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第二話 もう仲間なんていらない


「修平、また魔王に上がりこまれたのか?」


「明か……。トレーニングの邪魔だ! そしてたまには手伝え!」


「弾代が持ったいねぇだろ!!」


 魔王が出たというのに、呑気に遅れて俺の家に入り込んできたのは、俺の親友、剣道明。

 魔王討伐の旅を共にした、俺の仲間の一人だ。

 真面目で活発だが、誠実なイケメンという印象の見た目の明だが、中身はそんな見た目とは程遠い。


 まず、剣道という名に恥じるように扱う武器は銃だ。

 剣道家はその名の通り、剣の道を重んじる家柄だが、明は剣は銃に負けると剣を使いたがらない。

 俺と同じで魔王討伐の報酬はもらっているが、こいつは豪遊している。

 女遊びをすれば王の娘にまで手を出し、一度のギャンブルで何億と負ける。


 そんな性格の明だが、容姿だけは優れているため王家にも人々にも愛されている。

 王は英雄だからと娘に手を出す事に賛同していて、ギャンブルで何億と負けても騙し取られたと養護される。

 俺はこんなにひもじい生活をしているのに。

 その名声を少しは俺に分けてほしいものだ。

 

「それだけ鍛えていれば、一人でも楽勝だな。勇者様!」


「お前達が来ないから一人で戦うはめになってるんだ!」


 俺の肩に手を置く明が凄くうざい。

 それに、こいつの目的は分かってる。


「クルリちゃん! 明にぃが来たよ!!」


「あ、来てたんだ。」


 クルリが引っ越しの支度を一時中断し、お茶を出す準備を始めた。

 お湯を沸かし、茶葉をせっせと準備しているクルリを明が蕩けた目で見つめる。

 王家の娘に手を出している癖に、明はクルリにべた惚れだ。

 明が言うには、クルリちゃんが本命だそうだが、ナンパした女性にもその言葉をかけているから、信用に値しない。 

 だが、用事も無いのに俺の家に上がり込んでくるのは珍しい。

 今はそれどころではない。

 こんな信用できないクズ野郎に俺の妹はやれん。

 お茶をつぐクルリをどけて、代わりに俺が入れる。


「粗茶が出来上がりました。」


「毒は飲めねぇよ。修平、金がねぇならまず無駄金を減らしてだな……。」


「うるせぇ!! 不法侵入で警備団に突き出すぞゴラァ!!」


「あちぃあちぃ!!」


 明の口に無理矢理、出来たての熱いお茶を入れてやった。

 舌を突き出して苦しんだ後に、トイレに転がりこんでいった。

 さてはあいつ、トイレを借りに来たな。

 元々そういう気質の持ち主だったが、報酬でたがが外れた様子だ。

 魔王討伐の旅の時は、頼りになる男だったが、その面影は残っていない。


「修にぃ、最低。」


「ごめんごめん。」


 クルリが小さな顔を膨らませてご機嫌斜めな様子だ。

 尻尾で俺の足を叩いている。

 クルリは掃除とか洗濯とかこういったお茶出しを俺がやろうとすると、機嫌が悪くなる。

 だが、これも妹を不審で不届き千万な男から守るため。

 妹があのクズ野郎と結ばれるのだけは許せねぇ。

 クルリが仕方なく引っ越しの準備に戻ると、玄関を叩く音が聞こえた。


「あ……修平くん……遅れて……ごめん……ね……その……。」


 トイレに駆け込む明と入れ替わりで家に入ってきたのは、幼馴染の花咲奏。

 奏は俺より賢くて優秀だ。

 学校では勉学において一番の成績なのに謙虚で、美人だったことから人気者。

 俺はその対極にいた。

 頭も良くないし、先生の言うことを聞かない問題児。

 奏よりも優れている所を言えば、飯を食うのが早い所ぐらいだった。

 

 冒険者になった俺とは違って、奏は勉学の道に進み魔法を覚えて、今では賢者様と慕われている。

 魔王討伐の報酬の殆どを学校設立の資金に当て、今では王家が後押しする魔法学校の校長として、魔法の指導と研究をしている。

 明と違い、度が過ぎるほど真面目だ。

 奏だけは忙しかろうと遅れようとも、いつも魔王討伐に駆けつけてくれる。


「いつもありがとうな、奏。」


 奏が俺から目を逸らす。

 間に合わなかったことを悪く感じているのだろう。

 魔王がやってくるのを察知できるのは奏のおかげでもある。

 魔族の情勢を調べ、いち早く俺に報告してくれる。

 最初に家に上がり込んできた魔王に関しては、襲撃があるだろうことを奏に知らされていた。

 

 ただ、そんな奏だが、見た目は遊びまくっているギャルのそれだ。

 そして、何故か髪型を頻繁に変えてイメチェンをする。

 元々は地味な黒髪だったが、茶髪に変えたり、金髪に変えたり、ピンク色に変えたり、髪の結い方を変えたり、本人に理由を聞いても濁されるばかりだ。

 

