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第一話 もう勇者なんて辞めてやる!!

 初連載です。

 気に入っていただければ幸いです。

 

 魔族と人間が対立する世界で、俺、柊修平は魔王を討伐するべく世界中を旅して回った冒険者だった。

 長きに渡る冒険の末、俺は旅の途中で出会った仲間達と共に遂に魔王を倒し、勇者として崇められた。

 これで世界が平和になる。と思ったが、それは全ての始まりに過ぎなかった。


「第百十七代魔王ウロボロス様が勇者如きに遅れを取るとはーーーー!! ウギャーーーー!!!」


「勝手に人の家に入ったら不法侵入という犯罪に当たると知らないのか、この野郎!!!」


 行き場のない苛立ちを新たにやってくる魔王に押し付ける日々。

 魔王を倒しても新たな魔族が魔王を名乗り、執拗に俺を狙って、今では俺の家に乗り込んでくる様になっていた。

 初めて魔王を討伐すると旅に出た時、俺は魔王を討伐するべく、魔王を倒す手段を求めて世界中を冒険していたが、こうして攻めて来られると、討伐した魔王の気持ちも多少はわかってくる。

 魔王も俺のように攻めてくる冒険者達に困っていたに違いない。

 魔王城に仕掛けられていた堅牢なバリアとか、面倒くさい謎解きの仕掛けとかはこういった面倒くさい奴らが攻め込んでくるのを防ぐためだと思う。

 

 人間にも王はいるが、魔族からすれば人間の王よりもまずは勇者となっているそうだ。

 いずれにせよ、俺の人生を懸けた壮大な魔王討伐の旅は、既に人生のほんの一ページとなっていた。

 

「修にぃ、終わった?」


「ああ。」


「飯。」


「おけ。」


 勇者が新たな魔王を討伐したというのに、妹のクルリはいつもどおり顔すら出さずに玄関越しに俺を呼んでいる。

 そんなクルリは妹というよりも義妹に近い。

 クルリとは、俺が魔王討伐の旅に出る前、冒険者として日銭を稼ぐのがやっとだった時に出会った。

 初めはほかっておこうと思ったが、一度餌を与えてしまったのがきっかけに、俺は飼わなければという使命感をクルリに抱いてしまった。

 ちなみに、尻尾がくるりと丸い印象だったから、クルリと名付けた。

 そしたら、どうも魔族だったみたいで成長するに連れて人間に近づき、今では猫耳と尻尾が生えていて爪が長い所を除けば、ほとんど人間だ。

 言葉も話せるようになり、俺を修にぃと兄のように慕ってくれている。

 クルリは、エメラルドグリーンの大きな瞳に整った鼻立ちをしていて、顔がとても小さい。

 金糸のように綺麗な髪は窓の光を吸収するように、輝いている。

 幼児体型ではあるものの、胸が大きく、お尻も小さく、モデルのようなスタイルを持っている。

 可愛らしいクルリだが、吊り上がった眉と垂れた冷ややかな目付きに喋るときに覗かせる八重歯が生意気な印象を与える。

 実際ちょっと生意気だ。 


「相変わらず、クルリの作る飯は美味いな。」


「馬鹿舌の修にぃなら、何でも美味しく感じるよ。」


 ほら、この通り。

 憎まれ口を叩くけど、それもクルリの愛嬌だ。

 俺が馬鹿舌なのは真実だから否定は出来ない。

 

「愛するお兄ちゃんが魔王を倒した後なんだぞ。もう少し労って欲しい所だ。」


「何回言えば気が済むの、それ? キモいんだけど。」


 クルリが、料理を口に運びながら毒舌を吐く。

 多分反抗期だ。

 俺はクルリを育てた親だが、親として振る舞ったら、気に入らないのか、引っ掻いたり噛んでくるから妹の様に慕ったが、最近では妹として扱うのもクルリとしては良くないらしい。

