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陛下、心の声がだだ漏れです!  作者: シロヒ
番外編

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72/81

コミックス1巻発売お礼SS:もしも、ガイゼルが心の声を隠せなくなったら



 ツィツィーは手にしていた本を、思わず取り落としそうになってしまった。


「ああ、今日も美しいなツィツィー。どうしてそんなに可愛らしいんだ?」

「……へ、へい、か……?」

「言葉ひとつひとつが宝石のようだ。ずっと俺の耳元で囁いてもらいたい」

「……っ!」


 ツィツィーにとっては聞き慣れた、陛下のあまりある賛辞――なのだが、どうしたことか今日に限って心の声ではなかった。それを証明するかのように、ガイゼルの顔はいつも以上に不機嫌を露わにしており、加えて顔が真っ赤になっている。

 一体何が……と現状をまったく理解出来ていないツィツィーに、ガイゼルの背後から現れたヴァンが申し訳なさそうに頭を下げた。


「すみません、その……今日視察に行った先で、妙な術を使う刺客に襲われてしまいまして……」

「し、刺客ですか? へ、陛下は大丈夫なのですか?」

「見ての通り、お体には傷一つありません。侍医にも見せましたが、健康すぎるくらいだそうで……ただ、その」

「その?」

「陛下自ら刺客を捕らえ、我々の方で話を聞いたのですが……どうやら、陛下にかけられた術というのが『心の声をすべてしゃべってしまう』というものらしく……」

「そ、そんなものがあるのですか⁉」

「我々も驚いています。もちろん既に解呪の措置は行っているのですが、どうも時間がかかるらしく――あと六時間程度はこのままの状態だそうです」


 ツィツィーが不安そうにガイゼルに視線を向けると、彼は眉間に深い縦皺を寄せたまま、むっつりと口を閉ざして頷いた。どうやら本当のことらしい。


「このままでは仕事にならないと、今日の執務はすべて明日に回されることになりました。なので、あとは皇妃殿下とゆっくりお過ごしいただければと」

「お、お過ごしって、へ、陛下とですか⁉」


 ツィツィーはおそるおそる、再びガイゼルの方を見る。するとなんとも言い難い渋面のまま、ガイゼルが口を開いた。


「――久しぶりに一緒の時間を過ごせるな。嬉しいぞ」

(む、無理……!)





 本当に申し訳ございません、と何度も謝罪したヴァンもいなくなり、主寝室にはツィツィーとガイゼルの二人だけが残された。向かい合う形でソファに座っていたが、ツィツィーは恥ずかしさのあまり、顔を上げることすら出来ない。


(ど、どうしましょう……まさか心の声を、本当に陛下の口から聞くことになるなんて……!)


 普段は直接言われているわけではないから、かろうじて我慢が出来た。だがいよいよガイゼルと面と向かってとなると、正直耐えられる自信がない。


(六時間……こうなれば、さっさと眠ってしまう方が良い気がします……!)


 さすがに眠ってしまえば、ガイゼルも心の声をだだ漏れさせることはないだろう。名案を思い付いた、とツィツィーは笑顔でガイゼルに提案する。


「ガ、ガイゼル様、お疲れでしょうし、今日はもうお休みになりませんか?」

「ああ、そうだな。俺も早くツィツィーを抱きしめて眠りたい」

(ひえっ……!)


 あけすけな言葉に、ツィツィーは思わず頬を赤らめた。

 すると正面にいたガイゼルが「違うんだ」とばかりに必死に手と首を振っている。その顔は本気の羞恥を滲ませており、ツィツィーは慌てて心を落ち着ける。

 二人はかつてないほどのぎこちなさを抱えたまま、ようやくベッドへと向かった。だがガイゼルはさきほどの言葉とは裏腹に、ツィツィーに背を向けたまま、距離も大きく離れて横になっている。


「ガイゼル様、あの、そんなに端ですと、ベッドから落ちてしまうのでは……」

「いやいい。いつものような寝方をすれば、今すぐにでもお前を襲っ――」


 言葉の続きは、ガイゼル自身が口を押さえることで阻まれた。だが途中までしっかりと聞いてしまったツィツィーは、それ以上触れることも出来ず、こそこそと距離をとったままベッドにもぐりこむ。


