EPISODE2 イツキ
シュウ先生の訃報を聞いたとき、悲しみと驚きとイツキへの畏怖を感じていた。
「お前の雷迅で先生が死んだ」
その事実をイツキにぶつけてみてもイツキは真顔でこう答える。
「この世界は実力社会だからな」
イツキの考えはマジックサンクチュアリの統治権を得る為には最強の魔法使いでなくてはならなく弱い魔法使いは例え先生であっても、いらない。そんな考えの持ち主だと先生が死んでから数週間でカミヤは知る。人を殺害しても、その理由から動じることはなかった。しかし彼はこの学校で孤立してしまう。
最強でなければならない、それはある意味正しいことなのかもしれない。マジックサンクチュアリでキングの称号を得るためにはどのビレッジの魔法使いよりも強くなければならない。
しかしカミヤにとって入学から今まで慕ってきたシュウ先生の死は、彼の今後の性格に大きく影響を及ぼすものとなってしまう。
学校が休みの日の前日、カミヤはイツキに決闘を申し出た。
先生への敵を取らなければならないという復讐に燃える心を誰も止めることはできない。
イツキは決闘の申し出に快諾した。
この里の掟として決闘は禁じられておらず、学生の場合はどちらかが降参した場合闘いを終了しなくてはならないというものはあるのだが───
再起不能にしてやる……
カミヤは、イツキと闘う。
決闘前日の夜、カミヤは家で今まで覚えた魔法を復習していた。
雷光───フラッシュの光りで目をくらませる魔法。
雷衝───最も基本的な雷攻撃魔法、威力は低いものの低い魔力で連発が可能
防雷───体全体を雷の特殊な力で攻撃魔法を防ぐことが出来る、あの日シュウ先生が使っていた魔法。
そして
雷迅───掌に念じるだけで強力かつ高速な雷撃を放つことができる攻撃魔法。
これらの魔法を用いて闘うことにし、全ての詠唱を完璧に覚え、雷迅を試しに何度も撃ち込み、イツキへ勝負を挑む。
不安な要素は、イツキの雷迅だった。
あのシュウ先生の最高の防壁を打ち破り命まで落とす威力のあった雷撃。
カミヤは前日から身震いしていた。
雷迅の練習に疲れたのか、眠りにつくことはできた。
決闘当日───
カミヤとイツキは里の決闘エリアに対峙していた。
再起不能にしてやる。
復讐の業火が燃えたぎる心を抑えきれず
カミヤから始動した。
雷衝を放ちイツキの様子を伺う。
ひらりと交わされ、衝撃派はイツキの後方へ消える。
また、雷衝、雷衝、雷衝───
カミヤは魔力を温存するため低い魔力で連発可能な雷衝を放ち続け、イツキの体力を消耗させる作戦に出た。
「そろそろいいか?」
雷衝を交わしながらイツキはカミヤに告げる。
何が来るのかはわかっている、先生の命を断った魔法、あの雷迅だろう。
あの雷迅は5秒近く念じる時間があったことをカミヤは覚えていた。
しかし次の瞬間、カミヤの体に異変が生じた。
「雷痺だ……」
体が動かない、この魔法は12期生で覚える魔法だぞ……
「終わりだ、カミヤ」
腰を屈めて5秒間
「業・雷迅!!」
カミヤは麻痺した体を動かすこともできず、その雷撃の激痛を受け入れ悶絶することしか出来なかった。
「降参ってことにしてやる」
うつ伏せに倒れたカミヤにイツキはそう告げて決闘エリアから立ち去ろうとした。
「……って……手加減……したってのか?」
苦悶に耐えながらカミヤはイツキへ尋ねる。
「俺は弱い魔法使いは殺さない」
手加減されていたのだ。
かくして彼の最強を目指す魔法使いの人生は18歳になるまで自堕落な人間へと落としてしまう。
卒業する事はできるが、イツキのことが忘れられない。
イツキはこの決闘の後、他のビレッジへ消えてしまったのだ。
EPISODE イツキ完