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3話

夜10時半。この時間帯になってもこの街は騒がしい。俺が住んでいる場所から少し離れた都心の象徴のような街は夜のない街と呼ばれている。夜の時間帯こそがもっとも活気のある騒がしい時間帯だからだ。昼間に活気がないわけではない。昼間は夜に比べれば比較的穏やかで静かだが、東側と南側は会社や学校やショッピングモールがあり活気に溢れている。しかし、夜の活気はベクトルが違う。この街の闇が顔を覗かせる。駅の方はまだいいが、奥に入るにつれ空気が危うい。


 


その象徴ともいえる場面に俺は今まさに出会っていた。


 


 


 


 


「一緒に来てもらおう。手荒な真似はしたくない」


 


「イヤっ、離してください!」


 


「チッ、静かにしろ!」


 


サングラスの男たちが一人の少女を壁に押さえ込もうとしている。少女が必死に抵抗しようとするが、逃れられない。恐らくは身体強化の能力。男は拳銃を取り出し、少女の目前に突きつける。


 


少女的には絶体絶命だろう。しかし、どういう状況だろう。もしあの拳銃が本物で実弾を装填しているとなると彼らは一般人ではないのだろう。まあ、それ自体は問題ではない。ここはそういったやつらがいる場所でもあるし、あの秘密基地ごっこのせいでマジ物のやつらに会うことも何回かあった。ただ、不自然なのは少女の格好だ。見間違いでないのなら、確実にうちの学校の制服だ。


 


普通に暮らしていれば、こんな状況には陥らないだろう。…まあ、でも事情を知らない俺が何かするのはあまりよろしくない。


 


「っ、誰だ!」


 


なんて考えているうちにばれてしまった。


 


「た、助けて!」


 


「あー……」


 


必死に助けを求める少女。そういえば一度、見たことがある。白い髪、しなやかな四肢、整った顔立ち。確か、特待生の一人だったな。かなり美少女だったから、噂になっていたはずだ。


 


「チッ…目撃者だ。消せ」


 


「了解」


 


ガタイのいいほうの男が、細身の男に言われて拳銃を構える。


 


「まあ、そうなるよな」


 


咄嗟に近くの電柱の裏に隠れる。


パァン!という発砲音と共に電柱に弾丸が着弾し電柱がはじける。


 


通常、能力者は普通の人間よりも体が頑丈にできており、拳銃程度なら当たっても死にはしない。そして身体能力と頑丈さは能力強度の上昇に比例する。つまり能力者として高みにいればいるほど身体能力も体の強度も上がる。ちなみに俺以外の孤児院組は何処のびっくり人間だというぐらいに丈夫だ。たとえ、拳銃の銃弾を眉間に当てられてもケロリとしているだろう。普通は脳震盪で気絶する。まあ、何が言いたいかというと怖いものは怖いので帰りたいということだ。


 


「チッ、らちが明かないな!」


 


ガタイのいい男が、拳銃で牽制しながら近づいてくる。流石にまずいので、移動しようと試みるが時すでに遅く、俺が間合いに入った瞬間、バタフライナイフで俺を切りつけてきた。


 


ヒュン!!


 


そんな風を切る音と共に俺の顔へと迫る。危ねぇぇぇぇー。首を動かして間一髪……何とかかわした。髪を掠めちゃったじゃねえか!!!我ながらよく今の攻撃躱せたな……いや落ち着け。表情に出すな。いつも通り困ったときはポーカーフェイスだ。大丈夫だ、孤児院のびっくり人間と比べれば、全然遅い。


 


耳元で唸りを上げて風が吹き抜けた。繰り出された右ハイキックは虚空を打ち抜き、通り過ぎる。ガタイがいいわりに俊敏な動きをするもんだ。


 


「クソッ、何で当たらねえ!?」


 


間一髪で攻撃を躱し、内心ではビビりまくっている俺に対して、相手も焦りを感じてきたようだ。攻撃が単調になってきている。確かに長期化すればするほど、不利になるのは奴らだ。できればもっと焦ってほしい。思い出せ…俺の大好きな悪役ならこんな時なんていう?


 


「…こんなものか?威勢だけは立派だな」


 


「な、なめてんじゃねえぞッ!」


 


振りかぶった腕が赤く発光する。


 


「オラッ!!!!!」


 


先ほどとは比べ物にならない威力の拳がアスファルトを粉砕する。


 


「やっぱり、能力者か」


 


「逃がすかぁッ!」


 


突進してくる男を避けようと膝を曲げた瞬間、何かを踏んだ感触と共に視界がぐるんッと回転する。気が付けば、泡を吹いて足元に男が転がっている男の上に俺が立っていた。………どういう状況だ?


 


 


 


 


 


 


 


 


私は驚きで開いた口をふさぐことができなかった。視線の先には、自分と同い年くらいの少年と狂暴そうな男が戦っている。男の屈強な体から繰り出されるラッシュを全て最小限の動きで避け続ける。少年は眉一つ動かすことなく終始相手を見下したかのような顔で、避け続ける。そんな光景が、先程から幾度も繰り返されている。


 


訳も分からず男たちに追われ追い詰められ、もうダメかと思ったところに飄々と現れた少年。正直、助けを求めてから後悔した。何の関係のない人を巻き込んでしまったからだ。隙を見て逃げてくれることだけを祈っていた。だけど、結果はどうだ。彼は一度たりとも攻撃を受けることなく制圧してしまった。それは、学校の先生が組み手で見せるどの動きよりも洗練された動きに見えた。


 


「これは予想外だな……身体能力以外は全く取り柄のない男だが、こうもあっさりと制圧されるとはな。鮮やかな二連撃だ。蹴り上げた空き缶を囮に、バク中気味で顎を蹴り上げ、上から踏みつける。加えて能力も使っていた様子もない、もはや遊んでいるようにも見えた……とても、素人技ではないな。お前、何者だ。お前の狙いもこの女か?」


 


私を人質のようにしながら、細身の男が低い声で問いかける。聞いているだけで、足が震える恐ろしい声だ。


 


「お前の狙いは本当にその女なのか?」


 


「何?」


 


「お前が欲しいのはもっと別のものなんじゃないかなと思ってな」


 


「ッ…死ね」


 


瞬間凄まじい熱が私の頬をなでた。私の顔の横を通り抜け、無数の炎の弾丸が彼に迫る。


 


「よけてぇ!!!」


 


咄嗟に声を上げるが、彼は動かない。誰か…彼を助けて!!!


 


 


 


 


 


 


 


 


 


なんだかよく分からない状況だ…炎の弾丸をみて使わざるをえない・・・・・・・なと思っていたところで白い光が視界を覆いつくし、気が付けば少女を人質に取っていた男は倒れ、少女も気絶している。…俺の処理能力を超えている気がする。こういうとんでもない事態にはとんでもない人間を頼るに限る。というか、この問題を放置しておくとろくなことにならないと俺の勘が叫んでる。


 


「久しぶりに会いに行くかね…あいつらに」

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