表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
7/52

第七話 もう手遅れ……

 春菜を抱えてグリーンラッド村に俺達は走った。

 だが、村は既に壊滅していた。

 少し考えれば分かったはずだ。

 俺が3時間走り続けてようやく辿り着いた村に、幼い春菜が何時間かかるのか、悲劇は既に起こった後なのだと。

 もう手遅れなのだと……。


「お母さん……。みんな……。どうしたの……?」


「ごめん……。ごめんな……。春菜。」


 グリーンラッド村事態は畑が荒れているぐらいで済んでいるが、住人達は見るも無残な事になっていた。

 何度も見てきた俺ですら、その光景には吐き気がする。


「分かった。隠れんぼだ。お母さんみーつけた。お母さん……。春菜見つけたよ。お母さん……。」


 春菜が自身の母親を家の中から見つけ出し、動かない母親の腕を引っ張っている。

 その残酷な光景を俺は見ていることしか出来なかった。 

 この光景を生み出した原因は俺。

 長く続く魔王討伐で忘れてしまった俺の危機管理能力の責任だ。

 

 俺が魔王討伐を決めたのも、この光景を見たからだ。

 そして、俺は二度とこんな想いを誰にもさせないと決めたはずなのに!!!

 こうならないために、俺は魔王を倒し続けていたはずだったのに……。


「やはり来たな、勇シャ! 俺こそが第百十九代魔王フォボスさマダ!! 俺はそこらの魔王とはちゲェ!! お前を一生ここで閉じ込めて、人間を滅ぼしてやルヨ!!」


「うるせぇんだよ……。」


 何度も聞いたその名乗りが、下卑たその面が、利口になったその頭が、魔王を名乗るその存在が。


 ーーーー許せねぇ!!!


 俺は魔王に怒りをこめて殴りかかる。

 

「無駄ダゼ! お前も知ってるだろう? この鎧は伝説の剣が無ければ傷一つ付かねぇ! 残念ながら持っていないみたいダナ? ゲヒャヒャヒャヒャ!!!」


 そんな事知ったことじゃねぇ!!

 俺はフォボスを殴り続けた。

 俺のパンチはフォボスの言う通り、効いていないみたいだ。


「無ダ無ダ!! お前は知らんだろウガ、この鎧は神と互角に戦ったとされる悪魔のもノダ!! 人間のお前ごときが傷一つ付けられるもノカ!! ゲヒャヒャヒャヒャ!!」


 殴る拳に鈍い痛みが走るが、説明ばかりするクソ魔王は嘲笑しながら下卑た笑みで満足そうに無力な俺を見る。

 何時間も走ってきた後だからか、拳にいまいち力が入らない。

 ブチギレているはずなのに体が俺の怒りを拒絶するようにだるい。


「俺は今までの魔王とは一味違ウゼ! これが魔王の新たなちカラ!! 権能ベルフェゴール!!!」


 フォボスの言葉に俺の体が急に重くなる。

 それどころか、フォボスに対する怒りまで湧き上がらなくなっていく。


「これぞ権能ベルフェゴール! お前は堕落していき、やがて生きる気力すらうしナウ。人間如きが抗えるものじゃネェ!! 住人達に試してみタガ、期待以上の効果だっタゼ!! ゲヒャヒャヒャヒャ!!」


 春菜の言っていた住人が仕事をしなくなったという話の原因は、この説明クソ魔王か!

 俺は視線を回し、急いで春菜とクルリを見た。

 春菜は死体の山の前に呆然と立ち尽くしている。

 クルリは尻尾が垂れ下がっていて、その目から生気が失われていっている。


「春菜、クルリ、逃げるんだ!」


「お前もうんざりしたんじゃねぇノカ? 勇者なんて言われちゃいルガ、人間はお前の事なんて必要としちゃいネェ。」


 くそ! 口撃までしてくるのか!

 今まで俺の家に無策で押しかけてくるしか脳が無かった魔王達と違って、こいつは随分利口だ!

 悪いが、今の俺にはそれは極めて有効だ。

 既に堪えてるぜ畜生!!


「そこのチビもよく見ロヨ。こいつが勇シャ。お前達を見捨てていなくナリ、俺ら魔王を呼び寄せる諸悪の権げンダ。」


「お兄ちゃんが……勇者?」


「そウダ。この村が滅んだのも、全てこいつのせイダ。」


「お兄ちゃんの……せい?」


 やめろ! そんな目で見るな!!

 春菜の顔が歪み、憎いものを見る目。

 言わなかった俺が悪い。

 いなくなった俺が悪い。

 そもそも俺が勇者を辞めると言い出さなければ、俺が引っ越さなければ……。


 自責の念で押し潰される。


 ………


 そうだ。

 全部、俺のせいだ。

 

「返して……お母さんを返してよ。」


 春菜が俺を揺するその腕が痛かった。

 やめてくれ。

 もう十分俺は傷ついた。


 これは全部、勇者として何もかも至らなかった俺の責任。

 こんな俺が勇者を名乗るなど傲慢にもほどがある。

 勇者を辞めても辞めなくても、結局俺は害悪にしかならない。

 

「お前は勇者を辞めるんだったヨナ。 影で聞いてタゼ。 俺が勇者を辞めさせてやルヨ! お前を殺しテナ!!」


 魔王に殺されれば、俺は勇者を辞められる。

 そうか、俺を勇者じゃなくしてくれるのは、魔王しかいない。

 そう思うと、魔王は案外良いやつなのかもしれない。

 俺には世界の救世主とか魔王を倒した英雄とか言われる勇者なんて向いていなかった。

 平和は自分が守っているとか、身勝手な自己満足に身を委ねていたんだ。

 俺が死んだ方がきっと、人間は幸せに暮らせるはずだ……。

 こんな簡単な事に何故俺は気付けなかった。

 

 ーーーー死ねば勇者を辞められる。


 思ったよりも早く勇者を辞められる事ができそうだ。

 ならば、俺はそれを受け入れよう。

ここまでご覧いただきまして、ありがとうございます。

 よろしければ、お気に入り登録やブックマークをよろしくお願いします。

評価をするにはログインしてください。
この作品をシェア
Twitter LINEで送る
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