「今日は金髪にしたのか。毎回毎回、何で髪型を変えるんだ? どれも素敵だとは思うが……。」


「え! ホント!?  えっと……これは……その……ええーっと………何で……だろうね!」


 ほらね。

 こうやって、濁される。

 長い付き合いのはずなのに未だに俺にはどもる癖を何とかした方が良いと思う。


「それより、今日だけで魔王が二体来たぞ。」


「そう…だったんだ……ごめんね……当てにならなかったよね。」


「謝る必要はない。多分、二体目は付添で名乗った勘違い野郎だと思う。」


「でも……ごめんね……修平くんは……凄いね……。」


 凄いって何のことだ?

 魔王討伐の事か?


「ああ、今回はどっちも勝手に名乗っているだけの勘違い魔王だと思う。」


 今日襲撃してきた魔王達は、今までの魔王の中でも弱い部類だ。

 俺が倒してきた魔王の中で、最も多くを占めるのが今回現れた勘違い魔王。

 魔族は魔王が全ての魔族を支配しているという訳でも無い。

 だからこそ、こういった勘違い魔王が結構現れる。

 

 そもそも、実力に見合った魔王は初代魔王が持っていた伝説の剣と鎧を所持している。

 そんな正真正銘の魔王が出る事の方が少ないけどな。


「ちがっ! ……あう…その……魔王を倒した後なのに……。その……。」


「ああ、トレーニングか。」


 魔王に襲撃される以上、トレーニングは欠かせない。

 実際、トレーニングをしてばかりで俺はロクに働けていない。

 冒険者として依頼をこなすこともたまにあるが、生活資金の殆どはクルリが頼りだ。

 クルリはクルリで俺をあまり外には出したくないようにも思える。


「俺は魔王を倒した後も好きなことが出来て、賢者として慕われてる奏の方が凄いと思うよ。」


 奏も明と同様、賢者として人々に慕われている。

 そのギャルのような見た目と賢者としての実績とその性格のギャップがウケているらしい。

 

 魔王を討伐した仲間はこの二人だけじゃない。

 他にもいるが、俺が一人で魔王を倒せるようになってから、そいつらとは疎遠な関係になっている。

 時々会うこともあるが、俺とは違ってみんな楽しく暮らしている様だ。


「だが、トレーニングも今日で最後かもしれない。」


「え? 最後ってどういう……。」


「修にぃ、早くして。」


「ごめんごめん。引っ越すから、また決まったら……。」


 反射的にいつものように、連絡すると言おうとした所でふと我に返った。

 待てよ。

 連絡してしまったら、魔王が出た時に俺はかつての仲間達に何だかんだ言われて魔王討伐に乗り出してしまうかもしれない。

 実際、今までそういう経験はしてきた。

 ここは心を鬼にして突き放すのも大事だ。

 俺はもう勇者なんて辞める。

 だから、もう仲間なんていらない。


 決心が鈍る要因は排除しておいた方が良い。

 それに、仲間なら俺の気持ちも分かってくれると思う。


「俺はもう勇者なんて辞めるから、じゃあ、元気でな。奏!」


 俺は藤沢と共に魔法陣が描かれた巻物の上に乗った。

 この巻物はワープの巻物と呼ばれ、その名の通り、巻物の上に乗ったものをワープさせることが出来る優れた効果を持つ巻物だ。

 一度きりだし、費用がかなり高いというか、こいつのせいで俺は質素な生活を余儀なくされているが、買わない手はない。

 この巻物が無いせいで、引っ越しが出来ず、家を壊して高い金額を請求された時は泣いた。

 その反面、この巻物があれば、最悪家を壊しても逃げることが出来る。

 実際、弁償から逃れるために使ったこともある。

 勇者なのに借金を抱えているのは全て魔王のせいだ。

 俺は悪くない。

 ワープの巻物は、俺にとって生活を切り詰めてでも欲しい必須アイテムだ。


「あ、明がトイレにいるから治してやってくれ!」


「勇者を辞めるって……どういう事!? 連絡くれるんだよね!? ちょっと、待って!!」


 初めて奏がどもらずに話してくれたという感動もつかの間、俺はクルリと共に巻物の上に乗る。

 無重力下に身を放り出されたような感覚に初めは慣れなかったが、今では楽しむ余裕すらある。

 行き先は指定することも出来るが、俺はしない。

 なぜなら、移動先がランダムな方が面白いからだ。

 魔王討伐の旅で世界を巡った俺に行ったことが無い場所などほとんど無いし、ランダムにどこかに飛ばされるのは刺激になって楽しい。

 引っ越しは、借金と魔王に追われる俺の唯一の楽しみと言っても過言ではない。

 ここまでご覧いただきまして、ありがとうございます。

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