた。
「な…ゼダ……。」
下卑た余裕の笑みを浮かべるクソ魔王が初めて呆気を取られたような間抜けな面を見せた。
俺にとってそれは、当たり前の事実でしか無い。
「俺の妹を想う永遠の心が! 体が! 魂が! 時代と共に廃れていく伝説如きに……斬れるわけがねぇだろうが!!」
伝説の剣と鎧を取りに行くのが面倒すぎた俺はただひたすら体を鍛えた。
魔王を討伐した時でも、こんなに鍛えてはいなかったと思えるぐらいには鍛えた。
魔王が現れる度に取りに戻るぐらいなら、いっそのこと鍛えてやると意気込んだのがこんな所で役に立つとは。
まぁ、実生活で加減を覚えるのに苦労して、クルリのお気に入りの物を壊して怒られた時はショックを受けたがな。
そんな訓練のかいあって、今では正真正銘の魔王ももう自分の力でなんとかなる。
流石に体で受けるのは初めてだが、この説明クソ魔王は身体能力が高くないし、そもそも剣の扱いが素人だから切れないという確信はあった。
かつての仲間、剣聖と呼ばれているギルガがいたら折角の名刀が台無しでござると落胆するだろう。
さて、感慨にふけるのはここまでだ。
理解出来ない事態に恐れ、俺が近づく度に後ずさり、逃げる機会を伺っている説明クソ魔王に一つ教えてやらないといけない。
「その腐った説明脳をフル回転させて魂に刻みやがれ!! 俺の妹は世界一最高で可愛らしい容姿端麗で天才で才色兼備で全知全能なまだまだ成長途中の宇宙一最強の妹だ!!!」
「理解……出来ナイ………。アギャーーーーーー!!!!!」
第何とか代目のなんとかボスこと、説明クソ魔王が俺のアッパーで星になった。
説明口調の癖に理解できないとは……やはり脳が腐っている。
利口だと思ったが、それも違うらしい。
現実というのは俺にはわからない。
ファンタジーみたいだな。
春菜とクルリも無事に生きているし、クルリの目にも生気が宿っている。
二人が無事だというのなら、それだけで今は十分なのかもしれない。
ご覧いただきまして、ありがとうございます。
気に入っていただければ、ブックマークやお気に入りユーザー登録をお願いします。