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陛下、心の声がだだ漏れです!  作者: シロヒ
第二部

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第一章 12


 一夜明けた午後。

 ツィツィーはガイゼルに連れられて、王宮を訪れていた。目指すはもちろん宝物庫だ。


 王宮はガイゼルの他、大臣や貴族たちが国務を取り仕切る場所であるため、ツィツィーもほとんど訪れたことはない。

 例外としてお披露目式や、今準備を進めている結婚式などの儀礼式典は、王宮に付随する施設で行われることがほとんどだ。


 ツィツィーたちが長い渡り廊下を奥に進んでいくと、一つの大きな建物へとたどり着いた。入口には頑丈そうな錬鉄の扉と数人の守衛。

 そして一際目立つ体格の男がおり、正体を知ったツィツィーは思わず声を上げる。


「ディータさん! どうしてここに?」

「さんは不要だ。久しぶりだなツィータ。いや、皇妃殿下か」


 かつてガイゼルとツィツィーが王都を追われた際、助けてくれた命の恩人がディータだ。

 先代ディルフ王の覇権を支えた一人だったのだが、いつしか戦いばかりを繰り返す彼の方針についていけなくなり、イシリスの奥地で隠居生活を送るようになった。


「アンリちゃんは元気ですか?」

「ああ。今は隣に預かってもらってる。もう少ししたらこちらに来たいと言っていた」


 しかしイエンツィエ侵攻の際、ガイゼルを救うためにその力を奮ってくれた。そのまま一度はイシリスへと戻ったものの、新政権を組み立てる際にガイゼルとツィツィー揃って着任をお願いしに行ったのだ。

 当初は難しいと思われていたが、他ならぬ二人の説得の甲斐もあり、一年の内半分だけ騎士団の顧問として顔を出してくれることになった。


 本当は再び騎士団長としてお願いしたいのだが、ディータのいる村は働き手の数も少なく、冬になると一気に厳しい生活環境になる。そのため冬の間は集落に戻る、という条件が出されたのだ。


 もちろん、住民たちの状況を誰よりも知っているツィツィーとガイゼルは、それは当然だとすぐに了承した。


「今日はこちらでお仕事なんですね」

「いや、わざわざ陛下から呼ばれてな。なんでも保険だと」

「保険?」


 どういう意味だろうとガイゼルを振り返ると、彼はわずかに言葉を濁した。


「その、だな……万一昨日のようなことが起きた場合には、俺を止める相手がいるだろうと」

「そ、それはたしかに……」


 あの時はガイゼルの必死の抵抗で事なきを得たが、また次も同じ方法で解決できるとは限らない。

 もしもガイゼルが自力で解除出来なかった場合、ディータによる鉄拳制裁が炸裂する――と、想像しただけでツィツィーは身震いした。


(絶対に何も起こりませんように……)


 ガイゼルが事情を話していたため、入り口には儀典長の姿もあった。四人揃ったところで、宝物庫の扉が開かれる。

 足を踏み入れると、中は整然とした空間が広がっていた。鎧や盾、儀式用の大剣や斧など、荒々しい品物がずらりと並べられている。さらに進むと絵画や食器、豪奢な装飾の家具なども現れ、ツィツィーは歩く足取りをしっかりと確かめた。


(うっかり壊しでもしたら、弁償しきれないわ……)


 大国ヴェルシアの宝物庫。

 当然他国からの戦利品や、美術品も数多く持ち込まれているのだろう。その値段は――いや、そもそも値札が付けられない可能性が高い。

 そろそろと進んだその先に、一際目立つ金庫があった。


 大きな錠前と数字の書かれた取っ手がついており、儀典長が一歩進み出ると、慣れた様子で鍵を差し込んだ。取っ手を何度か回転させると、かちりとかすかな音がして、分厚い鉄の扉が隙間を生む。

 ぎぎ、と古めかしい音を立てながら開いたその先に、問題の宝石は眠っていた。


「陛下、こちらでございます」

「ああ」


 手渡された箱を前に、ガイゼルは何かを考えているようだった。うっかり宝石を見てしまわぬよう儀典長とディータを下がらせると、ツィツィーに視線を送り、そっと蓋を開く。

 中には昨日と変わらない様子の『レヴァナイト』が眠っており、光の少ない庫内でも淡い燐光を発していた。


「やっぱり、おかしなところはないですね……」


 だがどうしてもツィツィーの疑惑は晴れない。

 こっそりガイゼルに視線を向けるが、こちらも今日は異常ないらしく、鉄紺色の瞳がただ静かに宝石の青を映しとっているだけだった。

 ガイゼルは蓋を戻し、儀典長へと返す。


「この宝石が取れたのは、レヴァリアといったか」

「左様でございます」

「……」


 するとガイゼルはしばらく口元に手を当てていたが、やがてツィツィーに向けて問いかけた。


「ツィツィー。この後の予定は」

「え? いいえ、特には……」


 するとガイゼルはよしと答えた後、ディータに告げた。


「悪いが俺の馬を用意してくれ。今からレヴァリアへ向かう」







 ガイゼルが突如「レヴァリアに行く」と言い出して一時間後。身支度を整えたツィツィーは、気づくと黒馬の背に揺られていた。

 当然後ろには、手綱をとるガイゼルも座っている。さらに後方には数人の護衛も連れだっていた。


「ガ、ガイゼル様、何もこんな急に……」

「元々レヴァリアに行く用向きもあった。ついでだ」

『……とはいえ、ランディの奴、これ幸いとばかりに仕事を詰め込んで来たな……。イシリスの時もそうだったが、あいつは気遣いとか配慮という言葉を知らんのか……』


 愚痴交じりの心境を聞きながら、ツィツィーは少しだけ安堵した。


(私だけでも調べるつもりだったけれど、まさか陛下が一緒に来てくださるなんて……)


 いくら宝石が気になるとは言え、ツィツィーの単なる思い込みかも知れない。そんな不確かな疑惑に周囲を巻き込みたくないと、ツィツィーは一人で『レヴァナイト』についての情報を集めるつもりだった。

 だがガイゼルはツィツィーの拙い推論を信じてくれたのだろう。こうしてわざわざ馬を駆って、レヴァリアへと足を向けてくれるのが何よりの証拠だ。


(ラシーにいた頃は誰も私の話なんて、本気で取り合ってはくれなかったのに……)


 感謝を表すように、ツィツィーはそっとガイゼルの胸に後頭部をくっつける。すると気づいたガイゼルが、ふんと鼻を鳴らしていた。照れ隠しのつもりだろうか。




 レヴァリアは馬車で五日、単騎で飛ばせば三日という距離にあり、途中いくつかの都市で休憩をとった。

 ツィツィーがヴェルシア王族用の別邸や宿泊所で待っている間も、ガイゼルはその要所要所での仕事をこなしており、場合によっては結構な時間まで働いていることもあった。


 用向きがあったとは言え、どうやら実際はかなりの強行軍だったらしく、ツィツィーはガイゼルに頭が上がらない思いだった。

 だが当のガイゼルは、そうした苦労を一切表に出すことなく、ただ淡々と日中は馬を走らせ、街では仕事をこなしていく。


 そうしてレヴァリアに着いたのは、王都を出てから四日目の昼だった。太陽が頭上でさんさんと輝いており、乾燥した空気が肌に心地よい。

 一帯は植物が少ないのか、ヴェルシアの青々とした山とは異なり、赤い土がむき出しになった土壌が広がっていた。



 

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