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陛下、心の声がだだ漏れです!  作者: シロヒ
第二部

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第二章 4


 パーティーの夜は更けていき、盛り上がりも最高潮を迎えていた。

 来賓の数も増え続け、周りには有名な諸侯やその子弟の姿で溢れている。ガイゼルは一歩動くたびに声をかけられる有様で、ツィツィーもたびたび立ち止まった。


 ガイゼルへの挨拶ののち、ツィツィーを褒め称える男性陣というお決まりの流れが何度も続く。

 苛々としたガイゼルの憤怒が溜まっているのが分かり、ツィツィーは表向き愛想よく振舞いながらも、いつ噴火するだろうかと恐々としていた。


 そんな中、会場内で一際華やかな集団を発見した。

 どうやら皆若い令嬢らしく、黄色やピンク、水色といった眩しい色彩のドレスが花束のように集まっている。

 中心にいるのはさる公爵のご令嬢らしく、艶やかな黒髪に真っ赤なドレス――美人だが、意志の強そうな顔立ちだ。


(わあ……可愛いなあ)


 ツィツィーにも姉はいたが、お化粧やドレスを一緒に楽しんだ思い出はない。

 リジーはとてもよくしてくれるが、友達と呼んだら向こうが恐縮してしまうだろう。楽しそうにはしゃぐ女の子たちを見ながら、ツィツィーはいいなあと目を細める。


 だがどうも様子がおかしい。

 少し角度を変えると、彼女たちに取り囲まれるようにもう一人の令嬢が立っていた。その姿にツィツィーは目を見張る。


(エ、エレナ……⁉)


 友達なのだろうか、と少しだけ事態を見守る。集団はどんどん庭園の端の方に移動していき、やがて赤いドレスの公爵令嬢がエレナに話しかけた。


「またこんな格好で、恥ずかしくありませんの?」

「……」

「大体、貴方までここに来る必要ないでしょうに」

「あ、兄が……パートナーがいると……」


 小さく言い返したエレナを見て、公爵令嬢は不快そうに眉を吊り上げた。


「貴方が、ルカ様のパートナーですって?」


 周囲からくすくすとした笑いが零れる。こっそりと始終を眺めていたツィツィーも、さすがに異常だと察知した。

 やがて令嬢の一人が持っていたワイングラスをこれ見よがしに傾ける。

 するとぱしゃん、と弾けるような音の後、エレナの胸元に大きな赤黒いシミが出来ていた。


「あら、ごめんなさい~」

「まあ大変! そんな格好じゃ目立ってしまいますわね」

「早くおうちに戻られた方がいいのではないかしら?」


 次第に漏れる笑いが大きくなり、ドレスだけではなく、エレナ自身への誹謗が混じってくる。

 だが当のエレナは反論することもなく、どこか諦観した様子で汚れた衣装を見つめていた。


(た、大変! な、なな何とかしないと……!)


