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陛下、心の声がだだ漏れです!  作者: シロヒ
第二部

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第一章 5


 嬉しさに顔をほころばせるツィツィーを見て、ガイゼルは再び目を細めた。空になったバスケットをテーブルに置くと、ソファに座るツィツィーを抱き上げる。体が急に浮かび上がり、不安定になったツィツィーは、慌ててガイゼルの胸元を掴んだ。


「では行くか」

「へ、陛下⁉ あの」

「ガイゼルだ」


 どこか楽しそうにガイゼルが繰り返し、部屋の中央で待ち構えていたベッドへと移動していく。シーツの上に優しくツィツィーを下ろすと、ガイゼルは上着を脱ぎ、寝台の脇にどさりと投げ出した。

 そのままシャツ姿になると、緊張しているツィツィーの隣に腰を下ろす。


(こ、心の準備が……!)


 ぎしり、と鳴る木の音が生々しく、耳を塞ぎたくなる羞恥を堪えて、ツィツィーはガイゼルの動向を待った。

 ガイゼルはツィツィーをそっと抱き寄せると、白銀の髪に指を絡めて愛おしむように梳く。


「ツィツィー……」


 やがてガイゼルは、ツィツィーの体を力強く抱きしめると、その肩口に頭を寄せてきた。柔らかい黒髪がツィツィーの鎖骨をくすぐり、思わず声が漏れる。

 そのままシーツに向かって押し倒されたかと思うと、ツィツィーの上にしっかりとしたガイゼルの体重がかかってきた。シャツ越しに伝わる体温がとても熱く、ツィツィーはいよいよ動揺を隠せなくなる。


(こ、ここから一体どうすれば……⁉)


 緊張に身を固めていたツィツィーだったが、待てども待てども次の一手が出てこない。ガイゼルはそこからまったく動かなくなってしまい、どうしたのだろう、とツィツィーはそろそろと彼の顔を覗き見る。

 すると長い睫毛を伏せたガイゼルが、ツィツィーを抱きかかえたまま、すやすやと静かな呼吸を続けているではないか。


(もしかして、寝ちゃった……?)


 少し身じろぎしてみるが、起きるどころかさらに眠りを深めているようだ。

 必死に隙間を作り、なんとか右腕だけ抜け出したツィツィーは、恐る恐るガイゼルの髪に手を伸ばした。

 絹糸のような黒髪は見目の冷たさと違って、心地よい感触を与えてくれる。なおも熟睡し続けるガイゼルの様子を見て、ツィツィーは苦笑した。


(やっぱり、お疲れだったのね……)


 どうやら疲労と睡眠欲が、ここに来て限界を突破したらしい。きっと今日帰ってくるために、普段以上の働きをしたのだろう。

 ツィツィーはそうっとガイゼルの頭を撫でる。起きている彼に対しては絶対に出来ない行為だが、今だけは許されるだろう。


(なんだか少し、可愛いかも……)


 ほっとしたのと同時に、肩透かしを食らった複雑な心情を抱えたツィツィーは、ガイゼルが少しでも休めるようにと、彼の腕の中から逃げ出そうとした。だがどうしたものか、寝ているはずのガイゼルの力は全く弱まる気配がなく、ツィツィーは徐々に不安を募らせる。


(もしかして、……また?)


 寝入った彼の頑強さを嫌というほど思い知っているツィツィーは、はあとため息をついた。こうなればもう無駄な抵抗だろう。

 諦めたツィツィーは唯一自由になる右手で、ガイゼルの前髪をかきわけると、触れるか触れないかという口づけを落とす。


「おやすみなさい、ガイゼル様……」


 優雅な黒豹をあやすように、ツィツィーは何度かガイゼルの髪に触れる。やがて彼の頭を抱き寄せるようにして、自らも瞼を閉じた。






 翌朝目覚めると、ツィツィーはガイゼルの腕の中にいた。

 いつの間にかふわふわの毛布が肩までを覆っており、一人で寝ている時よりもずっと暖かい。夢うつつの状態から起きようとしたツィツィーだったが、目の前の光景にはたと硬直した。


(へ、陛下の顔が、近い……)


 以前の同衾では背後からだったので、さほど気にしていなかったが、今回はしっかりとガイゼルと向き合う形で抱きしめられていた。一体いつ体勢を変えたのかしら、と挙動不審になりながらも、懸命に少しずつ距離を取る。

 するとツィツィーの動きに気づいたのか、ガイゼルもうっすらと目を開いた。美しい鉄紺色の瞳がちらりと覗く。


「……ツィツィー?」

「ガ、ガイゼル様……」


 ツィツィーが恐る恐る見上げると、ガイゼルはふ、と口元をほころばせた。だが解放するどころか腕に力を込め、離れようとするツィツィーをより強く引き寄せる。

 銀の髪に嬉しそうに唇を寄せるガイゼルに対し、先ほどから彼の胸元に顔を近接させられているツィツィーはたまったものではない。


(か、体が、触れて……)


 シャツを隔てているとは言え、襟元は大きく開いており、露わになっている素肌が目の毒だ。しなやかな筋肉の感触にツィツィーが困惑していると、ようやくガイゼルが口を開く。


「……おはよう」

「お、おはよう、ございます……」

「……ん」

『朝起きて一番にツィツィーがいる……なんて幸せなんだ……』


 目を眇めて微笑むガイゼルの寝起き姿と、喜びを露わにする心の声に、ツィツィーは一瞬で真っ赤になった。

 そんな様子に気づいたのか、ガイゼルはツィツィーの首元に手を添わせると、髪の間に指を滑り込ませるようにして上向かせる。抵抗する間もなく口を塞がれ、ツィツィーは慌てて目を閉じた。



 

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