「で、では、おやすみなさい」


 灯りを落とし暗くなった室内で、ツィツィーはそっと目を閉じた。早く、早く寝てしまおう。一晩経って起きた時には、きっといつもの陛下に戻っているはず――と祈るような気持ちで必死に眠気を呼び込もうとした。

 だが背中ごしに、ガイゼルの小さな呟きが聞こえてくる。


「……こんな不甲斐ないことになって、本当にすまない」

「ガイゼル様……?」

「お前を不安にさせるつもりはないのに、俺は、どうしてこんな……」


 初めて耳にするガイゼルの謝罪に、ツィツィーはゆっくりと上体を起こした。暗がりで良く見えないが、ガイゼルは相変わらず背中を向けたままだ。ツィツィーはしばし考えていたが、おずおずと口を開いた。


「ガイゼル様、私なら大丈夫です」

「……」

「ガイゼル様がいつも私を大切にしてくださっていること、よく存じていますから」


 もちろん、素直でない彼が言葉にして表すことはない。

 でもツィツィーだけが知っているガイゼルの本心に、いつだって救われている。


(今なら、私もお伝え出来るかもしれない……)


 彼の心の声をこっそりと聞きながら、いつも答えたいと胸に抱え続けていた言葉。ガイゼルが偽りなき本心を発している今であれば――それに応じても許されるかもしれない。


「ガイゼル様、あの、私……」

「ツィツィー?」

「あなたの、ことが――」







 ツィツィーははっと目を見開いた。

 そこは本邸にあるガイゼルの私室で、窓からは暖かい陽光が差し込んでいる。いつ夜が明けたのだろうと首を傾げていたツィツィーは、ようやく自身がソファに座っていることに気づいた。


(あれ……私、ベッドで寝ていたはずじゃ……)


 そこでようやく自身が、しっかりとした何かにもたれていることを察し、はてと顔を上げた。するとすぐ目の前にいつもと変わらぬ不愛想なガイゼルがおり、いぶかしむようにツィツィーを睨んでいる。


「ガ、ガイゼル様? あの、私いったい……」

「ようやく起きたか」


 どうやら穏やかな午後の陽気にあてられて、うとうとと眠ってしまったようだ。そこでようやく、先ほどまでのあれそれが鮮明な夢であったことを認識する。


(そ、そうですよね! そんな都合のいい話、ないですよね!)


 普通に考えればわかりそうなものだが、夢というのは不思議なもので、多少つじつまが合わないことでも、なんとなく納得させられてしまう。ツィツィーは余計なことを口走らなくてよかった、と心の底から安堵しつつ、ガイゼルに向けて尋ねた。


「すみません、支えてくださっていたんですね」

「偶然だ。俺がここで仕事をしていたら、お前が勝手に寄りかかってきただけだ」

「す、すみません……」


 まさか陛下を枕代わりにしてしまうなんて、とツィツィーは一人苦悶する。すると心なしか顔をそむけたガイゼルの胸中が、ぎこちなくツィツィーのもとに届いた。


(言えるはずがない……わざと距離を詰めて、ツィツィーが体を預けるのを待っていたなんて……)


 ツィツィーはきょとんと眼を瞬くと、ガイゼルの方を改めて見つめた。相変わらず我関せずといった風に書類に目を落としているが、心なしかその耳の端が赤くなっている。


(ガイゼル様……)


 胸の奥が暖かくなったツィツィーは、嬉しそうに微笑みながら「ありがとうございます」とだけ返した。

口にしてもしなくても、ガイゼルはきっと、とても優しい人だから。



(了)



コミックス1巻発売のお礼ssでした!

漫画を見てこちらに来られた方がおられましたら、ぜひ小説版も手に取っていただけたら嬉しいです!

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― 新着の感想 ―
[良い点] あっっっっっま!!!好き
[良い点] 読んでるこっちが恥ずかしくなるくらいだだ漏れ過ぎな陛下が可愛すぎて・・・心の中で言ってる事をそのまま言えばいいのに~っとやきもきしましたがこれ読んであかん、これはあかんとなぜか封印しちゃい…
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