 実際、見た目的にも娘というよりも、妹だ。

 ただ、育てれば育てるほど反抗的になり、魔王を討伐した前でも後でもその態度は変わらない。


「魔王を倒すなんてお兄ちゃんすごーーい!! とか言ってくれても良いんだぞ。」


「キモッッ!! 折角の料理が不味くなるんだけど。」


 ま、実際はこんなもんだ。

 クルリは猫としての特徴が残っていて、尻尾に機嫌が出る。

 嬉しい時は尻尾を軽快に振るが、不快に思ったり悲しい時は尻尾が垂れ下がる。

 今はもちろん、後者だ。


 勇者と呼ばれる俺も、家では妹に尻を敷かれる大した事のない存在だ。

 世界の救世主とか、伝説の再来、なんてちやほやされていた頃が懐かしい。

 ただ、急にちやほやされても、俺が調子に乗らなかったのはクルリのおかげだ。

 俺が勇者として調子に乗っていた時も、引っ掻いたり噛んだり、蹴り飛ばしてキモいと言ってくれた。

 その時は嫌な気持ちにこそなったが、今ではありがたく思っている。

 だが、未だに終わらない反抗期を迎える妹の成長が心配だ。


「じゃ、いつも通りやっとくから。」


「いつもごめんな。」


「ん。」


 クルリが尻尾をクルンと巻き上げて、引っ越しの準備を進めてくれる。

 魔王を倒してしまった俺は、また魔王が攻めて来ないように引っ越さないといけない。

 引っ越しをせずそのまま滞在したら、次々と押し寄せる魔王との戦いに周囲に住む人々が恐れてしまうし、家も壊れてしまう。

 初めは俺がいるから人間は一生安泰だと王城に住まわせてもらっていたが、魔王が攻め込んでくる度に民が不安に思うということで、俺は王城からの引っ越しを余儀なくされた。

 はじめは王城近くだったのが、次第に離れていき、今では王城からだいぶ離れた場所にある田舎町のアパートを転々としている。


 魔王討伐の報酬は一生を遊んでも暮らしていけるぐらいの報酬だったが、それは何代目かの魔王に燃やされた。

 ちょうど俺が魔王城みたいな建物を作ろうと考え始めた時だ。

 王にその代金を補填してもらうよう頼んだが、現実はそんなに甘くない。

 俺とその仲間に払った報酬で国庫のほとんどが尽きてしまったそうだ。

 だから俺は魔王が来る度に引っ越しを余儀なくされる不自由な生活を送っている。


 魔王を討伐した後に想い描いていた憧れの勇者生活は、現実の前ではただの夢になる。

 

「魔王に脅かされることが無い静かな暮らしがしたい……。」


「勇者の台詞がそれ? 仕方ないよ、修にぃは腐った勇者なんだから。」


「そこは……腐ってもって言うところだろ……。」


 俺が出来損ないの勇者みたいじゃないか。

 まぁ、魔族の反抗を許している時点で俺は勇者とは程遠いのかもしれない。

 だが、そんな生活とは離れるために、俺は一つ決意している事がある!

 

「クルリよ、聞いてくれ。」


 淡々と引っ越しの準備をしながら、クルリが片手間で俺を見てくる。

 興味が絶対に無いと確信を持って言えるが、関係ない。

 俺は既に決めた。


「俺は、もう勇者なんて辞めてやる!!」


 思えば、勇者と呼ばれる様になってから、俺の人生は狂い出した。

 そもそも、俺は勇者になりたいと思って勇者になったわけじゃない。

 みんなが勝手に勇者と呼んだだけだ。

 だから俺は勇者なんて辞めて静かに暮らす。


「第百十八代魔王ガルボス様が……。」


「勝手に人の家に上がり込んでくるな!! 一日に二度も言わせたのはお前が初めてだ、クソ魔王!!!」


 いかん! 魔王を一撃で倒してしまった……。

 クルリが呆れた目で見てくる。

 だが、俺はもう勇者なんて辞めるんだ!!

 俺の決意をため息で一蹴して、クルリはせっせと引っ越しの支度をしている。

ここまでご覧いただきまして、ありがとうございます。

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