表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
陛下、心の声がだだ漏れです!  作者: シロヒ
第二部

この作品ページにはなろうチアーズプログラム参加に伴う広告が設置されています。詳細はこちら

55/81

第二章 6


 弱々しくなるツィツィーの語尾を聞きながら、ガイゼルは長い足を組むと、はあとため息をついた。

 きっちりとした襟元に指を差し込むと、左右に揺らすように緩めていく。


 ツィツィーはその様子を少し離れたところから眺めていたが、しびれを切らしたガイゼルが自分の隣に来るよう、目線だけで指し示した。

 引け目もあり、断ることの出来ないツィツィーは反省する犬のような気持ちで、恐る恐るガイゼルの隣に座る。


「貸した上着は返ってこない」

「……はい」

「休みたいと言い捨てて、いつまでも戻って来ない」

「…………はい」


 淡々と紡がれるガイゼルの言葉。

 心の声も全く響いてこず、これは本気で怒っているとツィツィーは強く瞼を閉じ、叱責される覚悟を決めた。


 だがそれ以上ガイゼルの非難の雨は降らず、代わりにばさりと重量のある布がツィツィーの頭上に落ちてきた。

 急いで目を開けるが辺りは真っ暗。慌てて顔を上げると、隙間から笑いをこらえるガイゼルの姿が覗いている。


「え⁉ え⁉」


 頭に乗っているそれに手を伸ばす。馴染みのある質感はガイゼルの上着のようだ。どうやらソファに畳んでいたものをガイゼルが発見し、ツィツィーに被せたのだろう。

 ぶかぶかのジャケットに覆われたまま、きょとんとするツィツィーに、ガイゼルがようやく口角を上げた。


「サラに聞いた」

「え⁉」

「人を助けていたのだろう」


 どうやらすべて事情が伝わっているらしく、ツィツィーは小さく「すみません……」と首を垂れた。

 するとガイゼルは無言のまま目を細め、上着越しにツィツィーの頭を撫でる。


「挨拶なぞ気にするな。どうせただの世間話だ」

「で、ですが……」

「俺もお前を、余分に人に見せずに済んで良かった。あのまま連れ歩いていたら、俺の方が爆発していた」


 嘘か本気か分からないガイゼルの言葉に、ツィツィーはつい笑いを零してしまった。するとガイゼルは優しく目を眇めると、覗き込むように上体をかがめる。


「やっぱり――お前には大きいな、これは」


 そう呟くと、ジャケットの奥にいるツィツィーにそっと口づけた。

 外はまだ多くの招待客がパーティーを楽しんでおり、楽団の演奏や賑やかなしゃべり声があちこちを飛び交っている。

 だがその一瞬だけ、ツィツィーの周りは静寂に包まれた。


 ガイゼルが唇を離し、体を起こす。

 するとドレスに負けないほど真っ赤になったツィツィーが、照れている顔を隠したいのか、ジャケットの襟部分を手で交差するように手繰り寄せていた。

 一国の皇妃とは思えないシルエットにガイゼルがくく、と口元を押さえる。


 からかわれてる、とツィツィーは反論しそうになるが、ふと何かに気づくとそのままおずおずと上着を引き寄せた。

 その様子にガイゼルがうん? と怪訝そうな顔をする。


「いい加減に脱いだらどうだ?」

「か、顔を見られたく、ないですし……それに」

「それに?」

「……ガイゼル様の匂いがするから、もう少しだけ、いいかなって……」


 えへへ、と恥ずかしそうに笑うツィツィーを見るや否や、ガイゼルの顔つきは何故か『氷の皇帝』に逆戻りした。

 一瞬の変わり身にどうしたのだろうとツィツィーが驚いていると、突然ガイゼルからがしりと両肩を掴まれる。


『ようやく爆発を凌いだと思っていたのに……でも今のは全体的にこいつが悪いと思うぞ俺は』 

(へ、陛下⁉)


 どうやらガイゼルの良からぬスイッチを押してしまったらしい。

 先ほどのキスは加減していた、とばかりに下からすくい上げるように噛みつかれる。肩に置かれていた手は、ツィツィーが後ろに倒れるのに合わせて、腕と腰を撫でていった。


 やがてジャケットを背中に敷いた状態で、ツィツィーはガイゼルを見上げる形になってしまった。

 ソファの幅が無いためか、ガイゼルの足の片方は、はみ出したまま床に下ろされている。シャンデリアの逆光を黒髪で隠しながら、鉄紺色の目が眇められた。


「そんな上着より、本物の方がいいだろう」

「へ、陛下、……」

「ガイゼルだ」


 ツィツィーの頬にガイゼルの手が伸び、上体がぐっと迫ってくる。ツィツィーはたまらず目を閉じてそれを受け入れようとした――が、コンコンと三度目のノックが応接室に響き渡る。




「――やあ陛下、ここにおられましたか」


 挨拶を終えたらしいフォスター夫妻が、やれやれとばかりに戻って来た。

 ソファに並んで座るツィツィーたちを見つけると「おや?」と首を傾げている。


「どうかされましたかな?」

「い、いえ、何でもありません!」


 ぶんぶんと首を振るツィツィーの顔は赤く、髪もわずかに乱れていた。

 一方でガイゼルはシャツとジャケットをきっちりと着込んで、隣でしれっとした表情を浮かべている。一体どんな早業を使ったのかしら、とツィツィーは恨みがましく横目で見つめた。


「そういえば、お友達は大丈夫だったかしら」

「あ、はい! すみません、本当に色々とありがとうございました」

「いいのよ。また何かあったら言ってちょうだいね」


 ほのぼのと笑うサラに、ツィツィーは言葉にならないほどの感謝を覚えた。同時にエレナのことを思い出す。


(エレナ……大丈夫かしら……)


 令嬢たちからやっかみを受けていたことも心配だが、汚されたドレスに対しての反応も気にかかった。特に一度だけ聞こえた心の声。

 今度のドレスの打ち合わせの時に尋ねてみましょう、とツィツィーは一人静かに手のひらを握りしめた。



 


評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。

\小説1-4巻発売中です!/
9dep565ajtdda1ski3ws5myjl3q6_1897_9t_dw_11wy.jpg
だだ漏れ小説3
だだ漏れ小説2
だだ漏れ小説

\コミックス1-4巻発売中です!/
lpjo8tk3j224ai52jj2q64ae2jf0_6bt_9s_dw_1sdc.jpg
fro09hu8b7ge3xav6e6c8b54epbm_13o0_9s_dx_1nsf.jpg
9339fx5nepcckjbo1lg89cjc6wqq_88_9s_dx_1jtr.jpg
だだ漏れ小説
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