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ある侯爵夫人の記録 4

フローラとエバンズ侯爵は契約結婚。契約期間は20年。

アントニオが成人した年の両親と姉の命日が契約の終わる日。

シルビー伯爵家は守られ、エバンズ侯爵家は優秀な後継が引き継ぐ日。


私的にはエバンズ侯爵は恋人のアンリと過ごせ伯父夫婦はブライトとエバンズ侯爵により不正が暴かれ断罪されたのでフローラにとっては良い取引だったとフローラはエバンズ侯爵との最期の日を思い出した。


「フロー、ありがとう。約束の日になったら自分のために生きなさい。君のおかげで幸せだったよ」


「旦那様、お礼を言うのは私のほうです。アントニオは私が立派に育ててみせます。どうか私の友人に会ったらよろしくお伝えください」


フローラが最期にエバンズ侯爵と交わした会話だった。

突然倒れ、医師に診察されもう長くないと宣告された。

呆然としながら手を握ってフローラは傍にいた。エバンズ侯爵はそのまま眠るように息を引き取った。フローラはエバンズ侯爵の冷たくなった手を握って泣き崩れた。いつも優しい瞳を向け頭を撫でてくれる父の様な人。


「フローラ?」


フローラは涙を拭いて近づいてきたアントニオを抱きしめる。


「お母様が立派な侯爵に育てるから安心して。お父様の分まで頑張るから」

「僕が父上の分まで守るよ」

「頼もしいですわ。侯爵を目指すには心構えは大事ですよ。お父様にお別れなさい」

「父上、フローラは僕が守るよ」


フローラは成長した息子に笑った。優しいいアンリと優秀なエバンズ侯爵の息子は将来有望である。

懐かしい邂逅が終わったので、息子の欠点からは全力で目を背けフローラは茶色に染めた髪も元の赤毛に戻しフローリアの姿に戻った。

弟のおかげでシルビー伯爵家は安泰。アントニオも立派に育ち侯爵への恩も返せた。

ようやく自由になったフローリアの新たな人生の始まりの場所はここを選びたかった。


フローリアは2年前の誕生日にブライトからリアという平民の戸籍を贈られた。

フローラになってからはケインの話は全く聞かず、会うこともなかった。

2年前からケインの育てた薔薇が届かなくなり、すでに新しい家族がいるかもしれない。美しい手の持ち主に魅了されるのは―。

それでも贈られた鍵を手放すことはできず、ケインの枯れない贈り物の中で暮らそうと思っていた。

家にはケインの姿はない。それでもフローリアの持つ鍵で閉まっていた扉の鍵が開いた。ケインがフローリアを想って用意してくれた時間が一瞬でもあるなら愛しい。一生待ち続け、もしも自分を思い出して会いにきてくれる瞬間を思い描くだけでもフローリアは幸せだった。


家の掃除を終え、フローリアがぼんやりとしていると扉が開く音に立ち上がる。


「もう終わった?」


フローリアはずっと聞きたかった声の主の腕の中に飛び込んだ。20年経っても自分を見つけて飛び込むフローリアを優しくケインは受け止めた。


「ケイン?」

「バカだな。ちゃんと人の話は最後まで聞いてよ」


最後の逢瀬のことを話題にされて、フローリアはごまかすように笑った。強引に口づけたのは後悔はなくても悪いとは思っていた。


「ケインはお姉様が好きだったもの」

「ありえないよ。ずっとリアだけだったよ。フローラに花を贈ったことないし。いつもリアにだけ渡してたよ」

「私の機嫌を取るためでしょ?私、頑張ったの」

「本当に俺のお嫁さんになりたいの?」

「はい。平民のリアはケインさえいればいいです。あとはいりません。このまま死んでも後悔はありません」

「侯爵にべた惚れだったのに?」

「アンリ様と侯爵の様子を真似しましたわ。恩人で尊敬はしてます。私はケイン以外に心を許したことはありません。息子は可愛いですけど」

「大人になって俺を見て幻滅するかもよ?」

「ありえない。でも愛人は嫌」

「リアがいいなら俺がもらうよ。苦労させないように努力する」


ケインがポケットから指輪を出してフローリアの指に嵌めるとフローリアは満面の笑みを浮かべ、ケインを見つめてゆっくりと目を閉じた。ケインは照れたように頬を掻き目を開けないフローリアに優しく口づけを落とした。

二人が微笑み合っていると乱暴に扉が開いた。


「フローラ!!」


フローリアは飛び込んできたアントニオにため息を溢した。せっかくの良い雰囲気が台無しだった。離れたくないのでケインの手を繋ぎ、ようやく繋げた手に顔が緩むのを我慢して、淑やかな顔を作った。


