EPISODE1 雷迅
EPISODE1【雷迅】
カミヤが13歳の9期生になった頃、転校生がカミヤのボルト組(この学校では一番優秀なクラス)にやってきた。名はイツキ。第一印象はクールでいけ好かない奴という印象。
カミヤは席が隣になり授業の10分の休み時間に話しかけた。
「カミヤです、宜しく」
普通の挨拶に対しイツキは少しの沈黙のあとに足元から顔まで視線をカミヤに向けてから
「宜しく」
と素っ気なく返した。
午後には魔法使いとして雷属性の魔法の実践授業がある。
9期生は「雷迅」という戦闘において使えなくてはならない基本的且つ強い魔法の実践の授業だった。
この魔法の習得が単位であり、生徒たちはこの授業に集中している。
雷迅という魔法は詠唱時間も無い為に先制パンチとして有用である。掌を敵に向けて「ライト雷迅」と念じるだけで強力な雷撃を放出できる。
授業が始まり、一人目の生徒が先生であるシュウに向けて雷迅を放つ───
が掌から雷撃はシュウ先生に向けては放出されず自らの掌の周囲で暴発した。
「うわあああああああ!!」
生徒は苦痛に顔を歪めて悲鳴を上げる。その他大勢の生徒たちはそれを見て慄いた。シュウ先生はその様子を見て
「雷迅は強力な魔法だが、邪念である例えば単位取得のためになどという考えがある場合この様に失敗する。もし自信がないのなら今日は教室で自習の時間を設けるが?」
黒髪の長髪、長身でがっしりとした体躯で壮年ながら老けたシワ一つない顔をしたシュウの一言で生徒達はしばらく考えた後、一人が教室へ帰っていく、それを見た者たちは触発され教室へ戻っていく。一人、また一人と消えていく。
そして残ったのはカミヤとイツキの二人だけだった。
シュウ先生は28人ほどいたはずの生徒が2人しか残らなかったことに驚くこともなかった
「お前は残るんだな、カミヤ」
「実技だからな」
「じゃあ、いつでもこい」
カミヤはスゥッと呼吸をし、掌をシュウ先生に向けて念じ、雷迅を放つ。
「(ライト雷迅───)……ハァっ!!」
右手の掌から雷撃がまっすぐシュウ目掛けて放たれる、先生に直撃する刹那……
「防雷!」
シュウ先生のガード魔法にて防がれた。
カミヤはハァハァと掌を右手首を左手で掴み疲労に耐えていた。
(これでどうだ?)
そう思った次の瞬間、
「合格だ、9期生から10期生の進学が確定したぞ。威力はかんたんに防がれるが、発動に問題はなかった」
安堵感に包まれた。教室からはカミヤの魔法を見学していた他期生の生徒たちから驚嘆と歓声が聞こえ、達成感から疲れが飛んでいった。
「次はイツキだ、編入生だが、雷迅の発動はできるのか?」
イツキは先程雷迅の発動に成功したカミヤに一瞥もくれずに
「構わないが、質問がある」
シュウは訝しげな顔をする。
「なんだ?」
「先生の防雷、あれが限界なのか?」
先生は素っ頓狂な質問をされたような気がしたのか、驚いた顔をした、がすぐに真剣な顔に戻る。
「面白い、自信があるようだな、限界の魔力の防雷でお前の雷迅を防いでやる」
イツキは一瞬だけ不敵な笑みを浮かべた後、腰を少し沈ませ、目を閉じて5秒ほど念じた。
(雷迅にそんな念じる時間は必要ないぞ?)
カミヤがそう疑問に思った刹那───
「轟・雷迅!!」
イツキの左手の掌から放たれた雷撃は一瞬辺りが衝撃で光った。その光はイツキの掌から周圧された者と知ったのはシュウだけだった。
轟音とともに雷撃がシュウを襲う。カミヤとは比較にならないほどの電撃だった。
「剛・防雷!」
「遅い!」
イツキの雷迅はシュウが防雷を発動する直前にシュウに直撃した。
「う、ウォおお……!!」
壁にシュウの体が吹き飛ばされ衝突する。先生が着用するマントは焼け焦げてしまっていた。
授業を終わらせるチャイムが鳴り響いた。
後日、シュウ先生の訃報も知らされたのだった。
カミヤの慕っていた、シュウ先生が……
EPISODE1 雷迅