 ツィツィーは慌てて手持ちを探したが、今日に限ってコートもショールも持って来ていない。

 さすがにドレスを脱ぐわけにもいかず、ツィツィーは背に腹を変えられないとばかりに、ガイゼルの方を振り返った。

 丁度話を終えたばかりのガイゼルに向けて、お願いしますと懇願する。


「陛下、あの、さ、寒いので上着を貸していただけないでしょうか!」

「別に構わんが……」


 ガイゼルは少しきょとんとしていたが、着ていたジャケットを脱いでツィツィーに手渡した。

 ありがとうございます、と勢いよく告げた後、ツィツィーはさらにその場を離れる。


「すみません陛下、ちょっと休んできます!」

「ツ、ツィツィー?」


 言うが早いか、ガイゼルの返事を待たずに走り出す。




 どうやら飽きてしまったのか、ツィツィーがようやく騒動の現場に駆け付けた時には、令嬢たちはすでに違う場所に移動していた。

 庭の隅で体を隠すようにうつむいていたエレナを探し出し、ツィツィーはそっと肩に上着をかける。すると弾かれたようにエレナが振り返り、目を大きく見開いた。


「――ッ、皇妃、さま」

「ご、ごめんなさい! ……大丈夫ですか?」

 どうやら泣いてはいないらしく、ツィツィーは少しだけ安堵する。だがこのままでいても埒が明かない。

 きょろきょろと辺りを見回した先に、邸の主であるサラの姿を見つけ出したツィツィーは、エレナの手を引いたまま必死に願い出た。


「カリダ公爵夫人! 大変申し訳ないのですが、部屋をお貸しいただけないでしょうか」

「まあ、大変!」


 ツィツィーの鬼気迫る様子に驚いていたサラだったが、隣に立つエレナの惨状を見て、すぐに事情を察したようだった。

 傍にいた使用人に声をかけると、ツィツィーとエレナを邸の中に案内するよう伝える。


 ようやくたどり着いた応接室で、ツィツィーはほっと一息ついた。

 向かいのソファに座るエレナは、うつむいたまま何も喋ろうとはしない。


(どうしましょう……このままでは帰るにも帰れないわ……)


 王宮に連絡を取ってもらい、ツィツィーのドレスを持って来てもらうか。それよりはルカに事情を話して――と悩んでいる合間に、エレナは突然着ていたドレスを緩め始めた。慌てて止めるツィツィーをよそに、なかば乱暴に脱ごうとする。


「だ、だめです、せっかくのドレスがぐしゃぐしゃに……!」

「いいんです。わたしの服に価値なんてないんですから」

「そ、そんなことないです! 素敵なドレスですよ!」


 懸命に否定するツィツィーに対し、エレナは先ほどよりも沈痛な表情を浮かべていた。

 まるで、令嬢たちにつらく当たられたことよりも愁傷なようで、ツィツィーはいよいよ混乱する。


 すると奥の扉を叩く音がして、サラが姿を見せた。後ろには数人の女性の使用人を伴っており、彼女たちの手にはいくつものドレスが見える。


「待たせてしまってごめんなさいね。昔の服を引っ張り出してきたものだから」

「カリダ公爵夫人……」

「サラとお呼び下さいな、皇妃殿下」


 サイズが合うと良いのだけれどと前置きをし、サラは自分が若い頃に着ていたというドレスを貸してくれた。

 どれもすらりとしたデザインのものばかりで、エレナが着ても全く見劣りしなさそうだ。


 サラはエレナを前にしばらくうーんと悩んでいたが、やがて一着のドレスを選び出した。

 使用人たちに指示すると、そのままエレナを別室へと連れて行く。


 着替えを待つ間、サラと二人きりになったツィツィーは改めて深く頭を下げた。


「本当にありがとうございます。お部屋に、ドレスまで貸していただけるなんて……」

「全然かまわないわ。これでも昔は細かったのよ」


 気を遣わせまいという明るい返事が嬉しくて、ツィツィーは思わず顔をほころばせた。サラはそんなツィツィーの顔を穏やかに見つめていたが、どこか懐かしむように語りかける。


「本当に――あなたが、あの子の女神なのね」

「そ、それは……」

「照れなくてもいいわ。あの子が皇帝になるとすれば、きっとそれ以外の理由がないって思っていたもの」


 いよいよ恥ずかしくなり、ツィツィーは身を縮こませる。あらあらとサラは笑うと、再び感慨深く目を眇めた。


「遅くなったけどお礼を言わなくちゃ。――あの子を助けてくれて、ありがとう」

「助けて……って、私がですか?」

「ええ。あの子が今日まで生きてこられたのは、きっとあなたのおかげ」


 ガイゼルを引き取ると決まった時、フォスター夫婦は憂慮しかなかったという。皇位継承権はあれど後ろ盾はない。

 おまけにめっぽう頭が切れ、剣の腕は大人に引けを取らない。さらには母親の死に泣きもしない化け物だと聞いていたからだ。


 


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