「人の家に勝手に入ってはいけません。どうしました?」

「こんなの認めない!!」


アントニオは眉間に皺を作りケインに指を突きつけた。

フローリアはケインへの言葉に怒ろうとしたが、肩を叩かれケインに見つめられ怒りを抑えた。


「私は第二の人生に生きますわ。アントニオも第二の人生が欲しければ後継を育てて引き継いでください。いい加減に親離れしてください」

「僕はフローラがいい!!」

「マザコンもいい加減にしてください。どの御子息もここまでべったりではありませんよ。忘れろとは言いませんが、そろそろお父様が亡くなった寂しさから抜け出してください。いつまでも母の抱きしめてくれる腕があるとは限りませんのよ」

「僕はマザコンじゃない」

「マザコンですわよ。いい加減に一人で寝られるようになってください。駄目ならお嫁さんを。お嫁さんが相手なら私もなにも言いませんわ」

「お嫁さんはフローラがいいって昔からずっと言ってたよ!!」


真っ赤になって怒鳴るアントニオにフローリアは頬に手を当てて呆れた声を出した。


「私の育て方がいけなかったのかな・・・。お母様はもうすでに次の旦那様を決めてます。成人して親と結婚したいって・・・。医師には頭は問題ないって言われましたし・・。家に帰ってゆっくり休みなさい」

「フローラも一緒に。いくらでも戸籍は僕が用意するし、新しい戸籍なら結婚できるし」

「息子に言いたくないけど気持ち悪いわ。私は子供に手を出す趣味はない」

「リア、俺外そうか?」

「ううん。追い出すからここにいて。ケインが行くなら私も行く」


フローリアとアントニオの攻防戦は続き、ケインは自分の手を強く握って放さないフローリアに苦笑しながら、年をとっても変わらない我儘なお嬢様に育てられたアントニオはそっくりだとしみじみと眺めていた。

二人の口論は終わりを見せずに先に諦めたフローリアはケインの腕を掴んで飛び出した。



「もう逃げるしかない。あの子のマザコンは私がいる限り治らないわ。私もあの子の年には自立してたもの。親なんていなくても生きられるのよ」

「フローラ、僕は認めない」

「貴方のお母様は死にました。そしてケインはあなたのお父様ではないので認められなくていいのです。母は貴方がお嫁さんもらって、子供を作るまで会う気はありません。もしお母様を想う心があるならどうか母を忘れてください」

「フローラは僕が幸せにしてあげるよ。毎日薔薇も贈るから帰ろうよ」

「いつも言ったでしょう?新しいお嫁さんを迎えてくれればお母様は幸せですって。母の言葉をいい加減聞いてください。貴方のお誕生日にお花を贈ってあげます。もういいですか?」

