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陛下、心の声がだだ漏れです!  作者: シロヒ
第二部

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第一章 14


「皇妃殿下は宝石がお好きなのですね」

「え?」

「あの『レヴァナイト』を見出したことももちろんですが、今身に着けておられるものも、相当希少なものでは?」


 宝石商の目利き通り、ツィツィーが身に着けているのはイエンツィエでしか産出されない大変珍しい宝石で、ガイゼルがツィツィーのためにわざわざ用意してくれたものだった。

 ガイゼルが手ずから着けてくれたことはもちろん、この指輪には窮地を助けられたこともあり、ツィツィーにとってかけがえのない宝物となっている。

 宝石商の言葉を受けて、ツィツィーは照れたように微笑むと、慈しむようにそっと指輪を撫でた。


「はい。大好きな方からいただいた、とても大切な指輪です」


 するとちょうど背後で、ガイゼルがひとり咳き込んでいた。何も触れてくれるな、というガイゼルの意思を察したツィツィーは、風邪かしらと不安になりつつも、曖昧な笑顔を宝石商へと向ける。


 やがて展示品の半分ほどを巡ったところで、ツィツィーは一つのケースに注目した。白いクッション地の台座はあるが、中央には何も置かれていない。

 代わりに台座の端に小振りの装飾品が並んでいた。


「あの、ここには何があったのですか?」

「ああ、これこそがレヴァナイトが収められていたケースですよ。隣にあるのは、同じレヴァナイトで出来たイヤリングです」

「同じレヴァナイト……ですか?」

「はい。カットする際、一部が欠けてしまったらしく、せっかくだからと職人が仕立てたそうです」


 宝石商の言葉を聞きながら、ツィツィーはガラスケースの端に置かれたイヤリングをしげしげと眺めた。

 耳に触れる部分は銀細工で、涙型の宝石が下がっている。かなり小さかったが、その深みのある青色は間違いなくレヴァナイトだろう。


(すごく綺麗だわ……)


 もちろんここに来るまでに見た数多の宝石も、どれも素晴らしいものばかりだった。だがツィツィーは何故かこのイヤリングから目が離せなくなってしまう。するとほんのわずかな――リン、と輪を描くような音がツィツィーの耳をかすめた。


(今の何かしら? 心の声にしては聞いたことが無いような……)


 もう一度聞こえないかしら、とツィツィーはさらに熱い視線をイヤリングに向ける。するといつの間にか隣に来ていたガイゼルが、ケースに張り付くツィツィーを横目に、腕を組んだまま事も無げに呟いた。


「それが欲しいのか?」

「え? あ、いえ! ちょっと気になっただけです!」


 とんでもない、とツィツィーは首を振った。値札はないが、おそらく付いていないのではなく――付けられないほどの品物なのだ。

 ガイゼルの視線を気にしつつ、ツィツィーはなおも先ほどの音を探る。だがどれだけ耳を澄ましても、しんと静まり返ったままだ。


(気のせいだったのかしら……)


 ケースの前で粘るのを諦めて、ツィツィーとガイゼルは残りの鉱石たちを見て回った。

 五キロはあるだろう加工前の原石や、先代の皇妃殿下に寄贈された指輪の双子石など、宝石商の丁寧な説明を聞きながらそれぞれじっくりと堪能する。

 やがてすべての展示品を確認したところで、ツィツィーははあと息を吐きだすと、宝石商に深く礼を述べた。


「ありがとうございました。おかげで勉強になりました」

「こちらこそ。もし気に入りの品がございましたら、いつでもお申し付けくださいませ」




 その後宝石商とガイゼルが何かを話していたが、ものの数分で完結したようだった。今日の宿泊先に向かう道中、ツィツィーはガイゼルにも感謝の気持ちを伝える。


「あの、ありがとうございました」

「何がだ」

「私が言い出すと思って、先に連絡をしておいてくださったのかなと」

「俺も行く予定だった。別にお前のためというわけでは……」


 冷たく言い捨てようとしていたところを、ガイゼルは少しだけ躊躇った。ううん、と不自然な咳をすると、微苦笑を浮かべる。


「……喜んでもらえたなら、何よりだ」


 その反応に、ツィツィーは胸の奥が熱くなるのを感じた。


 最近気づいたことなのだが、ガイゼルはツィツィーに向ける言葉を、以前より優しくしようと努力しているようだった。二人きりの時にはそうでもないが、他人がいる場や普段のガイゼルは、いまだに冷たい物言いをすることが多い。


 もちろんツィツィーはガイゼルの本心を知っているため、彼の口から出る言葉がすべてだとは思っていない。

 それでもガイゼルはガイゼルなりに、ツィツィーとどう向き合っていくのかを模索してくれているのだろう。


 やがて一軒の邸に到着した。

 王族が赴任した際に使用される場所らしく、石造りの重厚な建物だ。二階建ての白壁で出来ており、本邸には遠く及ばないものの、レヴァリアの街中では一、二を争う大きさかもしれない。

 門を抜けると広大な中庭と噴水が出迎えてくれた。先導してくれる使用人の後に続いていくと、立派な正面玄関に到着する。ガイゼルはツィツィーだけを邸に送った後、すぐに踵を返した。


「俺は今から別の仕事がある。先に休んでおけ」

「はい。分かりました」

「夜には戻る」


 ガイゼルは微笑を浮かべると、再び市街地へと戻っていく。その背中を見送りながら、ツィツィーもまた嬉しそうに目を眇めた。




 

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