第五話 もう情報を鵜呑みにするのはやめよう
「修にぃは、働かなくても修にぃにしか出来ないことがあるじゃん。」
「いや、俺はめげない!!」
俺は、この一ヶ月、魔王からの襲撃がなかった事に少し焦っていた。
こんな事は過去に一度もなかった。
俺は魔王の襲撃が無いと収入を得られず生きていけない。
俺も気付かなかったが、魔王が俺を倒す最善手は俺を襲撃しないことだとは思いもしなかった。
魔王がそれを実行している可能性まである。
クルリがいれば生活には困らないかもしれないが、それでは俺が困る。
このまま、クルリにずっと世話をしてもらって生き続けるのは、俺の沽券に関わる。
最終的にはクルリに見捨てられてしまうかもしれない。
「俺は生きるために真っ当に働くんだ!」
そうして、今日も今日とて職業相談所に行ったのはいいが……。
「柊様に紹介できるお仕事はありません。冒険者に戻られてはいかがですか?」
「そこを何とか!」
「それなら、自分で探してください。もう良いですか?」
仕事を紹介してくれた職員さんに俺は厄介者扱いされた。
同じく相談所にいる人達がヒソヒソと俺のうわさ話をしている。
早くいなくなってほしいという内容の様だ。
この様な態度を取るのも、俺が勇者だからだろう。
仕事を紹介されず、冒険者に戻る気にもなれず、俺はアルテミシアの街をさまよっていた。
アンケート調査という名目で勧誘している人が入信に成功しているのが羨ましい。
よくよく考えれば、ゼウス教徒が多い街ならば、ああいった勧誘をしなくても勝手に人は集まるのではないだろうか?
だが、それをしているということはゼウス教徒が良くない宗教か、減っているのかもしくは、少ないという事だろう。
正解はわからないが、勧誘が難しいことも少し考えれば分かったはずだ。
これもクルリに甘えて、世間をろくに知ろうとしなかった俺の反省点だ。
しかし、平和に暮らしている人達を見ていると、妬ましく感じる。
かつては不安に怯える日々だったのに、それを忘れたかのようなその光景が妬ましく思えた。
自分はこんなに苦しんでいるのに。
俺が死ねば、あの人達も地獄の様な日々を思い出してくれるのだろうか?
そうした負の考えにのまれそうになった時、俺は警備団に追い縋る幼女を見てしまった。
「お願い、警備団さん! 村のみんなを助けて!!」
「小汚いクソガキが! 近寄るんじゃねぇ!!」
泣き縋る幼女を追い払う警備団。
警備団にあしらわれるも、追いすがる様に足にしがみついている。
何度も縫い直したかのようなボロボロの服に、靴は擦り切れ、赤く腫れ上がった足が事態の深刻さをにおわせる。
警備団の謳い文句は、世のため人のため、魔族の魔の手からあなたの生活をお守り致します。というものだったはずだが……。
アルテミシアの街でもそういった看板は立っている。
実態は違うのか?
宗教勧誘を含めて、誰かに聞く話とその実態はあまりにもかけ離れている。
もう情報を鵜呑みにするのはやめよう。
「どうしたんだ?」
俺は幼女に声をかける。
警備団の連中が困惑しながら俺を見ている。
お前達の仕事は俺を見ることじゃないだろ。
「魔族がやってきて、村のみんなが……村のみんなが……!! えーーーーーん!!!!」
俺が事情を聞こうとしたら幼女が泣いてしまった。
幼女の頭を撫でながら俺は泣き止むのを待った。
肝心の警備団は何やらヒソヒソ話を始めている。
「おい、こいつ柊じゃねぇか!?」
「馬鹿! 様をつけろ様を!!」
警備団は俺が設立したはずなんだがな。
いや、進言しただけで設立したのは王という扱いにしたか。
警備団の設立する際、王と俺は少し揉めた。
警備団のまとめ役を俺に任せたい王とやりたくない俺。
正直、設立を進言してなんだが、俺はまとめ役には向いていない。
というのも、魔王討伐の旅の時、仲間同士のいざこざやまとめ役はなんだかんだ明や奏が行っていたからだ。
二人の姿を見ていると、自分にそんな才能は無いと思ってしまう。
だから結局の所、お金をある程度俺が出すことで、まとめ役は王が冒険者として名を馳せていた奴を指名した。
かつての仲間も俺と同様、やりたくないと断られたそうだが、それには俺も頷いた。
しかし、本当に勇者の世間体は酷いみたいだ。
こうして直面してみるとわかるが、知らない方が良い事もある。
クルリが俺を外に出さなかったのも、俺を思ってのことだと思う。
俺の知らないところでも俺のために頑張ってくれるクルリには頭が上がらない。
本当に俺にはもったいない程出来た妹だ。
「お兄ちゃんが話を聞くから、疲れただろ。」
「お兄ちゃん……だ、れ……。」
俺の言葉に安心したのか、あまりにも疲れていたのか、幼女は意識を失った。
小さな寝息を立てているのを確認し、俺は幼女を抱っこして家に戻ることにした。
心地良さそうに俺の腕で眠る幼女の息が少しくすぐったい。
こうして、幼女を抱っこすると、クルリを抱っこしたことを思い出してしまう。
まだ猫だった頃に勝手に俺の下を飛び出して、必死に探したらクルリは魔物に襲われていた。
慌てて救出したが、怯えるクルリに引っ掻かれながらも抱っこしてギルドの宿屋へと戻った。
もしかしたら、クルリが俺に懐くようになったのはあの時からかもしれない。
肝心のクルリは覚えてない様だし、この話をすると俺を蹴り飛ばしてくる。
それなのに、変な所は覚えているんだよな。
猫の時に俺に出された餌が不味すぎて料理を覚えようと思ったとか。
感慨にふけりすぎたかもしれない。
今はこの幼女が優先だ。
警備団が何やら言っているが、気にもとめずに俺は家に帰ることにした。
こうして、家に帰りながらたまたま通り掛かる人を見ると、俺を避けていることがわかる。
家事も仕事もろくに出来ず、世間から嫌われている俺にしか出来ないことなんて本当にあるのだろうか。
勇者って辛い。
ここまで読んでいただきまして、ありがとうございます。
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