「フローラは僕を捨てるの?」

「はい。捨てますわ。時には突き放すのも愛情です。私の遺書を無視した子なんて知りません」

「フローラ」

「ケイン、どうすればいい?私はケインのお嫁さんになるという幸せに浸りたいんだけどもういいかな?」


フローリアは泣きそうなアントニオの顔が演技だと気づいていた。


「僕はフローラ以外のお嫁さんは迎えない」

「法律のお勉強したでしょ?親子は結婚できないのよ。バカは言わずに帰りなさい。お母様は」


終わらない攻防戦と鬼ごっこにケインは苦笑してフローリアを見つめた。


「リア、帰るしかなさそうだよ」

「嫌よ。私はケインのお嫁さんになるのよ」

「俺は無期限の休みをもらってるけどいつでも復帰できるんだ。家を買うからそこで一緒に暮らそうか。そこから職場に通うよ」

「私はケインの妻で弟子としてずっと一緒に」

「仕方がないからうちで雇ってやるよ」

「嫌よ。ケインはシルビー伯爵家の庭師よ。いい加減にお母様を解放しなさい」

「フローラを親なんて思ったことない」


アントニオの一言にフローリアの目が冷たくなった。


「なら縁もここまでですね。さようなら。エバンズ侯爵閣下。私はシルビー伯爵領民ですので貴方の命令には従いません。お帰り下さい」


フローリアは礼をしてケインの手を引いて家に入り鍵を閉めた。冷たい視線を向けられ固まっているわからずやの息子は放置を選んだ。


「アレは気にしないで。ケイン、髪を切って。短くしたいの。この村人は髪が短いのよ」

「もったいない。綺麗なのに」

「切ったらまた伸ばすわ。今度は貴方のためだけに。自由に生きるんだもの。やりたいことがたくさんあるの。あの子はいずれ誰かが回収しに来るから平気よ」


扉を叩く音の方に視線を向けたケインの頬に手を置き、フローリアは自分に顔を向けさせた。

ケインは言い出したら聞かないフリーリアに苦笑した。


「早く寝るならな」

「その誘いは静かになってからがいい」

「そういう意味じゃ」


赤面するケインにフローリアは笑いながら鋏を渡す。

ケインは頬を掻きながら昔から言い出したら聞かないフローリアの長い髪に鋏を入れる。

昔からケインはフローリアの笑顔に弱く、つい甘やかしてなんでもしてあげたくなってしまっていた。

あの時、くちづけられ我に返って追いかけた時に夜空に向かって呟いたフローリアの言葉を聞いた。必死で前を向こうとしている好きな子の邪魔はできなかった。

仲睦まじいエバンズ侯爵夫妻の話を聞くとフローリアが自分を選んでくれるのかわからなかった。未練がましく花を贈った。もし自分を彼女が望むならと部屋の鍵を渡した。

ケインは髪を切り終えると抱きつくフローリアを受け止める。


「私はもうお嫁さんですか?」

「まだ婚姻の手続きしてないよ。ブライトに頼まないとな」

「お手紙を出すわ。本当はすぐにでも進めにいきたいけど今は二人っきりでいたいもの。外の雑音はうるさいわね。髪も切ったし、もうわからないでしょう。書類上ではフローラ・エバンズは死亡。ブライトにはもう家族がいるから一人ぼっちじゃないもの。20年頑張った甲斐があったわ。まさか夢が叶うなんて」


ケインはうっとり笑いながらこれからのことを口にするフローリアの話に耳を傾ける。

フローリアが望むのは他愛もないことばかり。手を繋いで出かけたい、一緒に花を育てたい、誕生日には花を欲しい、最後にはケインと共にいられればそれだけで十分と笑う顔が可愛くて抱き寄せると赤面した顔にケインは笑う。

フローリアの第二の幸せの人生の始まりだった。



アントニオは本気でフローリアに惚れていた。エバンズ侯爵が亡くなって離れなかったのはフローリアの再婚を邪魔するため。エバンズ侯爵が亡くなり傷心のフローラに付け込もうとする男をアントニオは排除していた。

アントニオは病床の父が愛を囁いた違う女の名前を聞きフローラは自分の母親でないと気づいていた。口に出せば起こることがわかっていたので誰にも話していない。

フローラがブライトの贈る花だけは幸せそうな顔で眺めていた。その顔が向けられるのはブライトからの花だけでアントニオが同じ花を贈ってもだめだった。

花を育てる幼馴染の男のことを知ってからはアントニオはブライトからの花を預かれば捨てた。その事実を知ったフローリアに今までにないほど怒られ途方にくれるのは未来の話。

エバンズ侯爵家の使用人達はフローラが邸を去っても慌てず、若くして夫を亡くし、献身的に家を支えたフローラ・エバンズの幸せを願っていた。

ただアントニオが平民の人妻をフローラと呼び求婚する姿に頭を抱えていた。前侯爵も妻を迎えるのは遅かったので、早めに現実に気付くのを祈ることにした。年下でもいいので由緒正しい家から令嬢を迎えてくれますようにと。

アントニオは毎年誕生日に匿名で花束を贈られ、握り潰す。

フローラが自分よりも平凡な男を選んだことに納得いかなかった。アントニオがどんなにフローラに愛を囁いても相手にされない。

シルビー伯爵邸ではエバンズ侯爵が赤毛の庭師を訪ね、令嬢がうっとりする顔で求婚するのはいつものこと。

フローリアは娘と姪にバカな男に引っかかってはいけませんとしっかり教えた。シルビー伯爵家の庭師夫婦は前エバンズ侯爵とアンリの眠る墓に月命日に祈りに行く。子育ての失敗を謝り、お詫びに夫婦で育てた花を贈るので前エバンズ侯爵とアンリの墓はいつも花に囲まれていた。長々と懺悔する妻に夫が一輪の花を渡すのが帰る合図。妻はその花を見て満面の笑みを浮かべ立ち上がる。

正規の形では結ばれることができなかった二組の恋人同士は幸せだった。

不幸な事件から始まった新たな人生。元エバンズ侯爵夫人が幸せだったと知るのはごく少数の人間だけである。社交界から突然姿を消し、いつの間にか悪女から悲劇の夫人に名を代えたフローラ・エバンズ。彼女が姿を消したのがマザコンの息子の親離れのためと知るのは一部の者だけである。建前ではなく真実の消えた本当の理由を知るのは実弟だけである。


読んでいただきありがとうございます。

ブックマークや評価も嬉しいです!!

次の話は母親に惚れこむアントニオの話を綴っていますが、人によっては、気持ち悪いかもしれませんので、広い心でお付き合いいただける方のみお願いします。


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